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第30話 ポーション(超生命力回復)の力

【ポーション(超生命力回復)《メガライフパワーチャージ》】


 青い光を放つ1本の瓶。

 俺が現状で作れる最高の回復ポーションだ。


「よし、エトラシア。ユリカの頭を支えてくれ」

「ああ、クレイ殿。ユリカ、ユリカ……口をあけてくれ」


 俺はポーションの瓶を片手に、ユリカの顔を覗きこむ。

 虚ろな瞳で、焦点もあっていない。


「やはり強制的に飲ませるしかないか。エトラシア」


 俺はポーションの瓶をエトラシアに渡しながら言葉を紡ぐ。


「口移しで流し込むしかない。強引だがやってくれ」


「ああ、クレイ殿が作ってくれたポーション。絶対に無駄にはしない」


 そう言って、ポーションを口にふくみ妹の唇に押し付けるエトラシア。

 どんなポーションでも飲まなければ効果は発揮しない。


 エトラシアが少しづつポーションをユリカの口に含ませると、ユリカの身体に変化が現れる。


「ク…………フ……」


 ユリカの体に微かな息遣いが戻ってきた。


「…………コフっ……コフっ……」


 何度目かに唇を押し付けられたユリカが小さくむせる。


「ゆ、ユリカ! ユリカ!!」


「……うっ……あ……」


 エトラシアの声に、ユリカの瞳に光が宿りはじめた。

 よし、意識が戻ったな。


「エトラシア、残りはユリカ自身で飲ませたほうがいい」


「ゆ、ユリカ! 飲んでくれ! ユリカ!!」


「え?……お、おねえちゃ……ん」


 ユリカの上半身を支えて、ゆっくりと残りのポーションを飲ませるエトラシア。


「ふぅ……なにこれ……体が……あったかい……」


 ユリカの外傷はみるみるうちに消えていき、自らの力で上半身を起こしていられるようにまで回復した。


「わ、わたし……オークに……殴られて……あ……れ」



「もう大丈夫なんだ! ユリカ、すまなかった!」



「お、おねぇちゃ……うううぅう……」


 しっかりと抱き合い、生を確かめ合う姉妹。



「ふふ~~良かったですね、エトラシアさんユリカちゃん」

「元気になったです! ユリカさんはじめましてです」


「おねえちゃん……この人たちは?」


「ああ、ワタシの大事な仲間だ。みんながワタシとユリカを救ってくれたんだ」


 エトラシアが頭を下げて、俺たちに礼を言う。妹も礼を言い立ち上がろうとするが、俺は手をあげて制止した。


「完全回復したとはいえ、すぐに動かないほうが良いだろう。しばらく休んでいてくれ」


「は、はい……えっとクレイ様、本当にありがとうございました」


「ああ、礼はもういいぞ。あと様なんていらんよ。クレイでいい」


「は、はい、クレイ様。この小瓶て……エリクサーなんですか?」


 ユリカがポーションのカラ瓶を手にして俺を見る。


「ユリカ、それはクレイ殿が作ったポーションなんだ」


 俺のかわりにエトラシアが口を開く。


「ええ? ぽ、ポーションなんですね……す、凄い……」

「クレイ殿の作るポーションは本当にとんでもない代物だな」


 姉妹の視線が再び俺にむいた。


 俺が今回作ったポーションは、歴代最高の回復ポーションだからな。



「当然だ。俺のポーションはエリクサーにもひけはとらん」





 ◇エトラシア視点◇



 ワタシたちはオークの巣を出て、適当な野営地を探していた。

 巣から出るとほとんど日は落ちかけており、さすがに町に戻る時間はない。


 妹は信じられないぐらいの回復を見せて、なんとワタシたちと一緒に歩いている。


 今はラーナ殿とリタ殿と楽しそうに会話しているユリカ。


 まさかこんな最高の結果になるなんて……


 クレイ殿……


 良く分からない胸の鼓動を抑えつつ、ワタシは少し先を行くクレイ殿に追いついて横に並ぶ。


 この男が妹を救ってくれた。


 エリクサーでもないポーションで。


 いまだに夢かと思ってしまう。

 いや、もしかしたら夢なのかもしれない。


「クレイ殿、本当に感謝する」


「もう礼はいらないぞ。さっきから何回言う気だ?」


 そう言って、ため息を漏らすクレイ殿。


 だが、湧き出てくる感謝の気持ちが抑えきれずに……何度でも言いたい。それがワタシの本心なんだ。

 そしてその後に込み上げてくる別の感情。


「結局ワタシは役に立てなかった……」


 これだ。この情けない感情、消そうとしてもすぐに出てしまう。


「あのな……」


 クレイ殿が若干呆れた顔でこちらに視線を向けた。

 こんなウジウジした女。彼は嫌なんだろうな……。


「さっきも言ったが、エトラシアの持って来た素材がなければポーションは作れなかったんだぞ」

「だ、だが! 持って来たと言っても単にひっついていただけじゃないか!」


 あれ、なぜだ? なぜワタシはクレイ殿にこのような口の利き方をしている。

 それになんだか胸の鼓動が……おかしい……なんだこれは?


 そんなワタシに対して、クレイ殿は嫌な顔もせず淡々と話を続ける。


「持って来たのはおまえだ。エトラシア」

「そ、それは結果論であって……道中迷いまくって、転びまくって、色んな失敗をしたから」


「ならばそれが結果として、不滅草(ふめつそう)の種子が付着したんだ。幸運を呼ぶのも実力のうちだ」

「オークにも吹っ飛ばされて、妹をさらわれてしまったし」


「だがおまえは死ななかったぞ。常人なら即死だよ」

「そ、それはワタシが多少頑丈だったから……」


「エトラシアが生き残ったからこそ、俺たちがここにいるんだろ?」

「うっ……ま、まあ……」


「もし吹っ飛ばされておまえが死んでいたら、そこでジエンドだ。俺たちと会うこともできん。

 だからな――――――


 ――――――おまえのやってきた鍛錬は無駄なんかじゃない」


 ……っ!


 クレイ殿の言葉おわった瞬間、ワタシの体からなにかがスッと消えていった。


 もう、あの嫌な感じはほとんどしない。


 ああ、ワタシはクレイ殿に認めて欲しかったんだな。

 偶然にも素材を持って来たとかではなく。自身の力を。


 だが、結果的にクレイ殿はワタシを認めてくれていた。



 そうかこの高まる胸の鼓動は……



 クレイ殿が、私の心の拠り所であるエリクサーの変わりになってくれた。


 クレイ殿が、私を少しでも認めてくれた。


 心の拠り所に認められたい。


「だがなエトラシア……おまえはまだまだポンコツ騎士だってことは、忘れるなよ」


「くっ……だ、誰がポンコツだ!」


 口ではそう言ったが……

 少し怒ったように頬を膨らませてみたが……



 もうワタシ胸の鼓動はずっと止まらなくなっていた。



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