第28話 女騎士エトラシア視点、転生王子に言い放たれる「おい、エリクサーなんかいらん。俺に任せろ」
◇女騎士エトラシア視点◇
オークの巣に足を踏みいれたワタシたち。
恐らくここに妹のユリカがいる。
ようやくたどり着いた。
「ユリカ……どこだ! どこにいるんだ!」
「エトラシア、気持ちは分かるがあまり大きな声を出すな。ボスは仕留めても他のオークがいるかもしれん」
「あ、ああ……すまないクレイ殿」
私の肩にそっと手をかけて、小声で話しかけるクレイ。
彼は常に冷静だ。
特に魔の森に入ってからは、全てにおいて的確な判断をしている。
クレイ殿はたしか19歳のはず。17歳のワタシと2歳しか違わないというのに大きな差を感じる。
元王子らしいがそれにしても落ち着いているし、自身のペースを常に保っている。
ワタシもクレイ殿のようになりたかった。
冷静さと判断力、そしてチームをまとめる能力を備えたリーダー。
「みんな止まれ―――」
クレイ殿がみなの前進を止める。
「うっ……クレイ殿。これは……」
「オークだな」
私たちの目のまえに広がった光景は、血と肉片まみれのおぞましいもの。
そこにはオークの死骸が散乱していた。
「ひっ、ひぃいいん。クレイさん……」
「ご、ご主人様……」
ラーナ殿とリタ殿は死体に目を背けて、クレイ殿の手を掴んでいる。
「な、なんだこれは? 共食いでもしたのだろうか?」
「いや、オークは同種族を食べない。恐らくは反乱をおこしたんだろう。失敗におわったようだが」
「反乱だと?」
「ボスであるアイスオークに勝負を挑んだのだろう。あいつは特殊個体としてもかなり強かったからな、群れの独裁がすぎたのかもしれん」
「そんなことがあるのか……」
「強すぎる個体がリーダーとなると、獲物を痛めつける際に加減ができないことが多い。そうなると部下たちに獲物が回らなくなる。反乱の原因はこれが多いな」
加減が出来ない……
ワタシに嫌な予感が走る。
「恐らくこの巣にはもうオークはいないだろう。急ぐぞ」
「あ、ああ。クレイ殿」
頼む! 無事でいてくれユリカ!
だがワタシのその思いは無残にも打ち砕かれた。
しばらく前進したワタシたちのまえに現れた大きめの空間。その冷たい地面に……
「――――――ユリカ! ユリカぁああ!」
遂に見つけたワタシの妹。
だがその姿は目を背けたくなるようなものだった。
体中があざだらけで、至る所に出血のあとがある。
その綺麗な瞳は虚ろで、ワタシを見ているのかも分からない。
「こんなの……ひ、ひどい……クレイさん」
「か、可哀そすぎです、ご主人様」
クレイ殿が妹の胸に耳をあて、さらに手の脈拍を計っている。
「ユリカ! ユリカぁあ! ユリカぁああああ!」
ワタシの問いかけに応えてくれ! お願いだ!
「エトラシア落ち着け―――まだ息は」
クレイがなにかワタシに声を掛けてるようだが……もうなにも聞こえない。
なぜこんなことになってしまった……
全部ワタシが悪い。ワタシの責任だ。
父上と母上が事故死して、当家はワタシと妹だけが残された。
初めは周りのみなも優しかったが、少しずつその雰囲気は変わっていく。
ワタシがしっかりしていなかったから。
なにが騎士になるための鍛錬だ。筋トレばかりして剣を振るばかり。そんなことをしても人をまとめることも、ひきつけることもできない。
そしてある日、最悪の事態が起こった。
もっとも信頼していた執事と我が家をサポートしてくれていた男爵が結託して、我が家を乗っ取ったのだ。
ワタシと妹は……犯されそうになったが、命からがらなんとか逃げることができた。
逃げたはいいが身体が頑丈だったワタシはともかく、大人しくて普通の女の子である妹に長旅はきつい。
どこにも行くあてがなく、限界を感じたワタシはやむなくフロンドへ向かうことにした。あそこならば身を隠しつつ細々と2人で生きていけるだろうと。
だが町へ向かう途中で、あのオークに襲われた。
必死で抵抗したが、ワタシは吹っ飛ばされて木の上で気を失っていた。頑丈だけが取柄だったから死ななかったのだろう。
しかし、妹はオークにさらわれてしまった。
もう嫌だ……なんど間違えればいいんだワタシは。
ワタシのせいで妹はこんな姿になってしまった。
エリクサーさえあれば。
あれば……救えるのに。
エリクサー。幼少の頃、病気がちだったワタシの体を治してくれた奇跡の薬。
父上と母上が苦労して手に入れてくれた奇跡の薬。
エリクサーを飲んだから、ベッドから外の世界に出ることができた。
エリクサーを飲んだから、ずっと鍛錬を続けられた。
エリクサーを飲んだから、ワタシは安心して生きていけた。
信頼する人から裏切られたワタシは、他人を信用できなくなっていた。
でも、エリクサーは裏切らない。
そのエリクサーは、ここにはない……
腹を括ってこの巣に入ったはずなのに……ダメだ……おかしくなりそうだ。
「うわぁ~~~ユリカぁああああ! クソぉおお! エリクサー! エリクサーさえあれば!!」
ワタシの肩に誰かの手が触れた。
「クレイか……」
「なんて声を出してるんだ。妹の前だぞ」
「だって……妹はもう……エリクサーはないんだ……」
その男はワタシの目をまっすぐに見て口を開いた。
「あのな、エリクサーなんかいらん」
何を言っているんだ?
「ど、どういうことだ」
「妹は死んだわけではないだろう」
「そ、そうだ! だが! だがぁああ!」
「なら何も問題はない。ちょっと待ってろ、お前の妹は必ず助かる」
だから何を言っているんだ?
エリクサーはないんだぞ! どうやって助けるんだ! 最上位のヒーラーもいないんだぞ!
こんなボロボロの妹を。もう今にもこと切れそうな妹を。
ワタシはクレイが何を言っているのか理解できない。
「エトラシア、俺を信じろ。俺はな―――ポーションにだけはウソはつかん」
やはり何を言っているの分からない。
でも……彼の目をみて、本気だということだけは分かった。
アイスオークと戦っていた時よりも真剣な眼差し。
ワタシは理解は出来なかったが、クレイを信じることにした。
「わかった。クレイ殿――――――ユリカを救ってくれ」
「ああ、まかせろ」
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