第27話 伝説の騎士? ちがうな、俺は単なるポーションオタクだ
「ふぅ……終わりだ」
俺は剣を鞘におさめて一息もらした。
額の汗を拭い、【ポーション(体力回復)】をぐっと飲む。
このポーションの組み合わせ、戦闘力に火属性を足して使い勝手はとても良いのだがやはり暑い。
それと体力の消耗が激しいな。
戦闘ポーション単体ですらかなりの体力を持っていかれるが、合成となるとその倍以上疲れる。
しょーがないことではあるのだが、好き好んで使いたくはない。
「ふぁ~~クレイさんってやっぱり凄い……」
「ご主人様、火の剣カッコいいです!」
ラーナたちがこちらに駆けつけて来た。
みんな無事のようだな。良かった。
「な、なんだ……あの剣は……!」
女騎士は荒い息を整えながら、目を大きく見開いて俺を見つめている。
どうしたんだこの子。それ以上開くと目玉が地面に落ちるぞ。
「クレイ殿……あれはただの剣ではないな。いや、そもそも貴殿自身がただ者ではない!」
ええぇ……単に剣に火をつけただけだけど……
「く、クレイ殿……貴殿は伝説の騎士とかなのか?」
「エトラシア、俺はそんな大層なもんじゃない。ただの追放されたモブ王子だよ」
「だ、だが……あんな炎の剣など見たことが無いぞ! 魔法剣とも違うようだし! というか全身燃えてたし!」
エトラシアは俺の手と鞘に収まった剣を見つめ、震えた声で続けた。
「まるで……伝説の騎士そのものではないか! 炎を纏い、敵を焼き尽くすその姿……私は今、この目で英雄を見たのだな!」
いや、モブですけど。
たく、大げさなやつだな。
「ただの剣だよ。ポーションを使ってちょっと派手になるだけさ」
「そんなことができるのは伝説の騎士だけだ! これからは貴殿を【煉獄の炎帝】と呼ぶしかないな!」と、彼女は笑顔を浮かべながら言い放った。
なんだそのイタそうな名前は……
「いや、俺は単なるポーションオタクだよ」
「む、むぅ……」
エトラシアは俺の言葉に納得がいかない様子だが……
単にポーションの効果だよ。
俺は伝説の騎士なんかじゃない。今からそれが、よ~~~くわかるさ。
「―――よし、3人ともしばらく向こうに行ってくれ」
「ど、どうしたんだ? クレイ殿? もしかしてワタシの言葉が気に障ったかのか?」
「エトラシアさん、全然違いますよ。クレイさんは今からある儀式をはじめます」
「ラーナ殿? 儀式とはなんだ?」
「ご主人様、儀式なんかしたことないです?」
ラーナがそれとなく2人を俺から遠ざけてくれる。
気の利く子じゃないか。恩に着るぜ。
「ら、ラーナ殿。そんなにグイグイ押さなくても。本当になにをするんだ?」
「ご主人様どこか具合悪いですか?」
「しょうがないですね、2人にだけ教えますよ。クレイさんは戦闘ポーションを使用したあとにちょっとアレになるんです。具体的に言うと~~アキャの儀式ですね」
おい、なんだその儀式名は。
そんな情けない声は流石に出ないぞ、俺。
「は~~い、だからみなさん~もうちょっと離れましょうね♪
クレイさ~~~ん。もう大丈夫ですよ~~存分にアキャしてくださ~~い」
だからそんなアホみたいな声は出ないって。
ぐっ……きた……!
今回は合成ポーションだから前よりもキツイ……
お決まりの戦闘ポーション使用後の激痛が、俺の体を駆け巡り始めた。
「……ぐぬっ!」
それから数分間、俺の悶絶ショーは続いたのであった。
ちなみに「アキャ」は…………言ってた……。
◇◇◇
「すまなかったな。すぐにでも動きたいところだったが、こればかりはどうにもならん」
「フフ~~クレイさんが頑張ってくれたあかしじゃないですか」
「はいです。ご主人様お疲れ様です」
「みんなの言う通りだ。クレイ殿のには助けられた」
ということで、探索を開始する俺たち。
時刻はちょうどおやつ時の3時を過ぎたあたり。
あのオークは朝に妹をさらったあと、再び巣から出てきたのだろう。とすれば……
「アイスオークは巣から出てそれほど経っていないはずだ。おそらくは近くに巣があるだろう」
「そ、そうかクレイ殿。わかった―――」
と言いながら、歩を速めるエトラシア。
「焦る気持ちは分かるが、見落としのないように全体に視野を広げろ」
うむと頷く女騎士。
アイスオークを仕留めた俺たちは数時間周囲を探索し、小さな丘のふもとに来ていた。
ふもとには洞窟の入り口がポッカリとあいている。
「ようやく見つけたぞ」
オークの巣だ。
夕暮れの光が森の隙間から差し込んでいる。
「エトラシア。心の準備はしておけよ」
「ああ……クレイ殿」
ここで安易に楽観的な事は言えない。
エトラシアの妹がさらわれて、半日以上が経過している。
オークが獲物を楽しむのは夜が多い。
そういう意味では、まだ妹が無事である可能性はかなりある。
ただし、オークはお楽しみのまえに獲物を痛めつける。
獲物が逃げないようにするためだが、巣に持ち帰った時もあれば交配直前にすることもある。
それに俺の言っていることは全て可能性の話で、実際どうなるかなんてオークの気分次第だ。
俺が斬ったアイスオークが巣のボスだろうが、あいつがすでに手を出していたら……ただでは済まない。
俺は一度だけ現場を見たことがある。
完全に地獄絵図だ。その犠牲者が愛する妹だとしたら……
残酷だが、心の準備だけはしておかなければならない。
希望だけを胸に現実を見た時に、エトラシアの心が壊れてしまうかもしれないから。
だから僅かでも軽減できるよう。たとえ無駄であったとしても俺はエトラシアに再度言う。
「エトラシア。全てを背負い込むなよ。俺もいるからな」
「ああ……クレイ殿。だが……妹は無事だよ」
女騎士の瞳は強く輝いていた。そんな目もできるのか……
「そうだな、おまえが言うなら無事だ」
俺のおせっかいはいらんかったかもな。
こいつはすでに腹を括っていたようだ。




