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第24話 女騎士がエリクサーにこだわる理由

「エトラシア! なにをやっている、見せ場だぞ!」

「ああ、クレイ殿! 剣がなくとも騎士の構えはこの体がおぼえている! 安心してくれ!」


 いまにもしこを踏みそうな構えのどこに騎士要素と安心要素があるんだ?


「リタ、とりあえずスペアの剣を渡してやれ」

「はいです! ご主人様!」


 リタに剣を渡されて、謎の構えをといた女騎士。


「かたじけない! 剣さえあればこちらのものだ! ―――いくぞ!」


 エトラシアは剣を構えたまま勢いよくブラックウルフの群れに突撃する。


「はぁ~~~!」

「はぁ~~~!」

「はぁ~~~!」


 うむ、声だけは一丁前だな。


 が、肝心の剣がまったくかすりもしていない。


 なんだろうか、振りの威力はおそらくある。

 だが、良く分からない動きが目立つ。なんかの舞いをまっているかのような? あと、舞うたんびにスカートがな。


「ふぇ!? エトラシアさん見えちゃってます……」

「な、なにがだ! はぁ~~!」


「その……はぁ~~するたんびに全部見えてます!」


「よしエトラシアいったん下がってくれ。これ以上おまえのパンツ祭りには付き合ってられん」


「な、なぁあああ! く、クレイ……み、見るなぁ! くっ……こんな屈辱」


 なにを1人で見せて、1人で赤面している。


 さて……ブラックウルフか。


 一人ならどうとでもなる魔物だが、今はラーナたちがいるからな。


 俺は抜刀して、ブラックウルフたちとの戦闘に入った。

 確実に一匹づつ斬り捨てながらも、周囲に注意を配る。


「む~~ん、です!」


 リタのメイスか。


 彼女は、大きなメイスを振り下ろして近づいてきたブラックウルフ一体を叩き潰した。

 さらに自ら動き、次のターゲットに一撃を放とうとしている。


 大きな武器を持っているにも関わらず、なかなかの動きだ。



「ひゃぁあ~~こっちこないでぇ~~」


 ラーナは聖杖をブンブン振りながらキャアキャア言ってる。


 数分後にはブラックウルフの大半は俺に斬られるか、リタのメイスで粉砕された。


 残りは逃げていく。


「よし、周辺にも殺気はなし……みんなよく頑張った」


「ちょっと緊張したけど、やれたです! ご主人さま!」

「ふぇ~~クレイさん~怖かったよぉお~~」


 リタはじゅうぶん戦力として数えられるな。

 ラーナはまあ普通の反応だ。戦闘経験のない者ならばだいたいこうなる。俺だって初めて森に入った時はビビり散らかしたからな。聖杖を振りまわしていただでけでもたいしたもんだ。


 さて……問題はこの子か。


「くっ……す、すまない……ちょっと緊張してしまって」


 ぺたんと女の子座りで項垂れている女騎士。


「振りはよかったぞ」

「ほ、本当か!」

「当たればなおよしだがな」

「う……ワタシは鍛えるのは好きなんだが、実戦はほとんど経験したことがないんだ」


 なるほど、筋トレマニアか。


「これでわかっただろう。1人で魔の森に入るなんて無茶をするんじゃない」


「ああ……クレイ殿の言うとおりだ。いつもワタシの考えは甘いんだ……気持ちだけが先走ってしまう」


 ふむ、素直に気持ちを吐いたか。

 現実を見て、認識を少しでも変えることができるのはなかなか出来ないことだ。


「次は深呼吸してから剣を抜いてみろ。多少はマシになるはずだ」

「ああ! クレイ殿!」


 立ち上がって、俺の手を取るエトラシア。


「ちなみに、もう一度やってみてくれ」

「え? なにをだ? クレイ殿」

「あの「はぁ~~っ!」てやつだよ。何故ゆえにパンモロになるのかすげぇ気になる。動きとして無理があるからな」


「だ、誰がパンモロだ! この変態!」


 赤面するエトラシアだが、やってくれないことには指摘のしようがない。とりあえず数回舞ってもらった。


 …………う~~ん。


 いちいち飛び跳ねる必要はないな。


「よし、「はぁ~~っ!」は叫んでいいが、舞うな。素直に振り下ろせばいい」

「わ、わかった……が、頑張る」


 これで全体の戦力は把握した。


 エトラシアの妹を救い出すのであれば、オークとの戦闘は避けれれない。

 オークはさきほどのブラックウルフよりもはるかに大きく、力も強い。俺も素材集めの際に何度か戦闘は経験したが、けっこう手強い。


 素材探しのみであれば、ぶっちゃけ戦闘は避けるんだが。

 今回はそう言うわけにはいかないからな。


「みんな、ケガはないか? なければ先を急ぐぞ」


 リタとラーナはコクリと頷く。

 エトラシアは俺の横について歩き始めた。


「そう言えば、エトラシアはエリクサーを飲んだことがあるのか?」


 この子は店に来たときからエリクサーを欲していたからな。

 庶民が手にすることはなかなか出来ない高級品だが、彼女は元貴族令嬢だし飲んだことがあってもおかしくはない。



「ああ、クレイ殿。ワタシは昔エリクサーに救われたんだ」



 彼女はじっと自分の手を見つめて、そう呟いた。


「ワタシは幼少の頃は体が弱くてな。ずっと寝室から出たことがなかったんだ。窓から屋敷の庭で訓練する騎士を見て、とても羨ましかったよ」


 病弱だったのか。


 いまの筋肉で引き締められたエトラシアの体をからは、あまり想像がつかない。



「高熱にうなされる日々が続いたことがあってな。医師の「もう長くはもたないだろう」いう言葉が漏れ聞こえたんだ。結局一度も外には出られなかったな……となかば諦めていたんだが。


 ――――――父上と母上がエリクサーを手に入れてくれたんだ」



 なるほど、エリクサーは貴族といえどもそう簡単に手に入る代物ではない。

 たぶんエトラシアの為に苦労して手に入れたのだろう。


 両親に愛されていたんだな、この子は。


「効果は凄かったよ。熱も引いて、体力も戻って。

 それどころか、なんと外にまで出られるようになったんだ。いまではこの通りだ」


 そう言うと、エトラシアは力こぶを作ってみせる。



「だから――――――ワタシにとってエリクサーは恩人なんだ」



 感謝と懐かしさが滲んでいるかのように微笑む女騎士。


「そうか、エトラシアがエリクサーにこだわる理由がわかったよ」

「ああ、ワタシも久しぶりに昔を思い出した。だが、今は妹を探さないと」


「そうだな、オークはそこまで巣からは離れないはずだ。だから奥地に行く前に……!?」



 なんだ? この気配……



「ふぇ? クレイさん、なんか寒いです」

「この周辺だけ霜ができはじめてるです! ご主人様!」


 2人の言う通り、ひんやりとした冷気が当たり一面に広がりはじめた。


 森の奥から黒い影が近づいていくる。


「く、クレイ殿……あれは! あ、あいつだ! 妹をさらったやつだ!!」


 オークだ。


 ただし、通常のオークではない。


 白い巨体に、体中から漏れ出る冷気。


 なるほど。特殊個体かよ……そういうことは先に言ってくれエトラシア。


 これは久々にこいつの出番かもな。



 俺はポーチから黒いポーションを取り出した。



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