第20話 思ってたより悪くない町
さあ~~きました。
「―――結果発表ぅうう!」
ワクワクワクワクぅ!!
「おい、バッドっていったなおまえ! どうだ! どうなんだ!」
俺は地面に尻もちをついているバッドの肩を揺らした。
「ちょ、クレイさん揺らしすぎですって! 飲んだポーションが出ちゃいますよ!」
いやいや、あれだけいきってたんだ。多少は根性みせろよ。
「うぷっ……はぁ、はぁ……」
「気分はどうだ?」
「無理やりポーション突っ込まれたのは最悪だぜ……けどよ……」
バッドは他の3人に視線を送る。
3人とも無言で頷いた。
「普段のけだるさが無くなってる……」
「ああ、俺もです。ボス」
「なんか頭がスッキリしてるかんじだ」
「俺は足の重みが楽になった気がする」
「めっちゃうめぇ」
おお! いいじゃないか!
成人男性にも効果ありだ。
これでだいたいの層には効果を発揮することがわかったぞ。
バッドが真剣な顔をして俺の目を見る。
「その……こいつをもう2本売ってくれないか」
「構わないが、立て続けに飲んでも効力は変わらんぞ。ある程度の期間をおいて飲むのが効果的だ」
「いや、俺が飲むんじゃねぇ。妹たちに飲ませたいんだ。あんだけこけにして、虫のいいお願いだってことはわかっている。けどよぉ、あいつらちっちぇのに文句も言わずによぉ……」
「ラーナ、もう2本だしてやれ」
「ふふ~~ポーション2本ですね~はい!」
ラーナが満面の笑みでポーションを取り出す。
そこへさきほど聞いた声が……
「あれぇ、バッドにいちゃん?」
現れたのは、ケイナとライナだった。
「妹さんて、2人のことだったんですね~ならこの2本はいらないですよ♪」
「え?……いらないって。ライナおまえ外に出て大丈夫なのかよ……咳が止まらなくなるぞ」
2人ともキョトンとした顔でバッドを見上げる。
「おまえたち、この人のポーション飲んだのか?」
「うん、クレイお兄ちゃんは凄いんだよ!ライナの咳もでなくなったし、ケイナもすっごく気持ちいいの」
「そ……そうか……そりゃ良かった」
バッドは目頭を押さえながら、俺に頭を下げる。
「―――さっきは失礼な振る舞いをして悪かった。こんな町だから、変な奴が多くてよ。はじめが肝心だからよ。つい気合をいれちまった」
「いいんですよ~バッドさんたちは町の見回りをしてくれてたんですよね~」
「そだよ、バッドにいちゃんたちはえらいんだよ」
「俺はポーションの効果を知りたかっただけだ。だからまあ気にするな」
俺がそう言うと、「ありがとうごじました」とバッド含め4人は改めて頭を下げた。
その光景を見たのか、徐々に人が集まりってくる。
俺のポーションが効き目ありと認識したのだろう。
初日にして、結構な数が売れた。
そして、人混みをかき分けて1人のおっさんが飛びだしてきた。
「―――やはり、クレイ殿下はこの町の救世主ですぞ!!」
あ、なんか知ってる声きた。
マットイさんじゃないか。
「みんな聞くですぞ。クレイ殿下は王国の第7王子ですぞ! そしてこのフロンドを立て直すために派遣された領主さまですぞ! そしておそばにいるのは聖女さまですぞ!」
うわぁ、このおっさんいらんこと大衆の前で言いやがった……
ザワめきはじめる町の人たち。
どうする? もうこの際だ、正直に俺の思いを言ってみるか。
そうだな、どのみちこの町にはいるんだろうし。
「みんな聞いてくれ! 俺はいわれなき罪をかぶされて、このフロンドに追放されたんだ。だからもはやグレイトスの王族でもなんでもない。もうただのモブだ。だから俺はモブ市民としてモブに徹するから、みんなも俺の事をモブ認識してくれ!」
「モブ?」
「なんかモブモブ言ってるけど? どういう意味なんだ?」
「え? クレイじゃなくてモブって名前ってことなのか?」
よりざわつく住民たち。
ちょっとモブを前面に押しすぎたか……いやでもモブでいんだよ。
「そうだ! モブだ!」
この際なんでもいい。モブだ。そう俺はモブなんだ。
「違いますよね!? クレイさんですよ!」
そこへラーナがツッコミを入れてきた。
だが、住民の反応は……
「ふ~~ん、よくわからんけどここってグレイトス王国なのか?」
「いや、違うだろ。神聖国だろ?」
「スタンピードの時に逃げ出しやがったクソ貴族は、どこの国のやつだったけ?」
「ば~か、ここはフロンド以外のなにものでもねぇよ」
あれ?
なんか思ってたよりも俺が元王子とか、どうでもよさげな雰囲気だぞ。
なるほど、この辺境ではぶっちゃけ国との交流もほぼないだろうし、どこの国に所属しているなんて感覚はあまりないんだろうな。
「みんな何を言っているのですぞ! クレイ殿は―――」
「すっごいポーションをつくってくれるおにいちゃんだよね」
「そうそう、いいやつが町に来てくれたぜ!」
「まあこんな町に来るやつはだいたい訳ありだろうからな。余計な詮索はせんよ」
おお……なんかこの町いいかも……
もっとゴロツキどもが巣食うダークなイメージがあったがそうでもないし。
むろん生活が楽なわけではないだろうが、いい意味で自由な感じだ。
俺も好きな事しまくれそうな予感がする。
「し、しかしですぞ……」
「ハハッ、諦めろマットイさん。この町の領主はあんただよ」
「むぅ……しかし殿下が来てくれたのに……」
「前にも言ったが、ポーションは山のように作るさ。だが貴族業はやらん」
「……わかりました……ぞ」
「そう落ち込むな。耳のポーションも定期的に持っていくから安心しろ」
「そ、それはありがたいですぞ! では、わしはこれで失礼しますぞ。あ、クレイ殿下。領主になりたいときはすぐにお知らせをですぞ!」
そう言うと、マットイさんは門の方へと走り去って行った。
悪いが領主になりたくなる日は来ないだろうな。
集まっていたみんなもポーションを手にして散って行く。
はぁ~~昨日に引き続き今日も色々あったな。
ま、俺はポーション作りまくって飲ませまくったから、大満足だが。
「さ~て、ラーナ帰るか」
「帰るかじゃないですよ。クレイさん―――お・か・い・も・の、です」
しまった、すっかり忘れてた。
ラーナが若干キレそうだ……
「……そ、そうか。じゃあ買物行くか」
「はい、クレイさん!」
その後の買い物は、バッドたちが色々お店を教えてくれたのでスムーズに買い出しは終了した。
「「「「じゃあ、クレイの兄貴、また!!」」」」
なぜか俺は兄貴と呼ばれるようになってしまった。
俺の方が年下なんだけど。




