第2話 女神より賜りしスキル、ポーション生成と合成
王都を離れて一か月が経った。
「辺境の地フロンドまであと数日といったとこかな」
てくてく歩いている俺はひとり呟き、ぐるりとまわりを見る。
なんもない、ずっと草原だな。
ここから先はもうフロンドまで町や村はないはずだ。
「いてっ……」
転がっている大きめの石に躓いてしまった。
もう街道と言えるのかわからんぐらいの荒れた道になっているからな。
まあこの先に行っても辺境の地フロンドしかないのだから、荒れるのも仕方ないのか。
グゥ~~
腹が鳴った。そろそろ食事か……バックパックに入れてある携帯食に手が伸びそうになったが、途中で止まった。
いや、最後の町で買ったやつなんだけど。これ凄まじく不味いのよ。
食べると気分がダダ下がりだからなぁ。
それに王族だったのもあり、ちょっとばかし舌が肥えてしまった。
もちろん、生死にかかわるのなら文句も言わずに食べるんだけど―――
あと数日であれば、こっちでいいか。
俺は小瓶に入った水と薬草(体力回復草)を取り出した。
え? 薬草をバリバリ食べて水で流し込むのかって?
違いますよ。
「―――【ポーション生成】!」
俺の手にした小瓶と薬草が輝きを放つ。
その輝きは徐々に小さくなっていき―――
【ポーション(体力回復)】
ポーションの小瓶が現れた。
これが女神さまからもらったスキル【ポーション生成】だ。
素材が手元にあれば即時ポーションの作成が可能。
本来であれば薬草をすりつぶして窯で煮てといった工程をふまなければならないのだが、
さすが女神さまのくれたチートスキルである。
ちなみにだが、この異世界にもスキルとういう特殊能力は存在する。が保有者は稀であり、スキルという概念もなく特殊な力みたいな感じで認識されている。まあそれを知っているのもごく一部だけど、俺は王族だったのでそういった情報は多少流れてくるのだ。
てなわけで。
「これで完成だ。ゴクゴク」
俺は出来たてホヤホヤのポーションを一気に喉に流し込む。
青い液体を飲み干すと、身体の芯から全身へエネルギーが満たされていく感覚。
ポーションの最も基本的な効果である、体力回復効果だ。
そして―――
「うむ、味もよし!」
そう、ここはけっこう俺のこだわりがある。
巷に出回っているポーションって、実はけっこう不味い。良薬口に苦しとは言うけど、にしてもかなり酷くて味で気分が萎えるのだ。
なので味の研究はかなりした。
生成時に少しばかり調味料を追加したり、薬草やそのほかの素材を砂糖漬けにしたり、まあ色々やってみたが一番重要なのは水だった。
ポーションのベースは水である。
ただし一言に水といっても色々なのだ。
通常の水を使用する場合もあれば、聖水を使用することもある。聖水のほうがポーションの効果は上がるのだが、これは水のように大量には手に入らないし購入費用がかかる。さらに作った神官の力量にも大きく左右されるし、高位の神官が作った聖水はかなりお高い。
ちなみにこのポーションに使っているのは、ただの水である。
ただし、俺がひと手間加工を施してあるのだ。
具体的に何をしているのかと言うと……
「よっと―――」
俺は腰につけたポーチから大きめのビンを取り出した。
ちなみにこのポーチは、女神さまからもらった転生特典アイテムだ。小さいポーチに大量の荷物が入っるていう異世界ファンタジーでよく見る便利グッズである。
ポーション関係の荷物は、すべてこのマジックポーチに入れているのだ。
よく考えれば、女神様も色々頑張ってくれてんだよな。
魔力はガッツリつけ忘れてたけど……
……いやいや!
転生した時点で自分の人生なんだ。ちゃんと自分で切り開かないとな。
それに女神様がくれたスキルのおかげで「ポーション作り」という最高の趣味を得たのだし。
と、話が少しそれてしまった。
俺が取り出した大きめのビン。中身はただの水だ。
が、ビンの底にきらりと光る石が入っている。
石の正体は魔石だ。これを水につけておくと味が格段に変わることを発見した。どうやら魔石から漏れ出る微量の魔力が水に溶け込んで、それがポーション生成時の味に変化をもたらしいるようだ。
ちなみに前世日本時代の水に炭を入れていたことから発想を得た。
あれは確かカルキ臭とか不純物を吸収して取り除くといった効能だった気がする。
魔石と言っても多種多様だし、まだまだ試してみたいものは沢山ある。
いや~~ベースの水作りからしてポーション作りは奥が深くて面白いぜ。
目的地のフロンドについたら、生活拠点を構えてポーション作りまくってやるからな。
「―――っ」
未来のポーションライフにワクついていると、足に少しばかり痛みが走った。
まあそりゃそうか、一か月近く徒歩なのだ。足の疲労も蓄積するだろう。
モブだったとはいえ王族なので剣の鍛錬や基礎トレはしてたけど、こんなに歩いたのは初めてだ。
さきほどのポーションで体力は回復している。が、溜まった疲労による痛みまでは取れない。気持ち楽になる程度である。
ようはエネルギーは回復したけど、蓄積したダメージまでは全回復とはいかないのだ。
これは俺が作った回復ポーションだろうが、市販のポーションだろうが同じである。上位の回復魔法であれば蓄積ダメージも消すことはできるだろうが、俺は魔法が使えない。
というかそもそも魔力がないのよね。
ってことで―――
俺は再びマジックポーチに手を突っ込んだ。
取り出したのは2つの小瓶。
2つともすでに俺が作成済のポーションだ。
【ポーション(体力回復)】さっきも使ったノーマルポーション。
【ポーション(炎症冷却)】こちらは俺オリジナルの疲労回復ポーションで、痛めた筋肉を冷やして癒す効果がある。ただし即効性はない。どちらかと言うと炎症を抑えて悪化を防ぎ、あとは自然治癒力でじわじわ治していくって感じだ。
そしてこの2つを―――
「―――【ポーション合成】!
【ポーション(体力回復)】×【ポーション(炎症冷却)】!」
2つの小瓶が光の中で融合する。
「合成完了―――【ポーション(筋肉痛即回復)《マッスルインスタントエイド》】」
光の中から一本のポーションが出てきた。
これが俺のもう一つのスキル【ポーション合成】である。
ポーションとポーションを融合させることができるのだ。
ポーション生成で作られるポーションは基本効果が1つしかない。市販のポーションも体力回復ポーション系と魔力ポーション系の2つが存在するが、それぞれに体力回復・魔力回復といったようにひと瓶にひとつの効果である。
だが、【ポーション合成】を使うと複数の効果を持つポーションを作ることが可能だ。
つまり【ポーション(筋肉痛即回復)《マッスルインスタントエイド》】には、筋肉炎症を抑える効果と即効性の回復効果が複合されている。
ゴクゴクゴク
俺は小瓶を一気に飲み干した。
うむ、足の痛みがす~~っと引いていく。気分も良くなって足が軽い。
このポーションは俺のコレクションの中でも結構お気に入りだ。
作るのに苦労したからな。
当然ながらポーション作りは簡単ではない。というか新種を出すのはかなり難しい。
新種を出すためには失敗を繰り返すことになる。
【ポーション(筋肉痛即回復)《マッスルインスタントエイド》】にしても、めちゃくちゃ失敗した。
でもこれも楽しみのひとつだ。
最終系を妄想しながら、何度でも作るんだ。
たまに予想もしていなかった別種ができるときもあるけど。それはそれで嬉しい誤算である。
さて、心身ともにリフレッシュしたので再び歩みを進めるか。
「キャアアアアア」
前に進めなかった。
だってなんか飛びついてきたんだもん。
なんだろう? やけに柔らかいな。
飛びついてきた柔らかいのは美少女だった。しかも超がつくほどの。
そしていつの間にか俺の周りを黒服の連中が取り囲んでいるじゃないか。
「た、助けてください!」
腕の中の美少女が涙目で俺に助けを求める。
ぱっと見は、黒が悪者。
しかし実際どうかはわからない。
ふぅ……もう散々やっかいごとに巻き込まれてきたんだよ、俺。
転生したのに追放されて。
だから、極力首を突っ込みたくないの―――
じゃ、さようなら。
――――――ってわけにはいかないか。
やる以上は中途半端はなしだ。
俺は黒いポーションを取り出した。
「―――さてと、いっちょやってやりますか」