第16話 転生王子、女神のポーション作りで鬼教官となる
「はぁ……はぁ……クレイさん、まだ歩くんですか?」
「なにを言ってるんだ? まだ森に入ったばかりだぞ?」
「ふへえぇぇ~もう無理ぃ……足がもげちゃうぅぅ……」
「寝ぼけた声をだすな! ポーション作りの基本は一に歩き二に歩きと知れ!」
「はいぃいい! 教官!」
俺と女神はポーション素材採取のために、天界の森に入っていた。
「あ、でも素材って、クレイさんのポーチに入ってるような気が……」
「天界のことは天界のもので補う! 楽してポーションが出来ると思うな!」
「はいぃいい! 教官!」
まったく、この女神は文句ばかりだな。
これは性根から叩きなおさないといけない。
まあブツブツ言いつつも、必死に俺についてきているのでやる気はあるようだが。
「ん? あれは?」
前方に何かが視界に入ってきた。魔物か?
「ふあぁ! 天界の神獣ですよクレイさん、ここはマズいです! たぶん神獣の縄張りですよ! 逃げましょう!」
なにぃ? 獣ごときでポーション作りを諦めるだと?
「元より素材探しに危険はつきものだ!―――女神Go!」
「なんですか~~Goって!!」
「速やかに障害を排除せよって意味だ。―――女神Go!」
「やだやだ~~」
おいおい、なんの覚悟もなしにこの森に入ったのか。
「ならばポーション作りは諦めるんだな。無理強いはしない、帰るぞ」
「ううぅうう……やりますぅうう! やればいいんでしょ!」
そして1時間後……
「ぶひゃあ……な、なんとか。なりましたぁ……。力じゃ敵わないので、お菓子で釣りました~~今日は森に入ってもいいって。うぅ~あたしの大事な三時のおやつだったのにぃ……」
「うむ、そうか」
よし、考え方に柔軟性が出て来たぞ。
俺たちは森で素材を取りたいだけだ。すべての魔物を駆逐する必要なんてない。
女神のように餌付けするというのもひとつの方法だ。
「私、頑張ってます?」
唐突に女神が俺の顔を覗き込んできた。
いや、相変わらずビビるぐらい綺麗な顔だな。
「ああ、良くやってるよ。この調子だ」
「ふぁ!? まだ歩くんですか?」
「当然だ、素材があるであろう森に入ったばかりだぞ。これからが本番だ」
ガックリと肩を落とす女神。
まあここが頑張りどころだからな。根性を出してもらうしかない。
「ううぅ……ラストエリクサーさえあれば……こんな目に合わないのにぃい」
「―――ちょっと待て」
「ひっ! きょ、教官殿! 決して楽したいわけではありませんでして……」
「別に怒っているわけじゃないぞ。それよりも、伝説のエリクサーってやはり存在するのか?」
「ええ、ありますよ」
王城の禁書庫で文献をあさってた時に読んだが。
「そっか~~実在するのか~~」
「もちろんです。クレイさんのいる世界にも、神のエリクサーはあったはず。たぶんですが」
おお、俺のいる世界にもあるのか!
伝説のエリクサーとは、神々が作ったとされるエリクサーだ。
エリクサー自体は人間の手によって作られたり。ダンジョンの宝箱に入っていたりする。
希少価値があり、市場に出るとけっこうな高値がつく。
基本的に万能薬なのだが、エリクサーをもってしても治せない病はあるし、無限の力を与えるものでもない。
ただし、市販のポーションに比べれば性能は段違いだが。
俺は元王族だから、見たこともあるし飲んだこともある。
王家ぐらいになると、緊急用にエリクサーを多少備蓄しているのだ。
そして、伝説のエリクサーとはそんなものを超越した存在だ。
俺も見たことはない。というか存在するかも怪しいと思ってた。
「なんか嬉しそうですね。クレイさん」
「ああ、伝説のエリクサーが実在するなんてワクワクするじゃないか。種類も色々あるのかな?」
「ええ、バトルエリクサー、エターナルエリクサーなど私も全部は知りませんけどね」
おおぉ……なんだよその興奮するワード。
「そして、ラストエリクサーは神のエリクサーの頂点にたつ一品。あらゆる病を治し、死者をも蘇生し、いかなる力も復活させることができる。というものです」
マジか、なんだよそのチートポーション。
「やはり神が作ったのか?」
「そうですね。でも作ってた神が誰だかわからないんですよね~1,000年まえあたりからあまり天界でも見かけなくなりました。おそらくは作っていた神が消滅したのでは、とか言われています。ラストエリクサーって呼ばれるようになったのもその頃からですね」
「っていうかそんなエリクサーを、じいさまの耳に使おうとしてたのかよ……」
「ふふ、その昔はけっこうありましたからね。おなか下した時とかに使ったりしてましたよ。もう数千年まえのおはなしですけどね」
どんだけ贅沢な使い方するんだ……。いや、ここは天界だしな。しかも時間感覚のスケールも違いすぎる。
供給が無くなってもそんな使い方をしていたから、現存しているものはほとんど無くなってしまったんだろうな。
「俺たちの世界にもあるってのは、下界にも持って来たのかな?」
「そうですね、主にはダンジョンの宝として入れたりとか。当時は市販ポーションみたいな感じで、軽く入れてたようですし」
うわぁ、市販ポーション感覚かよ。それはそれで凄いな。
「てことは、迷宮ダンジョンのどこかに」
「そうですね。まだ残っているかもしれません」
そっか~~あるかもか~~
いっぱしのポーション作りとしては、一度でいいから拝んでみたいものだ。
そして、俺のポーションもいつかは神のエリクサーを超えるものを。
ま、これは夢だけどな。
そんな妄想を浮かべていたら、女神が急にしゃがんだ。
「あぁ! く、クレイさん……これ!」
「おお、よくやった響き草だな」
「はい、私やりました! 教官!」
下界のものとほとんど同じだな。
さて、これであらかた素材は揃ったな。
「ふぁ~~疲れたぁ~~見つかって良かったぁ」
「お疲れで満足感満載のところ悪いが……まだ素材が揃っただけだぞ?」
「え、これで終りですよね? あとは教官がば~~っといい感じでポーション作ってくれるんですよね!ね!ね! ねぇえええええ!!」
…………必死やな。
――――――だが断る!!
そこから女神のポーション作りが始まった。
「やり直し!」「ダメ!」「もっと配合に気を使え!」
何度も何度もやりなおす。
そして数時間後……
天界でスポ根マンガみたいなことをしていたら、ようやく完成した。
「むぅ……少し粗削りだが。合格っ!!」
「わぁ~~ん、やっとできた~~」
うむ。なんだかんだで根性みせたな。よくやった。
「私さっそく、じじぃ……じゃない上位神さまのところに行ってきます~~」
「ああ、成果のほどを試してこい!」
「はい、教官! じゃあ~~ここでお別れです~いつでもどこにいても毎日見守ってますからね~~」
いや、普通にストーカー行為はやめてくれ。
だが、ストーカー苦情を言うまえに、俺は頭に痛みを感じてぼんやりとしていった。
◇◇◇
目が覚める。知らない天井だ。
いや、ちょっと見覚えのある天井か。
そして俺の顔面に艶やかな太ももが。
ラーナの足だった。これが俺の脳天に当たったのかよ……
聖女は頭と足が逆になっている。そしてリタはなぜか俺の腹の上に乗っていた。
2人とも寝相が凄いな。このままだといつか頭を割られて三度目の転生になたったりして。
なんて冗談はさておき、取り敢えず起床した俺は庭に出る。
もちろん朝一のラジオ体操をする為ではない。
さあ―――いくぜぇ!
「ファイヤボールぅううう!」
「ウインドカッタぁあああ!」
広い庭に俺の声がむなしく響いただけだった。
ガラっと2階の寝室の窓があいて。ラーナが顔を出してきた。
「朝からうるさいですよ~クレイさん。朝の発声練習とかですか? ああ~もしかして魔法ごっこですか~なつかしい~」
「…………」
けっきょく魔力はつけ忘れるんかい……
安定のボケ力だ。さすが女神である。
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