第14話 リタ視点、あたしの本当の気持ち
あたしは、5年前の魔物大量発生に巻き込まれて死んでしまったです。
メイドのみんなも死んじゃった……
でも、なぜかあたしだけがゴーストになったです。
なぜだろう?
なんか凄く悲しかった。
なんであたしだけここにいるんだろうって。
そしてゴーストとして彷徨っているうちに、この屋敷から出られないことがわかった。
いや、出られないというより出たくない?
そんな疑問に答えが見つかったです。
あたしの手には透けたハンマーがいつのまにか握られていた。
それにノミやヤスリ、その他の道具。
あたしはやり残したことがあったんだ。
過去の記憶がバ~~っとフラッシュバックしていく。
この屋敷でやった初めてのお仕事。
色んなお部屋の修繕やリフォーム、それに庭の整備。そして―――
お風呂……!
あたしが初めて、いちから作った作品。
すっごく苦労して作ったです。
魔物大量発生でボロボロになったあたしのお風呂。
なおしたいです。
だけど、あたしの体はお風呂をすり抜けちゃう……
道具はたぶんあたしの思念みたいなもので、いつの間にか持ってたけど。
お風呂は変わらずそこにいるです。
それからずっと何とかしたいけど、できない日々が続いたです。
毎日毎日……触れもしないお風呂にハンマーをふるって。
もうおかしくなりそう。
そんな時に人が来ました。
男の人と女の子。
屋敷に人が来るなんて久しぶりです。
でもあたしは毎日修理したい衝動が積み重なっていて、頭にモヤがかかっていて。
まともな会話ができなかったです。
しかも女の子は聖女らしく、男の人の指示であたしに聖水をかけようとしてきました。
ここで、浄化させたれたら……あたしは大きな心残りを持ったままこの世からいなくなちゃう。
そんなの嫌だ。
初めはこの男の人が怖かった。
でも、違ったです。
以前にもたまに屋敷に人は来たけど、みんなあたしの話も聞かずに逃げてしまいます。
ゴーストだからしょうがないんだろうけど。
この人は違ったです。
女の子をうしろに下がらせて、あたしの前に出てきて―――
「もしかして、君はこのお風呂になにかしたいのか?」
あたしに話しかけてくれたです。
気付いたら、あたしこの人とお話を始めてたです。
なんだか頭のモヤが少しづつ消えていくような感覚。
そしてこの人がポーションを作ると言い出しました。
ポーション?
ポーションであたしの夢が叶う?
良く分からないけど、この人すっごく楽しそうにポーション作りはじめました。
そして出来上がったポーションを飲んでみると……
なんかより薄くなったです。存在自体が軽くなった感じ。
やっぱりダメなんだ。
そうだよね……です。
魔物に蹂躙されて死んじゃった時点で、もう無理なんです。あたし以外にも無念のまま死んだ人なんていっぱいいるです。
あたしだけ願いが叶うなんて、都合が良すぎるです……
でもこの人は諦めなかった。
ていうかむしろ食い気味に、次から次にと作成したポーションを飲ませてくるです。
嬉々とした顔をして。
なんでここまでしてくれるんだろう。
なんどもなんどもポーションをひたすら作り続けて。
とても楽しんでるです。
あ! そっか……
この人は好きな事を心から楽しんでいるんだ。
なら――――――あたしも最後までこの人につきあうです!
〖あたしは大丈夫です。どんどんいくです!〗
そう勝手に口から言葉がでていた。
そして、ポーションとポーションを合体させる? みたこともない方法で出来上がったポーション。
飲むと……
ウソ……お、お風呂にさわれた……です。
本当にやっちゃったです。
あたしは無我夢中でお風呂の修繕に取り掛かりました。
楽しいいぃいいです!
なにこれ?
最高です!!
そして、夢のような時間はあっという間に過ぎて、お二人はあたしのなおしたお風呂に入ってくれました。
良かった。もうじゅうぶんです。
お別れの時間です。
あの人は聖女のラーナさんに聖水の準備をさせています。
ラーナさんは凄くビックリしてて、それはそれで嬉しかったです。
でも、好きな事は満足いくまで出来たです。そういう意味では、あの人の言う通りいまが一番の去り際って思う。
一見冷たいようにみえるけど、それはこの人なりの優しさなんだと。
もちろん、館全体の修繕ができていないってことは心残りではあります。
でもそんな事言いだしたらキリがないです。もう夢を叶えてもらったから、本当はこの世から消えてもいいかなって思ってたです。
でも……ちょっと別の想いが出てきちゃいました。
そんな時にあの人は問いかけてきます。
「リタ、君は今後どうしたい?」
その問いかけに、あたしは館の修繕がしたい……いや館だけでなくもっといっぱい作りたい!と答えたです。
あの人、いやご主人様は好きなだけいればいい。
って言ってくれたです。
「はい! ありがとうなのです! ご主人様!」
嬉しい……まだいっぱい作れるんだ。
心おきなく、好きな事ができるんだ。
最高の気分です。
さらにあたしはお願いをしちゃったです。
ご主人様の作ったポーション……とっても美味しかったです。
あれがあるから夢が叶えられるです。
もっと飲みたいです……でも、もしかしたら高価なものだったかもしれない。
だからワガママ言っちゃいけないけど―――
我慢できそうになかったので言っちゃったです。
「ああ、定期的に飲むといいぞ。ちゃんと作ってやるから安心しろ」
って言ってくれました。
じゅるり……ダメです。なんか口からたれちゃいました。
夢が叶って、ポーション飲めて。
こんな幸せなゴーストはいないと思うです。
言いたいことを言えて良かったです。
……実はちょっとだけウソついたです。
あの人に言わなかった理由があるです。
それは……
ご主人様と一緒にいたい!……です。
ご主人様と別れるのが嫌。ていうか絶対に嫌。
もっと一緒にいたいって思ったから。
なんかこの気持ちがどんどん強くなってきてるです。
「じゃあ、早速館の修繕を始めるか。俺も手伝えることがあればやるぞ。あと俺はクレイだと言っただろ」
「ハイです! ご主人様!」
でもこの気持ちは、ご主人様には内緒なのです。




