第2話:鍛冶師、思いつく。
「どうしたもんかな……」
そんな出来事があってから、数時間後。
仕事も終わり、すっかり日も沈み切った頃。
店の近所に借りている部屋で、ベッドに寝そべりながら俺――ライ・アルトは、昼のことを思い出していた。
『だからァ、言い訳は聞き飽きたっつってんだろ!』
あの、迷惑でどうしようもない客。
本当だったら、店の雰囲気のために追い出すくらいはしても良かっただろう。
……いや。むしろ、そうするのが正解だったはずだ。
あんな客の相手なんて、する必要すらなかった。
冒険者に粗暴な者が多いとはいえ、性格が悪い者はそうそう居ない。
あれほどの客ならばむしろ、店のイメージのために追い出すべきだったのだ。
……だけど、俺にはそれができなかった。
それはなぜか。
原因は、例の男が剣に付けろと言ってきた【不壊属性】という魔法にあった。
2年前、王国のとある錬金術師が開発した魔法――【属性付与:不壊属性】。
付与した武器・防具の損壊や変化が恒久的に起こらなくなるという効果の魔法であり、それが付与された装備品は、冒険者の間で急速に普及した。
手入れ不要の切れ味の落ちない剣に、手入れ不要の傷つかない鎧。
冒険者にとって、それはまさしく進歩の光であったに違いない。
……しかし、こと鍛冶師においてはその真逆。
【不壊属性】は、時代の終焉を意味していた。
なにせ、修理する武器も防具もなくなってしまったのだから。
新しい装備品を作っても、【不壊属性】付きの装備品が中古品店に売られていることが多いため、買われることはほとんどない。
今では武具を買うならば、中古品店に行けと言われている始末だ。
その上、【属性付与:不壊属性】は、上位の錬金術師しか使えない魔法。
つまり俺たち鍛冶師には、その技術を使った商売すらすることができない。
そんなこんなで鍛冶屋界隈に訪れた、突然の販売不振。
たった2年前に作られた新技術に、数多くの鍛冶屋が潰されていった。
……そしてついに、俺の店も廃業の危機に直面することとなったのだ。
「売り上げのためとはいえ、あんな客に優しい対応をするのはな……」
もう、廃業の影は近くに見え始めている。
それが今日のような対応につながったのだ。
自分でも分かるほどに、俺は今、焦っている。
……やっぱり、店を畳むのは嫌だ。
その思いが、より一層心を焦らせる。
俺が店を構えたのは、ちょうど【不壊属性】が開発された時期と同じ2年前。
あの技術の台頭と同時期に出店して、よくここまで店を保つことができたと、自分で自分を褒めてやりたい。
それほどまでに、あの技術のもたらした損害は大きかったのだ。
その影響を分かりやすく言おう。
俺の住む町――アステリア王国の辺境にある、かつては鍛冶師の聖地と呼ばれたこのエンヴィアの街の鍛冶屋は、ここ2年でその3分の1が姿を消した。
ありえないと思うかもしれないが、これは本当のことだ。
その多くはまだ新しい店だったが、中には歴史ある店も何店舗か含まれていた。
目を見張るような技術力を持つ店も少なくなかった。
だが、新技術の前では、それすら無意味だったのだ。
……最近、街の治安は悪化する一方だ。
潰れた店の穴を埋めるようにして酒屋や娼館ができた影響もあるのかもしれない。
恐らく今日来た客も、その影響でこの街に流れてきた者だろう。
今後、このような客は増えるはずだ。
……いや、そもそも客が来るかも分からないのだが。
「やっぱり、落ち着かないな……」
起き上がって窓を開けると、窓枠にもたれるようにして風に当たる。
窓の外から入ってきた、未だに眠る気配のない街の明かりが部屋を照らす。
――オレァよ、ボスドロップだって手に入れたことがあるんだぜ!?
酔いつぶれた男の声が、飲み屋通りの方から聞こえてくる。
声の方向へ何気なく顔を落とすと、冒険者と思われる数名の男たちが偉そうに道を通っていた。
先ほどの声の主は、団体の中央で偉そうに歩いているあの男だろう。
所々に高い装飾品をしているのが見えるので、単に嘘というわけでもないようだ。
「……ボスドロップ、か……」
街を見ながら、俺はうわごとのように呟く。
尖塔に各一体ずつ、塔の主として君臨する、強大な力を持ったモンスター。
それが、ボス。
ボスを倒すことで手に入れることができる素材――通称ボスドロップは、どれもが高額で取引される。
討伐報告の少ないボスのドロップ品は、それこそ国家予算に匹敵するほどの天文学的値段で取引されることもあるという。
武器や防具への加工に加え、芸術的な価値も高い希少品。
一般的な庶民や冒険者には、一生めぐり合う機会のなくてもおかしくないもの。
それが、ボスドロップ。
「加工して売れば、店も繁盛するかな……」
と、俺はぼやくように呟く。
それは、まるで幼児の発想。
子供が空想するような、短絡的で現実味のない発想だ。
――しかし、俺にはその発想が、なぜか頭から離れなくなってしまった。
「そういえば、ボスドロップには【不壊属性】が付かないんだっけ……」
不意に、ボスドロップの持つとある性質を思い出す。
ボスドロップを使った加工品には【不壊属性】が付与できないという特徴があるのだ。
他の魔法は付与できるのにも関わらず、【不壊属性】だけが付与できない。
原因は不明だが、それは確かな性質として知られている。
「なら、ボスドロップ製の装備には、今後も需要があり続けるってことだよな……」
頭の中で、どんどんとアイデアが膨らんでいく。
ボスドロップを使った武具を扱う鍛冶屋。
値段はどれも高めだが、しかし買い手がつくように魅力的な加工を行えば、絶対に買い手がつくようにできる。ボスドロップ製の武具には、それだけの価値があるのだ。
そして俺の店には、祖父から受け継いだ鋳造の技術と、唯一無二のアリアの装飾がある。
それらを合わせれば、必ず顧客の関心を増やせるはずだ。
「……これは、あるかもしれない……!」
そうして俺は、覚めやらぬ興奮を覚えながら、思考を繰り返していった。
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