第1話:鍛冶師、今日も売り上げなし。
ハクスラが好きなのですが、いつも火力特化耐久力皆無のボス戦特化ネタビルドを組んでは「お金がない! 金策できない!」と嘆くというのを繰り返している内に、なんかできたやつです。
本当に、毎回次こそはメタビルドをやるぞ! という意思だけはあるんですけどね……。
趣味の延長みたいな拙作ですが、どうぞお楽しみください!
「鍛冶場を熱いと思ったことは無い」
祖父はいつもそう言っていた。
火傷だらけの腕を上げて、楽しそうに槌を振っていた。
僕は熱に浮かされて、いつもその言葉に頷いていた。
祖父のようになりたいと、心の底から思っていた。
それから、もう10年ほど経った。
俺もようやく、一人前の鍛冶師になれた。
――けれど、祖父の様には笑えないでいた。
〇 〇 〇 〇 〇
「だからァ、言い訳は聞き飽きたっつってんだろ!」
熱を帯びた赤い刀身が水を蒸発させる音に交じって、売り場の方から怒鳴り声が聞こえた。
ちょうど一振り仕上げたところだった。
「しかし、この加工は私どもの方では……」
「あァ? じゃあ、何ができるってんだよ?」
「そ、それは……」
「――お客さん、どうされたんですか?」
気になって売り場に顔を出す。何気なく顔をタオルで拭くと、びっしりと汗がついていた。
「ライ師匠! それが、このお客さんが……」
「……師匠だと? おいおい、ずいぶん若ェのが出てきたじゃねェか」
傲岸不遜な態度の男が、カウンターに身を乗り出しながら言う。
見るからに怪しんでいる様子だ。
だが、それも当然だろう。出てきたのは今年18歳になる青年なのだから。
「ようこそ、鍛冶屋アルトへ。新顔のお客様ですね。本日はどのような――」
「――師匠か何か知らねェが、新人教育がなってねェぞ?」
……話している途中だけれど、割り込んで話してきた。態度はヘラヘラしているが、その実かなり怒っているようだ。
ここは謝っておくしかない。こういう時、怒りを煽るのは悪手だ。
「すみません。弟子にはよく言って聞かせますので」
謝りつつ、ただ一人の弟子――アリア・ルーベルに、目くばせで下がるように伝える。
彼女は今年で16歳。鍛造の腕も筋が良く、装飾をやらせれば一級品の自慢の弟子である。
……だが、接客の腕はまだまだだ。
彼女は頷いて、というよりは落ち込んだ様子で工房の方へ下がった。
責任感が強い子だから、後で慰めてやらないと。
とはいえ、今は客への対応が先だ。俺はカウンターに立ち、問題の客の顔を見据える。
年齢は、20代後半といったところか。ガッチリとした体つきをしている。
手には厚手の革製ハンドカバー、腰には立派なロングソードが一振り。
「……お客さん、冒険者の方ですよね?」
――冒険者。
それは、この世界の平和の守護者である。
およそ500年前、突如世界に出現した未知の建造物――尖塔。
凶悪な魔物を生み出し続けるそれらの全てを1人で制覇し、現在の尖塔管理方法の礎を築いた者がいた。
【始祖】と呼ばれるその冒険者から脈々と受け継がれる尖塔攻略の歴史は、この世界の平和の証明でもある。
……というのは、もう遥か昔の話。
設置型の大規模魔術による尖塔の管理方法が確立してから、はや100年。
今の冒険者は、冒険者組合からの許可を取った上、尖塔に現れるモンスターを倒してその素材を売るという仕事をする者となった――つまりは、森で獣を狩って毛皮や肉を売る、狩人のような仕事なのだと思ってくれたらいい。
しかし、その危険度は段違いだ。狩る獲物は、100匹単位で動くゴブリンや蜘蛛、魔法や武器を使う大型の魔獣、それらを従える尖塔の主。
森で罠を張り、獲物を待つのとはレベルが違う。油断をすれば簡単に命が消し飛ぶような仕事だ。
だが、もちろんその分稼ぎも大きい。モンスターから取れる素材は高値で取引される上、組合からの支援も手厚い。
大きな功績を残した者には、組合から特別褒章が出ることもある。
そのため、現在でもこの仕事に就く者は多いのだ。
……ただ、冒険者がポピュラーな仕事となっている理由は、それだけではない。
なにせ、冒険者になるための審査はとても緩いのだ。
何をしても自己責任という組合のスタンスも影響しているのかもしれないが、それはともかく。そんなこともあり、職に困った者が冒険者になることは割と多く、その中に態度が粗暴な者がいることも、結構よくあることなのだ。
「冒険者の方ですよね、だと? ンなこたァ見りゃ分かンだろうが!」
そう。
この人みたいな客が来ることも、よくあること。
なので、冒険者が主な客層である鍛冶屋の仕事をする上では、こういう人には慣れておかなければいけないのだ。
まだ接客経験の少ないアリアには悪いが、こればかりは慣れてもらうしかない。
「その通りですね、申し訳ございません。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
即座に謝罪し、強引に商売の話へ話題を逸らす。
こういった客には、さっさと仕事の話をして帰ってもらうに限るだろう。
「この剣の加工をしろって言ったんだが、アンタの弟子は無理だって言いやがってよォ。全く、使えない弟子を持ったモンだなァ?」
眉をひそめそうになったが、なんとか我慢する。
弟子を蔑まれるのは、気分が良くない。でも、ここは我慢しなくてはいけない場面だ。態度に不満を出してはいけない。
「……それで、どのような加工をお望みでしょうか」
「ああ。この剣によ、【不壊属性】をつけて欲しくてなァ」
言いながら、客は腰のロングソードを取り、カウンターの上へ雑に置く。
随分と剣身の損傷が激しい。恐らく、盾の代わりとして使う場面も多かったのだろう。あまり使うことのない根元部分まで刃こぼれが酷く、表面の傷も目立つ。
修理の依頼であれば俺は、二つ返事で了承しただろう。
もっと強く鍛えなおして欲しいと言われれば、感動さえしたかもしれない。
……しかし。
「――残念ですが、それは無理なんです」
そう素直に客に伝える。
怒った客がカウンターに乗り出してくるのには、十秒もかからなかった。
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