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誉血啜りの瞳  作者: ミチバケ
新異暦786年:破滅村の章
9/22

第9話:再遭遇

 向かい来る端から障り狂いを叩き打ち、迎撃を繰り返すことどれほどか。

 延々と続いていた敵勢の波が途絶え、動くものの気配が消えた。

 耳を澄ましても物音はせず、周囲を見渡そうと追撃の姿はない。

 残っているのは大きく欠損した相当数にのぼる遺体だけ。どうやら村人全員分、障り狂いを倒し終えたようだ。

 ここで一つ息を吐く。

 しかしまだ油断はできない。警戒を解かず、村の中を見て回ることにした。

 猪突猛進の障り狂いとはいえ、何処かに紛れ込んでいたり、引っ掛かって動けなくなっている手合いが居ないとも限らない。

 もしかしたら僕のように生まれつき穢土えどへの耐性があり、転化せず負傷したまま倒れている誰かが残っている可能性もある。

 今まで穢土の被害を受けた村で同類を見付けたことはないけれど、此処もそうとは言えないだろう。


 見たところ家々が酷く壊れている風ではなかった。

 戸板が外れていたり、窓が割れているという部分はあるが、壁が崩れているだとか、柱が倒れているだとか、致命的な破壊は免れている。

 これも僕の故郷や、今まで見てきた村と同じだ。

 障り狂いは人間を優先して襲い、そのために追いかけ暴れるが、建造物を壊して回るようなことはしない。あくまでも人間を襲う過程で壊す程度に留まっている。

 無差別な破壊衝動に駆られているわけではないらしい。

 人間だった頃の名残で住んでいた場所に愛着があり、不必要な攻撃を避けているのだろうか。そのくせ家族や同じ村の仲間には容赦なく襲い掛かる。そう考えると生前の記憶というより、穢土の影響が大きいのだろう。器物ではなく、人間への攻撃性を強制する作用か。


 考えながら村中を巡ったたものの、生き残りは見付けられなかった。

 残念だが仕方ない。

 この手にかけた村民は火葬にし、安らかな眠りを願い祈ろう。

 強力な魔術が使えれば、プリムラ様が僕の故郷へしたように一手で大火を呼び、全てを清め送れるのだけど。

 村の広場へ戻ろうと振り返った瞬間、視界の端に何かが映った。

 静まり返って動くものない廃村で、唯一残った違和感。

 すぐに視線を向け直し注意深く窺うと、最後の家屋を越えた村外れの先に、ぽつりと人影が在る。

 ぼんやり佇んでいる様子だ。運よく生き残った村人が、遠巻きに村を見ている。そんな気配でもない。

 障り狂いの討ち漏らしか。

 ある程度まで近付けば、向こうも僕に気付いて襲い掛かってくるだろう。

 右腕に施した魔術はまだ解いていない。血走った目玉をギョロつかせる黒山羊を一瞥してから、僕は駆け出した。

 一歩、二歩、三歩、四歩、五歩目を踏んだ時、相手が動く。

 こちらへと顔を向け、前傾姿勢で走り始める。だが何処かおかしい。

 全身の揺れ方がやけに大きく、特に肩回りの前後運動がでたらめ。

 いや、右腕が長く異様な形に変容し、バランスが悪くなっているんだ。

 他の箇所は普通の人間体なのに、右腕だけが肥大して瘤状の塊が複数膨れている。長さも倍以上あり、肌色と紫色の混在に変色していた。

 穢土の障りに蝕まれた者が、更に変異を始めた状態。あの腕は可動域が広く力も強い。並みの障り狂いよりも危険な個体。

 僕は気を引き締め直して更に近付く。相手もこっちへ走り来るため、互いの距離は早々に縮まった。

 変質した腕以外も、十分に確認できるところまで。


「コイツ、僕の村で見た」


 相手の顔に見覚えがあり、思わず声が出た。

 かつて故郷の墓場に現れた男だ。白濁した両目に締まりなく開かれた口は障り狂いの典型だが、村民の誰でもなかった見知らぬ風貌。

 僕の住んでいた村に穢土の障りを撒き散らした、始まりの独り。

 あの日、他の村民と一緒に村ごと燃やされていなかったのか。プリムラ様が魔術を使うより前に、もう村から離れていたらしい。

 こんな所で再会するなんて思わなかった。もしかして、この村もコイツが穢土の障りを持ち込んだのか。

 なんにせよこの障り狂いを放置はできない。故郷の仇を討ち、犠牲となった村の無念を晴らすため、決着をつける。

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