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誉血啜りの瞳  作者: ミチバケ
新異暦786年:破滅村の章
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第8話:黒山羊猛る

 目の前で同輩が倒れようとも、後に続く障り狂いは止まることがない。

 怯んで動きが鈍ることも、戦意を失い逃亡を図ることもなかった。当初より変わらない攻撃性を揮い、正面から襲い掛かってくる。

 人間らしい恐怖心が絶えているため、我武者羅に獲物へ向かうことしか出来なくなっている。知性を欠いた分かりやすい突撃行動ばかりだが、その猛進ぶりは十分過ぎるほどに脅威だ。

 既に倒れている障り狂いを踏み越えて一体が迫る。

 僕へと掻き伸ばされた腕の手首、それを左手で掴み右側へと引いた。強引に誘導したところで、黒山羊が胸部から上を一気にこそぐ。丸々と喪失した箇所からは血流が溢れ、辺りへ撒き散らしつつ膝から崩れた。

 すぐ後ろから飛び出してくる新手。握り固めた左拳で鳩尾を打ち、衝撃で半歩が止まった瞬間、黒山羊を薙ぐ。横合いから開口部が奔り、障り狂いの上半を食い千切った。

 人垣の波濤が途切れることはない。次には女性の障り狂いが血濡れた歯を激しく噛み合わせ、なりふり構わない突貫を仕掛けてくる。

 僕は素早くしゃがみ、右脚を水平に回した。無警戒な敵勢にみまった足払いは的確に決まり、こちらの踵に打たれて障り狂いは足を取られ、簡単にバランスを崩す。踏ん張りが利かず自重に負けて落ちてきた相手を、右腕の黒山羊は躊躇なく強襲。頭と上体をまとめて抉り消した。

 まさに今倒した個体に躓いて、続々と駆けてくる障り狂い達が前のめりに転げていく。対して僕は再度立ち上がり、投げ出され俯せになった男や老人の背中を、黒山羊を以って相次いで穿つ。

 鋭く尖った牙と引き裂けた口腔が風を切るたび、倒れた障り狂いの体に大穴が開き、過半の部位が損なわれ、活動を止めさせた。

 対象が小さな子供の姿をしていても、僕は攻撃の手を緩めない。もはや彼等は人間でなく、情味を挟めばこちらの反応が鈍り、逆にやられてしまう。姿形や年齢性別を考慮せず、迅速且つ果断に対処することが重要だ。戦いが始まった以上、感傷に浸る暇はないのだから。冷淡に厳格に、するべきことをするべき時にする。その覚悟がなければ、障り狂いの相手は務まらない。


 次に襲い来る相手へ手刀を打ち込む。首のかくつきによって生まれた一瞬の隙へ、黒山羊をけしかけ肩から上を狩り払った。

 力なくした骸を押し退け飛び出す個体には、まだ残る衣服の胸倉を掴んで引き寄せ、同時に押し出す黒山羊で半身を断裂する。

 後ろに猛然と続く障り狂いへ、左手で寄せていた体を送り飛ばすと、これにぶつかり出足がもつれた。そこへすかさず黒山羊が舞い、二体共々に抉って散らす。

 積み重ねられた遺骸がいよいよ簡単には越えられなくなったことで、障り狂いは迂回する動作を行い始めた。直線移動ではなくなったため猶予が生まれ、今度はこちらから前へと踏み込む。

 回り込んできた相手へ膝蹴りを放ち、打たれた圧で若干後ろへ退いたところで、黒山羊による口撃。

 要点を失い脱力した体を横側へ逸らし、目前に詰め寄った対象の顎下を拳で打ち上げた。全身が伸びた直後を狙い、黒山羊で曝け出された腹部を断つ。上下に二分割された障り狂いを捨て置き、次の手合いへ回し蹴りを浴びせた。

 左腕や足技を使い障り狂いの一手を乱して、作り出した間隙を黒山羊で縫う。無秩序に攻め立てるだけの相手には、単純だからこそ効果的だった。

 可能な限り先制攻撃を意識して、こちらのペースを維持しながら一体ずつ仕留めていく。焦らず、熱くなりすぎず、冷静に見極めながら。いかに自分を保って戦場を支配するか、常に考え続ける必要がある。

 これもプリムラ様の教えだ。

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