第22話:呪い
「故郷の仇は討てたんだよー?」
「そうだね。ようやく」
ルルナウルルが気遣わしげな目を向けてきた。
こちらの事情に心を砕いてくれる優しさが、今は殊更に染みる気分だ。
送られた視線に小さく笑んで、僕は深く頷き返す。
プリムラ様の『瞳』となり、故郷を離れて60年以上が経っている。僕以外の全員を蝕んだ穢土の障り、その始まりとなった障り狂いを撃滅し、皆の無念を少しは晴らせただろうか。
故郷最後の生き残りとして、一つの仕事をやり遂げた達成感はある。死者は何も語ってくれないけれど、僕は僕なりに皆へ報いられたと信じたい。
「魔女殿の機転と力添えがあったればこそだ。貴女に感謝を」
「えへへ、照れちゃうんだよー」
背筋を伸ばし、表情を引き締め、ルルナウルルへ正対して、僕は頭を下げた。
ここで彼女と出会えた幸運も等しく噛み締めながら。
一方のルルナウルルは恥ずかしそうにしつつ、まんざらでもない様子で笑顔を広げている。
感情の変化が分かりやすく、見ていて楽しいし好ましい。僕自身も自然と微笑んでいた。
協力して危機を乗り越えた体験と実績が、親近感や仲間意識を高めたようにも思う。
「それじゃ、今度こそ『誉血啜りの魔女』様の元へ……?」
改めての帰還を願おうとした折、口内に鉄の味が滲んだ。
不審を抱いて視線を下げれば、足元に赤い雫が一つ二つと生まれていく。
唇の端を伝い、顎先へ流れた血が滴っていた。
そう気付くのと同じタイミングで咳き込み、口の中から多量の血液が吐き出される。
粘度を伴う赤黒い流体が足元で次々と跳ねた。
脚からは力が抜け、膝を折って大地に落ちる。その衝撃でまた吐血し、目の前が赤く染まっていく。
身の丈以上の魔力を使った反動?
いや、この内側から自分自身を貪られていく感覚は、遠い昔に味わった。まだ人間だった頃、変わり果てた同郷の住人に噛み襲われて帯びた不快の念。穢土の障りだ。
仇の怪物、アイツが仕掛けたとしか思えない。滅びの間際、黒山羊を経由して僕に障りを叩き付けたのか。
遠隔攻撃のできない黒山羊は、敵を倒すために必ず触れる必要がある。双方が接触した瞬間、怪物からも攻勢を受けていたんだ。
これは奴が遺した呪い。自分が終わるなら因縁ある相手も諸共に潰そうという、妄執と悪意の結実。穢れを通じて奴の怨念が伝わってくる。
僕が故郷の仇として見ていたように、怪物も障り漏らしや滅するべき対象として僕を認識していた。此処で襲ってきたのは梁に近付いたからでも、魔女の魔術に反応したからでもない。僕を葬ることが目的だった。
「げほっ、ごぶっ!」
体内でデタラメに血がせり上がり、口から溢れて止まらない。
後から後から押し合いへし合い、ビチャビチャと吐き落ちる。
見る間に僕の周りは血の池へと変わっていった。
痛みが不自然なほどないのは、身体機能が既に狂わされているからか。
まともに動くことができない。血塊を含んだ咳が緩まず、指先も痺れてきた。
これは、まずい。




