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誉血啜りの瞳  作者: ミチバケ
新異暦795年:支流の章
19/22

第19話:魔力共有

「追いつかれそう?」

「危ないよー。あっちの方が速いんだよー」

「まずいな」


 必死に走り続けているものの、後方からの圧力は刻々と増していく。

 猛烈な勢いで大地を打ち叩く回転音が、時間がすぎるほど近付いて来るのも分かった。

 状況的にかなり厳しいことは肌で感じる。自分の目で見なくとも。

 ルルナウルルの声に緊張感が抜けているお陰で、極端に焦り、思考が掻き乱れることだけはない。

 混乱に陥らず、どうにかしようと頭が回らせていられるのは救いか。


「貴女に攻撃の手段は?」

「そういうのは苦手だよー。役に立てないんだよー」

「でもこのままじゃ、二人ともグチャグチャだ。魔女の不死性も、穢土にだけは通用しないと聞くし」

「キミの魔術はどんなのだよー?」

「破壊の魔術。右手を変成して触れたものをこそいで削る」

「使えばやっつけれるよー?」

「相手の質量と肉体の強さ、内包している力を考えると、流石に押し負けそうだ」

「魔力で対象事象を拡張上書きするよー。変動率を堅固にするんだよー」

「僕一人分の魔力じゃ、どうにもできないな」

「おー、だったら私の魔力を共有しちゃうよー」

「なんだって?」


 ルルナウルルの言葉に耳を疑う。

 追跡者から逃げる足は疎かにせず、目端で彼女の様子を窺った。

 腕の中の魔女は、任せろと言わんばかりの得意顔を作っている。

 魔力は魔女と『瞳』が宿す固有のエネルギーだ。個人の中で完結し、自己生成する分だけが体内を循環している。使用者個別で定まり互換性はない。

 魔女とその直属の『瞳』であっても、個体が有す魔力は別物で譲渡が成立しない筈だ。魔女の血を受け成った『瞳』は、親となる魔女の魔力影響を受けてこそいるが、『瞳』として変異した時点で肉体が魔力の独自色を整えて共通性が失われる。つまりプリムラ様の魔力は僕に与えられないし、僕の魔力もプリムラ様には与えられない。プリムラ様の下で修練していた時、実際に何度も試して成立しなかった。

 ましてや関係ない魔女であるルルナウルルの魔力では、尚更僕に渡すなど不可能な話。


「大丈夫だよー。私の魔力をキミの生成器官内核に直接届けるよー」

「外から流し込むんじゃなく内に渡す……転移魔術で!」

「これでキミ自身の魔力として再編されるんだよー」

「『空剣の魔女(ゲートルーダー)』だから出来る芸当か」

「だよー」


 言い終わるや、ルルナウルルは左手に握り持つままだった剣を手中で回す。

 切っ先を自分の胸に向けると、躊躇いなく縦一線に振り動かした。

 彼女の体も衣服も傷付けてはいない。物質ではなく空間を裂いた魔術によって、刃の軌跡へ沿った穴が開く。

 先刻、移動のために作った穴より遥かに小さい。

 胸元へ生まれた別所への往路に、ルルナウルルは右手を差し込んだ。

 瞬間、僕の身奥に強烈な違和感が発生した。

 自分の体とは違うものが、自分の中に入り込んできた実感。不快で、吐き戻しそうになる。

 足をもつれさせないよう気力で堪えた。喉底からくるえずきを飲み込み、奥歯を噛み締め耐えて走る。

 今、ルルナウルルと僕の内部が通じ合っているわけだ。物理的な距離や現実の隔たりを跳び越えて、彼女の手が僕の最も深い場所へ侵入している。

 異なる二点間を繋げて渡す転移の魔術。それを自分の体で味わうことになるとは。

 いい経験だと納得させたいところだけど、はっきり言って気分は悪い。

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