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誉血啜りの瞳  作者: ミチバケ
新異暦795年:支流の章
15/22

第15話:梁

「ん?」

「およー?」


 穢土えどと魔女の繋がりについて耳を傾けている最中、僕は異変を感じた。

 ルルナウルルも立ち止まり、小首を傾げている。同じものを察知したのだろう。

 それは足に伝わる微小な震動だった。ささやかな揺れが体にも伝わってくる。

 でも一拍を挟んだ後、震動は明らかに大きくなった。

 下から突き上げるような揺れ幅が全身を襲い、危うくバランスを崩しそうになってしまう。


「地震!」

「およよー」


 激しい震動に苛まれ、乱れる視界の端々で岩塊が砕け、転がっていく。

 乾いた足場は数多の砂利を跳ね上げさせ、無秩序に踊らせるばかり。

 まさかこんな所で天災にみまわれるなんて。いや、こんな場所だからか。そもそもこれは天災なのか。

 容赦ない大揺れに耐えながらいると、目の前でルルナウルルが走り出した。


「魔女殿!?」


 彼女の思わぬ行動に度肝を抜かれる。

 ルルナウルルも僕と同様に激震へ襲われているというのに、それでも前方へ、断崖の端を目指して駆けて行った。

 こちらは混乱するばかりだが、彼女にはそうするべき理由があるということか。考えられるのは『穢土の支流』が齎す異常だけだ。

 ここまできては僕も確認せずにはいられない。未だ鎮まらぬ震動に揺さぶられながら、なんとか耐えて彼女の背を追う。

 上下する世界で、歯を食いしばって一歩一歩踏んでいく。

 砕けた岩の塊に襲われないよう注意を払いつつ、はためく青地のスカート裾を目印に前へ進んだ。

 進路の先、遠くから稲妻のような、地鳴りのような、重々しい鳴動が聞こえてくる。


「おわー、えらいこっちゃだよー」


 先刻通った道を再度戻っていく途上で、少しずつ揺れは治まってきた。

 視界の安定が次第に戻り、足腰への負荷も少なくなっていく。

 それへ伴いルルナウルルの、言葉ほどは切迫感の感じられない間延び声が届いた。

 逸早く崖の先端に到達していた彼女へ、僕もようやく追いつく。

 そこで見えたのは、前には存在していなかった巨大な構造体の姿。


「なんだ、これ?」


 思わず瞬きを重ね、自分の目をこすった。

 切り立った崖の先、不気味な穢土の大渦があった遥か崖下から、白亜の柱としか例えようのない物体が聳え立っている。

 ずっと下方から上へと伸び、僕達の頭上をも越えて、曇天の空へと真っ直ぐに屹立していた。

 非常に太く、両腕をいっぱいまで広げても到底囲いきれない。見える箇所にこれといった意匠はなく、ただ白い壁のようなものが延々と続く。

 見上げても頂上はずっと彼方にあるようで、どうなっているかは確認できなかった。


はりだよー」

「ハリ?」

「数百年に一度生まれる穢土の結晶体だよー。それを魔女は梁と呼んでるよー」


 片手で額にひさしを作り、白亜の物体を見上げながら、ルルナウルルが教えてくれる。

 崖の下で蠢いていた穢土の澱みが、この梁という代物に変じたというのか。

 泥や粘体めく不定形だった流れと、現在の硬質そうな巨塔ではイメージが違いすぎた。色彩にしても穢土は宵闇色の不穏なものだったけれど、コイツは白一色で陰鬱さがない。

 とはいえ穢土の在所から高く伸び上がっている事実と、さっきの地揺れを紐付けて考えれば、彼女の言葉の信憑性を疑う方が難しいだろう。

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