第14話:空剣の魔女
「貴女の見立ては正しい。僕は『誉血啜りの魔女』様の『瞳』で間違いない」
「そうだと思ったんだよー」
僕が首を縦に振って認めると、彼女は目に見えて表情を明るくした。
むふーと鼻息が聞こえてきそうなほどのしてやり顔を作り、とても満足気だ。
裏表なく感情が満面に開くのは見ていて楽しい。
「次は僕が聞きたいんだけど」
「どうぞだよー」
「貴女は誰?」
「ルルナウルルだよー。魔女なんだよー」
「大きな魔力を纏っていたものな。やっぱり魔女か」
「そうだよー。『空剣の魔女』なんて呼ばれてるよー」
僕の問い掛けに対し、彼女は快く名乗ってくれた。
初対面同士なのに、こちらを警戒している素振りがない。
僕がプリムラ様の『瞳』で、魔女と関係があるからだろうか。それとも彼女の実力であれば僕などどうとでも出来るため、取るに足らない存在と思われているからか。
真意は分からないが、彼女の異名には覚えがあった。以前プリムラ様が知り合いの魔女について少し話してくれたことがあり、その中に『空剣の魔女』の名前があったからだ。
なんでも遠く離れた二点間を結んで往路を築き、これを渡ることで誰よりも素早く遠大な距離を移動できる、空間跳躍の魔術を得意としているとか。
彼女が現れた時に通ってきた穴が、まさにそれである可能性は高い。あれは空間そのものを切り開いて、異なる場所同士を繋いでいたのかもしれない。
「教えてくれてありがとう」
「どういたしましてだよー」
相変わらず言葉尻は間延びしているけど、態度にはずっと壁がなかった。
軽快でありつつ朗らかで距離感が近い。尊大なプリムラ様とはまた違う。
ただ魔女であり、プリムラ様のことも知っており、プリムラ様からも知られているなら、どれだけ無邪気そうでも見掛け通りの年齢ではないのだろう。
魔女は不老にして不滅の存在。実際は数百歳、あるいは数千歳であってもおかしくない。
「この先に『穢土の支流』があるんだよー」
「うん、知ってる。僕もさっき確認してきたところだから」
「おー、なるほどだよー。『誉血啜りの魔女』のお使いだよー?」
「それも正解。探してくるように命じられてね」
「穢土に関わりたがる魔女はいないんだよー。厄介事の種だからだよー。でも魔女は穢土のことを気にしちゃうんだよー」
「貴女が此処にやって来た理由と、『誉血啜りの魔女』様が僕に支流を探させた理由は同じだと?」
「たぶんそうだよー。穢土と魔女は切っても切れない関係なんだよー」
ルルナウルルは意味あり気に頷いて、ゆっくりと歩き始めた。
僕が今し方引き返してきた崖縁までの道を辿るように進んでいく。
穢土と魔女の関係。その点についてプリムラ様から多くを聞いたことはない。ただ穢土が良からぬことを人々に科す危険なもの、古くから存在する負の集積であるという話だけを教えられてきた。
プリムラ様が『瞳』には必要ないと判断したのか、時期尚早だと考えたのかは分からないけど。詳しいところは個人的に興味がある。
「よかったら、その話をもっと聞かせてくれないかな」
「別にかまわないよー。そもそもの始まりは……」
なんの迷いもなく請け負って、彼女は口滑らかに語り出してくれた。
プリムラ様以外の魔女から、プリムラ様が隠していたかもしれない話を聞き出す。忠実な下僕にあるまじき行為かもしれない。
でも気になる自分の心は止められない。
僕は故郷で暮らしていた頃、世界のことなど何も知らずに生きてきた。狭く閉ざされた環境で、日々を過ごすのに必要な知識だけを持って。そのことに疑問も抱かずいた。
しかしプリムラ様の『瞳』となり、それまでまったく知らなかった数々の神秘や事実を教えられ、本当に衝撃を受けたんだ。未知なる情報を噛み砕き、自身の智として取り込んでいくことが、とても楽しかった。
楽しくて愉しくて堪らない。もっと知りたい、もっと理解していきたい。その想いが溢れてくる。こんなにも貪欲な好奇心が己の中にあったことへ驚いているほどだ。
抑えられない智的欲求に衝き動かされ、僕はルルナウルルの後へ続いた。彼女の声が聞こえる範疇へ常に居るべく。




