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誉血啜りの瞳  作者: ミチバケ
新異暦786年:破滅村の章
11/22

第11話:思わぬ決着

「まずは、その長さを断たせてもらおうか」


 黒山羊を当てれば削り切れると証明されたため、僕は追撃を狙う。

 側面に回り込んで肘関節を打ち、異形の腕を半分にまで短くしたい。可動域を狭めることで、厄介さを大幅に低下させられる筈だ。

 問題はやはり、こちらと相手のリーチ差か。攻め入っても回避行動に出られると捕捉が難しい。なんとか動きを止めるか、注意を別に惹き付けて隙を付ければいいのだけど。


「む!?」


 使える物を探して周囲へ視線を巡らす最中、障り狂いの異腕が動きを見せた。

 中指なき残り四指で地面を突き刺し、抉るように腕全体を振り上げる。

 肥大した異形の腕が大地を砕いて噴き上げさせ、複数の土塊が礫となって僕へと飛んできた。

 意外にも小賢しい手段を使う。障り狂い本体には知性の輝きを感じないのに。

 投げ付けられた土塊が眼前に迫った時、僕は黒山羊を叩き込む。

 押し出した右手は開口と共に障害物を撃砕し、細かな破片に変えて吹き散らした。

 多量の砂埃が舞ったけれど、直接的な被害はない。

 しかしこちらが今の一手に応じている間、敵方は次の行動をこなしている。力任せに叩き付ける音が響き、地面を伝って震動が足にきた。

 左手で土煙の薄幕を掻き分けて開けた先、障り狂いの身が宙空に放物線を描く。

 異形の腕で大地を激しく押して、腕力だけで跳躍を行っていた。右腕一本で腕立てをし、押し上げる際の力で体を浮かし跳ねたんだ。

 重々しく高所を滑り、こちらから更に離れた場所へ障り狂いは降りる。かと思えば再び右腕で跳ね飛び、より遠くへと距離を取った。そしてまたすぐに同じ動作を繰り返す。

 僕の走力を遥かに超える勢いで、あっという間に地平へと遠ざかっていった。あの速度で移動を続けられると、流石にここからは追い付けない。

 さっきの投擲は目晦ましか。視界を塞ぎ、意識を自分から外させ、逃走するための布石にする。

 してやれらた。まさか僕の方が気を逸らされ、取り逃がすなんて。

 なにより衝動に任せて突撃してくるだけの障り狂いが、損傷を契機として逃亡を図るとは予想外だ。

 まるであの右腕には本体とは別個の意識があり、独自に考え適時対応しているかのようだった。僕の故郷を襲った時も、同じ場所に長く留まらない方がいいと判断したのかもしれない。

 本当に思考能力があるなら危険な変異体だ。何処かでまた災いを振り撒く公算が高い。

 逃げた後を追いたい気持ちもあるけど……


『仕事を与えます。ワタクシの従僕として、見事に果たしてごらんなさい』


 プリムラ様の言葉が脳裏に過ぎった。

 僕には此処でやるべきことがある。プリムラ様の『瞳』として働かねばならない。

 故郷の仇を仕留められないのは悔やまれるが、今は任された仕事をこなす方が先決だ。

 そもそも、そのためにこの村へ来た。

 気を取り直し、周囲をもう一度見回してから、右手に掛けていた魔術を解く。

 黒山羊は一瞬で赤い粒子へと変じ、全体が細かに分解され、音もなく透けて消えた。すると下から普段通りの右手が出てくる。

 五指を握り、開きと数回繰り返して、動作や感覚を確認する。

 問題はない。

 村の広場へと再度足を向け、折り重なる村民の遺体へと近付いた。

 懐から小瓶を取り出す。入っている緑色の液体は特別な魔薬で、プリムラ様が手ずから作った。

 蓋を開け、小瓶を揺すり、中の魔薬を亡骸に振りかける。

 あとは何もせずとも液体が炎を生んで燃え上がり、倒れ伏す村民達を瞬く間に包んで焼いていった。

 普通の炎と違い、魔薬が変じたのは蒼い炎。穢土えどの障りを清める浄化の火。そして穢土の残滓に反応し、その痕跡を追い辿る標ともなる。

 遺体へ広がった蒼炎は過大に燃えず、大人しくも静かに灯るもの。家々にまでは渡らない。その根から分かたれた一筋が大地へ及び、蒼い光の線となって走り始めた。

 生まれた光は村の外へと伸びていき、付いて来いとでも言うように、迷いなく彼方へ向かう。


「あの障り狂いが逃げたのと同じ方向か」


 奴とこっちが重なるのは僥倖だ。

 あのまま駆けても見失っただろうことは必至。だがこの光を辿れば、穢土に関わるものを違えず追える。

 僕はプリムラ様の命令に従い、蒼光の導く先へ向かい踏み出した。

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