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5:廃国

 またまたアレフと行動を共にし、北へ進むこと数週間。

 麦畑だらけの村を過ぎてしばらく行くと、毒の沼地が増えてきた。出没する魔物も、心なしか可愛くないものが多い。

 ふらふら寄ってくる骸骨を叩き壊し、狂った牡牛(マッドオックス)から走って逃げ、毒矢を放つ小人に撃たれながらひたすら北上を続けた。


「なー、本当にあるのかなルディアノ。見逃してて、もう通り過ぎちゃってたりしないか?」

「どうだろう。一応、主要な道沿いに来たから大丈夫だと思うけど。それにしても道の跡が残っているということは、やっぱり昔は人の行き来があったんだね。となるとセントシュタインと同盟国だったというのも本当かもしれない。なら、どうしてその事実が歴史から抹消されたのか…」


 あーでもない、こーでもないとブツブツ呟きだしたアレフが知らぬうちに毒沼の中を歩いているので毒消し(キアリー)をかける。


「そろそろまた一休みするか」

「わかった」


 よっこらせ、と岩に腰掛けた時。

 ワシッと足首を何かに掴まれた。


「!?」


 咄嗟に、もう片方の足でナニカを蹴って外そうとする。

 それはあっさりと手を離した。――盛大に文句を言いながら。


「ちょ、痛い痛い、なにすんのよ!? こんな荒れ地で倒れ伏したレディを足蹴にするなんて、なんて人でなしなの!?」

「・・・ん?」

「ん?じゃないわよ! いいから早くホイミか薬草、あとキアリーか毒消し草ちょうだい!」


 俺の座る岩の裏を覗き込んだアレフが、喋る何かを引っ張り出して、驚いている。


「どくどくゾンビ…? どうしてこんな所に。この近辺は生息地じゃ…」

「誰がどくどくゾンビよ! 信じらんない、どっからどう見てもか弱く美しい女の子でしょ!?」


 そう喚くモノは、服も髪も沼の毒と泥でドロドロで、確かにどくどくゾンビに見えなくもない。

 …が、ここまでよく喋るとなると。


「まさか――人間、なのか?」

「ちょっと、そんな人外を見る目で見ないでよ! ……え、ちょっ待って。うそ、わたし…生きてるわよね? いつのまにか死んでてゾンビ化…してない…わよね…?」

「おいアレフ、人間とゾンビの判別方法ってあったっけ?」

「体温と脈拍の有無かなぁ」


 ということで、小柄なそいつの脈をとってみた。


「おー、ある。多分人間だ」


 それを聞いて、どくどく人間は、ホッと息を吐いた。


「はぁ、もう驚かせないでよ。一瞬、本当に死んだのかと思ったじゃない」

「それはこっちのセリフなんだがな。…あんた、こんな場所で何してたんだ?」

「力尽きてたんだってば。見ればわかるでしょ」


 どくどくがホイミ&キアリーを要求してきたので、掛けてやる。

 するといくらか顔色が人間らしくなった彼女は、得意げに後ろを指さした。


「あっちの方に、ちいさなメダルが湧き出るパワースポットがあるって噂を聞いて、確かめに来たの。でも帰り道で迷っちゃって、食料も尽きて大変だったのよ」

「よく今まで生きてたな。もしかしなくても、かなり運がいいのか?」

「それは知らないけど。いつも遭難するけど、死んだことは一度も無いわ!」


 なるほど。運のいい方向音痴か。

 黙ってアレフを眺めていると、「なんだい?」と問うので。


「いや、運の悪いおまえと一緒でルディアノに辿り着けるのか考えてたんだが…このどくどくを連れていれば中和できるかと思って。ついでに身の安全性も高まりそうだなと」

「誰がどくどくですってぇ!?」

「そうだね、ぜひ一緒に来てもらいたいな。どのみち物資も尽きているなら、ここから一人じゃ帰れないだろう。

 僕はアレフ、彼はジル。君は?」


 自分の不運をよく自覚しているアレフが流れるように話を進める。

 

「…まあ、この状況ではこっちからも願ったりだわね。わたしはクリスタ、僧侶よ。今はMP(魔力)尽きてるけど、回復なら任せてちょうだい」


 どくど――クリスタは、ぱっちりとした青い目を片方瞑り、ニカッと笑った。





 拾ったクリスタに事情を説明すると「あっちの方が瘴気が濃い」と言うので、方向を変えて進むこと数日(その間にドロドロ僧侶も多少綺麗になった。茶髪だと判明する程度には)。

 雷雲の下、紫黒の霧が漂う廃城に辿り着いた。

 城下町があった痕跡がかろうじて判るのは、民家の外壁の残骸が至る所に散らばっているからだ。

 街の入り口からでも、遠くにあるボロボロの城の影が見えた。下を見ると、真新しい馬の蹄跡がある。


「まじであったな、ルディアノっぽい所。超ぼろぼろだ…これ、やっぱ滅びて数百年くらい経ってるんじゃね?」

「何があったのかしらね? でも黒騎士ってのが現れたのは最近なんでしょ。そいつだけタイムリープでもしたのかしら」

「とりあえず、城の方に行ってみようか。何かわかることがあるかもしれない」


 アレフの言葉に頷き、ぬかるみに残る馬の蹄跡を追う。

 建物も道も消えた、瓦礫の残る更地を迷うことなく進む。こんな所だからか、魔物も多く棲息しているようだった。怪光線を放つメーダ、動くものを追う骸骨、じゃれかかるベビーマジシャンをアレフにならって扇で叩いて撃退していると、クリスタがその端から槍でトドメを刺していた。

 一息ついたところで文句を言われる。


「2人ともなにしてるのよ、ちゃんと片付けないとまた襲いかかってくるでしょ!」

「あー…いや、こいつが不殺主義者で。俺はどっちでもいいんだが」


 言い訳するようにアレフを示すと、クリスタが眉を顰めた。


「主義を変えろとは言わないけど、その方針のお陰で今、余計に大変だなー?」

「そうだね。この程度の魔物、無視して進めるくらい強くならなきゃダメだな」

「わたしは今現在の話をしてるんですけど!?」

「今の戦いから得られる経験がこの後に役立つんだよ」


 どっちも間違ってはいない気がする。

 すると、二人揃ってこちらを見た。


「「ジルはどう思う??」」

「んー…まぁ、こんな所でMP尽きても困るし、しつこい魔物だけ倒すのはどうだ? 逆に全部倒しきるのも疲れるしな」


 折衷案にアレフとクリスタは、仕方ないなぁ、という風に首肯した。



 かなり崩れている廃城だ。階段が登る途中で消失していたり、渡り廊下が落ちていたりする。その度に後戻りし、魔物と戦っては回復し、また新たな道を探る。外のようにぬかるみもなく、先に来たであろう黒騎士の足跡もわからなかった。


 

 何度目かわからない階段を上がった先がどこにも通じておらず、ため息を吐いて降りようとしたら、クリスタが宝箱を開けてはしゃいでいる。手に持っているのは赤い派手な色模様の布…か?


「見てこのバンダナ! 少しだけど、巻いてると回復魔力が上がるみたい。ラッキー♡ 私がもらって良いわよね♪」


 いそいそと腕に巻き、機嫌よく階段を戻り降りていく。

 隣ではその後ろ姿をアレフが微笑ましそうに眺めていた。

 

「暗い雰囲気の廃城だから、ああやって楽しく探索するのもいいね。僕は床を踏み抜かないので精一杯だし、君は…」

「? なんだよ?」

「ううん、なんでもないよ」


 さらーっと流された。




 やがて、迷いながらも城の深部と思われる場所に出た。広い空間で、他の場所より天井が高い。配置や壁の装飾具合を見るに、おそらく玉座の間だろう。


 壁を回り込み扉を開けると、玉座に座る何者かがいて、黒騎士が相対していた。だが「おっ、騎士さんおひさ〜」と言える雰囲気ではない。何者か――際どいドレス姿の顔色の悪い女の魔物が濃厚で邪悪な気配を纏っている。瘴気に聡いクリスタなど、先ほどのバンダナで鼻と口を押さえていた。


「く、臭い……っ、なんて悪者臭なの、鼻が曲がりそう」

「悪者臭? どんな匂いだい? 残念だけど僕はわからないなぁ」

「んー、生ゴミが発酵して酸化して崩れる寸前みたいな、ツーン・おえーって感じ」

「それはキツイな。感じなくて良かったよ」


 仲間たちが、黒騎士と相手の間に流れるシリアスな雰囲気をぶち壊している。

 仕方ないので近づいて、もしもーし、と声を掛ける。


「あんたがメリア姫と間違えたフィオーネ姫が気にしてたから、ルディアノを確かめに来たぜ。本当にあったんだな…昔に廃れたみたいだけど」


「そうだ……思い出した。私の名はレオコーン。メリア姫と婚約した後、ルディアノに害なす魔女の討伐に向かい…」

「あなたは私に敗れた…。そして永遠の(しもべ)となって、闇の世界で二人きり。

 それなのに、どうして呪縛が解けたのかしら?ねえ?レオコーン」

「黙れ! 貴様のせいで、メリア姫は…城は…っ」


 あれ、俺いない方がいい?

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