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2:旅芸人

 キュッキュと動かしていた布を持つ手を止め、ぼんやりと眼前の天使の石像を見つめる。

 【守護天使 ジリエル】と刻まれたそいつは、まったく俺に似ていないのだ。似ていたらバレていたかもしれない。


 そう、俺は今、自分の守護村であるウォルロ村に滞在している。怪我をした人間「ジル」として。

 いやー、どうやら天使界から落ちたっぽいんだよな。全く記憶に無いが。

 気づいた時には、信仰心厚い村娘リッカの家に寝かされていて、つまり俺の姿は人間にも見えていて、ついでに頭の光輪と背の翼も無くて。

 完全に人間やん。どうすんのコレぇ!?


 と頭は混乱の只中にあったが、相談できる者もおらず、とりあえず体力が戻るまでリッカの家に居候させてもらうつもりである。



 天使像の掃除を終えて振り返ると、ちょうどそのリッカがこちらに歩いてくるところだった。夕焼けの中、頭に巻いたオレンジ色のバンダナが鮮やかだ。


「ジル。お疲れさま! ちょうどお掃除終わったみたいね」

「ああ。リッカは本当に守護天使好きだよな。掃除したって像が綺麗になるだけなのに、よくやるなあ」

「あはは、変なこと言うよねジルはっ!」


 腹を抱えて笑う彼女だが、向こうが変なのか、俺が人間として変なのか、まだよくわからない。

 家へ向けて並んで歩きながら、のんびり喋る。


「ぷくくっっ…はぁ。君は変わってるけど、村に馴染むのは本当に速かったよね。驚いたのよ」

「ん…まあ、そうだな。俺も初めて来た場所には思えないくらい、居心地が良かったからな」

「次々とみんなの名前当てちゃったりね! 旅芸人って凄いのね」


 純粋に目を輝かせるリッカに申しわけない。単に10年前から俺もこっそり住んでいただけです。


「じゃあ、そろそろ夕飯の準備に・・・あれ? ニード」


 家の前を、村長の息子ニードがうろうろしていた。

 彼はなんとも微妙に不機嫌そうな様子で、俺たちの前にやってくる。俺から視線を逸らしつつ、ぼそりと告げた。


「ジルに話がある」

「珍しいわね。なら私は先に帰ってるからね~」


 ひらりと手を振って扉の中へ消えていったリッカを視線で追った後も、ニードはしばらく黙っていた。

 仕方ないので、俺も黙って草むしりでもすることにする。


 雑草の山が二つ出来上がった頃、彼は口を開いた。


「この前の大地震の時、セントシュタインと通じる道に土砂が崩れて塞がっただろう」

「ああ、おかげで俺も滝に転がり落ちた時な」


 そういうことになっている。普通に滝に落ちた程度じゃ、天使は怪我なぞしないが。


「あの道が通れないと、村の皆が困る」

「うんうん。特に、外からのお客さんで生計を立てる宿屋なんかは大変だろうな」


 そう言うと、ニードの顔がかっと赤くなった。

 

「り、リッカは関係ないだろう! い、いや関係は…あるけどよ…」


 こいつらがチビの頃から、俺は影からこっそり――じゃなくて実は正面から堂々と見ているんだ。ニードがリッカ大好き人間な事も当然知っている。


「それで?」

「・・・土砂崩れをなんとかして、道を通れるようにしたい。この辺りの魔物は弱いとはいえ、作業中に背後から襲われるわけにもいかねえから…だから…」


 ふり絞るように、徐々に小さくなっていく声でなんとか喋っているニード。

 プライドの高いこいつが、よくぞここまで成長していたものだ。

 お兄さんは嬉しいよ。


 ニードの肩をポンと叩く。


「いいぜ、一緒に行ってやるよ。それと、俺を仲間に選んだのはナイス判断だったな」




 翌日、朝。快晴。

 散歩に行くけど長くなるかもしれないとリッカに伝えて、家を出る。

 村の出口でニードと合流したところ、彼は眉を顰めた。


「お前、武器もってないじゃないか。大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。まあ、見ていればわかる。行くぞ」


 不敵な笑みを浮かべて、歩き出した。




 俺は、ウォルロ村周辺の魔物には襲われない。

 10年間、小銭を稼ぐために奴らを狩り続けた結果、魔物は俺に目を付けられるだけでゴールドを差し出して逃げ出すようになっていた。

 だがそんな事を知る由もないニードは、目を丸くしている。


「すげーなおい…旅芸人ってみんなこうなのか?」

「いや? 俺の体質だな(大噓)」

「人を見れば追いかけてくるモーモンが逃げるどころか、頭下げてんぞ・・・」

「腹が減ったら言えよ。スライムにゼリーを供出させる」

「魔王か何かか?」


 てな感じで、あっさりと土砂崩れの現場に辿り着いた。

 だが、想定していた何十倍もの規模の崩れ具合に、ニードは立ち尽くしている。人の手で取り除くより魔法で吹っ飛ばした方が早いだろうなこれは。


「まじかよ…」

「これは二人じゃ無理だなぁ」


 さて帰るぞ、と背を向けた時、「こんにちは」と女性の声がした。


「「ひっっ!!?」」


 ニードと二人して小さく飛び上がってしまった。


「なななんだ? 誰だ!?」


 辺りを見渡しても、人なんて居ない。

 だが、完全に怖気づいているニードを抑えつつ耳を澄ますと、道の脇にある岩陰から微かに音がするようだった。

 近づいて覗き込む。


 土砂に両足を覆われた、青い髪の女性がいた。

 彼女はホッとしたように片手を挙げる。


「はあ・・・やっと見つけてもらえた。そろそろ手持ちの水と薬草も尽きかけて、もう駄目かと思ったわ」





 助けた女性の名前はルイーダといった。

 セントシュタインの城下町でギルド酒場を運営しているという。

 ウォルロ村の宿屋を訪ねて出発したものの、道半ばで土砂崩れに巻き込まれたらしい。


「…――でね、だからリベルトさんに用があって…」

「リベルトさんってリッカの親父さんだろ? もう亡くなってるぜ」

「ええっ!?」

 

 とガックリしていたが、案内された宿屋を見て、目の色を変えた。


「曇りのない窓、食器のセンス、皺のないクロス、お茶のチョイス・・・この宿屋は、今は誰がやっているのかしら?」

「えっと、私ですけど…」


 不安そうに進み出たリッカの肩をガシッと掴んで、ルイーダお姉さまは叫んだ。


「この子をセントシュタインに連れて行くわ!!」




 ――とまあ、なんやかんや一通り騒いで、セントシュタインの傾いた宿屋の救世主としてリッカがそちらに向かう事になった。

 よくわからんが、彼女には宿屋の女将としての才能があるらしい。

 土砂崩れは、セントシュタインの王様が兵士を派遣して取り除いてくれた。

 ウォルロの宿屋はなぜかニードが継ぐことになり(大丈夫なのか?)、俺もリッカが旅立った後にすぐ、ウォルロを出た。




 土砂崩れがあった峠の道の途中。

 そこに、薙ぎ倒された木々の間に、くすんだ黄金色の列車が突っ込んでいた。

 こんなにも目立つのに、以前ニードは全く気に掛ける素振りも無かった。つまり人間には見えない代物なのだろう。

 天使界で、黄金の天の箱舟の事を聞いたことがある。おそらくこの前の天変地異の時、俺が人間界に落ちたのと同時に箱舟も落下したのだと思う。


 箱舟の扉を開けてみようとしたが、開かなかった。その時、


「そこのアンターーーっ!」


 謎の甲高い声と共に、後頭部に軽く衝撃が走った。

 振り向くと、ピンクとオレンジの…


「喋る・・・羽虫?」

「誰が虫よ!? アタシはサンディ、可憐な妖精よ!

 ――って、それよりもアンタ…箱舟ちゃんが見えるなんて、もしかしなくても天使なの!?」


 金髪に褐色の肌、ピンクの羽、大きなピンクの花のコサージュにオレンジ色のミニワンピ姿の自称可憐な妖精は喚いた。


「この姿でよくわかったな、確かに俺は天使だが…おまえ、見かけによらず頭きれるのか?」

「何が見かけによらずよ! ――じゃなくって、今扉開けるから早く乗って! 箱舟ちゃんが落ちて動かなくて困ってたのよ、あ~良かったぁ天使を乗せればきっと動くに違いない!」


 サンディは俺を車内に押し込み、先頭の操作パネルをいじっている。


「妖精なのはわかったけどよ、それでおまえは何なんだ?」

「聞いて驚け、天の箱舟のキャンペーンガールよ!」

「そうか」


 5秒間、時が止まった。


 何事も無かったかのように、サンディはまくしたてる。


「駄目だわ、動かない! 大体、翼も光輪も無い天使だなんて聞いたことないわ! 箱舟ちゃんがアンタのこと天使だって認めてないのねきっと。

 よし! 星のオーラを集めてきなさい! それで勝てる」


 なんなんだこいつは…

 

「無茶苦茶な理論だが筋が通っているようないないような…」

「ごちゃごちゃ言ってないで、とりあえず町ぐるみの困りごとでも一つ二つ、サクッと解決してきてちょうだい!

 大量の星のオーラをゲットするのよ!!」

ダイジェスト版でお送りしました。

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