第一話 三尺坊
昔々。
遠州(現・静岡県)の秋葉山に“三尺坊”と呼ばれる天狗神が祀られていた。
“三尺坊”は正式には「秋葉三尺坊大権現」といい、火伏…つまり、防火の神様として信仰を集めていた。
なので、東に炎をまき散らして爆走する“片輪車”がいれば…
「天魔覆滅!【三千焦土】!」
「熱っちーーーーーーーーーぃ!」
と、すぐに赴き、地殻に穴を開けるほどの大焦熱波で追い払い。
西に炎を吹きまくる“舞首”の「二の首」がいれば、
「怨念退散!『秘技・降魔快音大打球』!」
「っくしょーーーーーー!ただでさえ出番1/3なのにーーーーーーー!」
と、疾風のごとく現れては、手にした降魔の剣で大打撃でぶっ飛ばし。
北に「じゃんじゃん」とうるさい、アツアツのバカップルがいれば、
「リア充爆散!『必殺・消火器強制販売!』」
「突然何の訪問販売ジャン!?」
「しかも無駄にバカ高いじゃーーん!?」
と、防火グッズを違法スレスレの高値で売りつけ、
南に火を操る謎の南瓜が彷徨っていれば、
「熖魔退散!『絶技・越権登場禁止』!」
「呼ばれて来ればコレかよ!?」
と、背景が銀河に変わる効果付きで、凄まじいアッパーで強制退場させた。
こうした“三尺坊”の活躍もあり、人々は彼女に感謝していた。
そんなある日。
秋葉山を一人の少女が山越えをしていた。
名前は沙槻。
黒髪が美しい儚げな美少女だった。
彼女は火伏の天狗神“三尺坊”の話を聞き、わざわざ遠方から参拝にやって来たのだった。
「かみさま、どうかわたしのねがいをおききください」
無心で祈る清純なその姿と涙に“三尺坊”は胸を打たれ、思わず沙槻の前に姿を現した。
「五猟の巫女…いや、見ず知らずの少女よ。何故そのように泣くのです?」
沙槻は驚きつつ、顕現した天狗神に涙ながらに語った。
「じつは…さいきん、あるとのがたとしりあいになりまして…」
「ほう」
「そのかたはやさしくて、じゅんすいで、ひともようかいもわけへだてなくせっする、すてきなおかたなのです」
「成程」
「そのかたをみているうちに、わたしはむねのたかなるのをおさえられず、ぜんしんがあつくなるのをかんじました…」
そう言うと、沙槻は両手で顔を覆った。
「もしかしたら、わたしは『のろい』のようなものにかかってしまったのかもしれません。げんに、こうしたはなしをするだけで、かおからひがでそうなほどかおがあつくなって…」
よく見ると、沙槻は耳まで真っ赤になっている。
沙槻はか細い声で続けた。
「ですので、ひぶせのかみさまである“さんじゃくぼう”さまのごかごにすがろうとおもい、はるばるおまいりにきたのです」
それを見た“三尺坊”はすべてを察した。
いままさに間違いなくこの少女は「恋」に身を焦がしている。
しかし、純真無垢な彼女はそれを理解できず、呪いか何かだと勘違いをしており“三尺坊”に火伏の加護を祈りにきたのである。
何より、その健気さ・純真さに胸を打たれた“三尺坊”は感動したように沙槻の両肩に手を置いた
「少女よ、事情は分かりました。貴女の祈りに、この“三尺坊”全力でお応えしましょう」
そう言うと“三尺坊”は空高く舞い上がった。
そして、矢のごとく飛翔していった。
その後。
少女は一人の若者と連れ立って秋葉山を後にした。
若者を探し出し「超力・熱愛純愛神前式」によって、沙槻と夫婦の契りを交わさせた“三尺坊”
少女の祈りに応え、見事願いを成就させたことにより彼女への信仰はさらに熱いもの…もとい厚いものへと変わったという(ちなみに連行されてきた巡という若者は終始『!?』状態だった)。
恋の炎すら自由自在に操るとは、あなおそろしきことなり。