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4 下着の呪い

オレの足は今、呪われている。


目の前に広がるのは、女性用の下着売り場。

そう、オレは下着購入に来たのだ。だが、一時間くらい前からずっと、オレは下着売り場前で停滞してしまっている。


これはそう、足が呪われてしまっているのだ。オレの足が。呪われているから、この場から動けない。

呪われているから、店に入れもしない。

そう、だからこれは、仕方ないのだ。うん。今日のところは帰って、明日も普通にスカートの下に男物の下着と短パンを履いて、誤魔化せばいい。正直、履き心地がそこまでいいわけではないが、まあ、我慢できる。体育の時だって、オレは別の教室で更衣するわけだから、下に何履いてるかなんてバレることはない。


そう、だから大丈夫だ。今日のところは帰ろう。うん。そうしよう。仕方ない。だって足が呪われてるんだから。うん。かーえろ。


「あれ? 蓮か?」


何でここにいるんだよ、咲……。





♂♀♂♀♂♀♂♀






「ぷっ! あーそっか、なるほどな。じゃあ伝手があるってのは嘘だったわけか」


正直に全部咲に白状した。笑われた。

クソっ! それもこれも全部呪いのせいだ! 呪いさえなければオレは今頃……。


ま、まあでも、彩芽や翔太にバレるよりはマシか。

彩芽にバレたら、何で嘘ついたのって詰め寄られそうだし、何よりそのまま流れで一緒に下着選ぼうってなるかもしれない。翔太は翔太で、あいつ腹黒いからな……。貸し1つという名の弱みにされて、後で何要求されるか分かったもんじゃない。それに、翔太には彩芽のことが好きって伝えてないんだ。もしここにいるのが翔太だったら、そのことも含めてバレていただろう。


「頼む咲。どうかこのことは内密に…」


「おう、分かってるって。親友の頼みだしな。あ、ただ貸し1つな。今度なんか奢れよ〜」


親友は性格の悪い笑みを浮かべながら、手で丸を作る。まあ、翔太よりはマシだ。奢りの1つや2つくらい、どうということはない。


「なぁ、一緒に下着選んでくれねぇ?」


「ばっ、何で俺が一緒に選びに行かなくちゃいけないんだよ」


「ダメか?」


オレは少し上目遣いで親友に聞いてみる。

いや、やっぱやめよう。女になっても、オレの顔の根本は変わってないんだ。自分の顔で上目遣いとか、ちょっと想像するとキツイ。


「………」


親友はそっぽを向いて、オレのことを無視し始めた。そんなに気持ち悪かったか? オレの上目遣い。いや、気持ちはわかるよ。うん。けど許せよ。女の子になったしいけっかなーって思っちゃったんだよ。もしかしたらオレ可愛いのかもしれないなぁーなんて思っちゃったんだよ。

鏡見たかって? うん。そうだね。やってみる前にまず自分を客観視してみる力をつけておかないとだな。


「悪ぃ、無理言った。下着は自分で何とか「わかったよ。付き合ってやる」……へ?」


「だから、手伝ってやるって言ってんだ。下着選び」


「マジ?」


「一応、親友だしな」


「マジ魔人じゃん……」


どうやら親友は、オレの下着選びを手伝ってくれるらしい。やっぱ持つべきものは友だな!

てか、何で最初嫌がってたのに急についてきてくれることになったんだ……?

まさか………。


「お前、そんなに下着に興味があったのか?」


「は? 違うわ! いや、うん。それは嘘かもしれないが……。別に下着が見たいからお前についてくわけじゃないぞ」


違うのか。じゃあこいつ本当に何でついてきてくれるんだ?


「何で一緒に見に行ってくれるん?」


「ま、そりゃ……親友の頼みだし。もし俺がお前の立場だったとしたらって考えたら、まあ、そうだな。不安だろうなって思ったし」


ふーん? オレが思ってるより、案外友達思いな奴だったんだな、咲って。まあ、正直咲が隣にいるのといないのとでは、オレのメンタルも全然変わってくる。

咲がいなかったら、オレは呪われた足を振り切って下着コーナーに突撃しなければならなかっただろう。

咲がいることで、オレの足は解呪され、下着コーナーに足を踏み入れることへの抵抗が薄れるというものだ。

赤信号、皆で渡れば怖くない的な、ね? うんまあ、とにかくそういうことだ。


「さて、行くぞ咲」


「任せろ蓮。堂々とすれば大丈夫だ。何も恥じることはない。ささっと取って、ささっと購入する。そんで、彩芽に会わないうちにささっと帰ろう」


ささっと使い過ぎじゃない? そんなに急いでんのか。いやまあわかるよ? 女性用の下着コーナーに男の身で長居したくないっていうのはさ。


「突撃!」


「うぉぉぉおおお!」


オレ達は小声でヒソヒソと気合いを入れ合う。男のオレ(今は女なのかもしれない)が、女性用の下着コーナーに入ることに若干の抵抗があったため、こんな風に咲とふざけあうことで、少しでも罪悪感と羞恥心を軽減する。もちろんそれでも罪悪感はあるし、羞恥心もあるわけだが、幾分かはマシになる。


「無難な無地のやつ、無地で普通で……」


「くまさんぱんつとかじゃダメなん?」


「それはそれでちょっと……」


とりあえずオレは雑に選ぶ。店員さんが何かおせっかいをしてくれそうになったが、オレ達はそれを全速力で振り切り、下着の購入をささっと済ませる。そう、ささっとだ。


そうして今、オレの持つ袋には、戦利品(下着)達が入っている。

そう、勝ち取ったのだ。オレと咲、2人の手で、この物品(下着)を。


「やったな、蓮」


「ああ。定員さんに着せ替えさせられるという最悪の事態も避けた。ふ、やっぱり持つべきものは友だな」


オレと咲は、互いに拳を合わせ合う。大勝利だ。うん。これは大勝利と言っていいだろう。オレは間違いなく今この瞬間、『勝ち』をもぎ取ったのだ。あとはこのまま、ささっと帰宅するだけ。簡単な仕事だぜ。


「んじゃあ、ささっと帰るか」


「そうだな。彩芽に見つかる前に、ささっと………」


「へぇー誰に見つかる前にって?」


そう、簡単、なはずなんだけどなぁ……。なぁんでここに彩芽さんがいるんですかねぇ????


「いやぁ……。ちょっと咲と2人で秘密の特訓を……」


「その手に持った袋は何かしらぁ〜?」


彩芽はニコニコと満面の笑みを浮かべている。が、目が笑っていない。おや、これはまずいのでは……。


「な、ナンダロー」


「ねぇ蓮。下着は伝手があるって言ってたよね? 伝手ってこれのこと?」


彩芽は、咲を指差す。もはや人として扱われていない親友を見ると、涙が止まらない気持ちにさせられるね。


「いや、俺はこれ呼ばわりかよ……」


「ふーん。どれもこれも、蓮に合わなさそうなのばっかじゃない。ちゃんと試着したの? そもそも、採寸はしてもらってるの?」


「い、いやぁ……それがですね……」


「うーん。これだけじゃちょっと数が足りないと思うなぁ……。それに、もうちょっとおしゃれな下着もあるわけだしねぇ……。ね、蓮。せっかくだし、私と下着、見に行ってみない?」


彩芽はニコニコしながら、オレの右手を掴んで放そうとしてくれない。滅茶苦茶積極的だ。もしかしてオレと彩芽は両想いだったのカナ? なんて、自分でもアホらしい現実逃避をしてみる。


「じゃ、じゃあ蓮。俺は用事があるから」


「ま、待ってくれ咲! このままじゃオレは…‥オレはぁ!!」


「すまぬ親友。命には変えられん!」


そう言って裏切り者()はオレと彩芽の前から『ささっと』逃げていった。あいつ今度あったら覚えてろよ。


「それじゃ、行こっか。蓮」


あぁ……これが下着じゃなかったら、素直に喜べたものを……。


「下着だけじゃアレだし、普段着も見にいこっか」


ごめん。普段着も喜べないです。いや、男の時なら喜べたけど……。今女なんすよ……。


「ははは……」


「ふふふ……」


このあと、オレはしばらく彩芽の着せ替え人形(おもちゃ)にさせられることになった。


呪われていたのは、オレの足なんかじゃなくて。

この時、彩芽と偶然出会ってしまった、オレの運そのものだったのかもしれない。

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