2 仲良し4人組
彩芽に鼻で笑われた後、オレは仲良し4人組でまだ事情を説明してなかった御黒 翔太に、彩芽と咲の2人と共に会いに行き、性転換病にかかった旨を話した。鼻で笑われた。
「っておい! 何で彩芽も翔太もそんな反応何だよ! もっとこう……ほら、心配とかないわけ!?」
「別に蓮ってそういうの好きじゃないでしょ。何? 心配して欲しかったの?」
「そうだね、僕達に心配かけられるの、蓮ちゃんが嫌かなぁって思ったからさ」
「おい翔太てめぇちゃっかりちゃん付けしやがって舐めてんな潰すぞコラ」
2人は意地悪気な顔を浮かべながらそうオレに告げてくるが、勿論悪意からくるものじゃない。
2人なりに、以前と変わらない接し方をするように心がけてくれているんだろう。正直ありがたい。彩芽がいて、翔太がいて、咲がいて…。そしてその輪の中に、蓮がいる。そんな関係性が、オレはたまらなく心地良い。でも、それと同時に……。
「ん? 何? 私の顔になんかついてる?」
「……いや。何でもない」
この関係性を崩してしまうことが、怖い。
オレが彩芽に告白してしまったら、この関係は崩れてしまうんじゃないかって、そんな気がしてたまらない。
最初は、女になったことにデメリットしかないって言ってたけど、本当は心のどこかで……。
「せっかく女になったんだし、いっそのこと男と付き合ってみたらどうだ? 女にはモテなくても、案外男にはモテるかもしれんぞ」
ニヤニヤしながら、咲がそう提案してくる。こいつ、オレが性転換病にかかったこの状況を面白がってるな!?
「何で男に好かれにゃならんのじゃ。てか、女にモテてないのはお前も同じだろ」
ムカつくから事実を指摘してやった。やーいやーい非モテ男ー!
「なっ、だ、だまらっしゃい!! てか、大体俺らがモテないのって翔太のせいじゃねぇ?」
「確かに。翔太が変にモテるからオレ達がモテなかったのかもしれん」
ぶっちゃけオレは彩芽にさえ好かれればそれで良いんだけども、それはそれとして翔太がやけにモテるのはイケ好かないな。
「知らないよ。あっちから寄ってくるんだもん」
「なっ、こいつぁ相変わらず……。おい蓮! こいつの涙ボクロ穿り出すぞ!!」
「オレも翔太の涙ボクロはいくら何でもあざとすぎてちょっとなって思ってたんだよね。協力するぜ咲!!」
「多分翔太がいなくても2人はモテないでしょ」
翔太のイケ好かない涙ボクロを、非モテ同盟の咲と共に抉り出そうとしたまさにその時、それは彩芽の一言によって打ち砕かれる。
「そんなはずはない……いや、だってそうだろ……俺がモテないのはどう考えても……」
「いやまず咲はさ。女子の胸露骨にみてるよね? 下心バレバレ。私に対しては全然そんな素振り見せないくせにね」
「ぐ、グハァ!! ば、バレていたのか………」
いやお前、あれでバレてないは無理あるだろ。オレでも分かったぞ……。
「あ、彩芽。じゃあオレは?」
「蓮は潔癖すぎ。女子のスカート丈短かったりしたらダメだって言ってたし、ちょっとピュアすぎるのがダメ。いつまでもガキじゃいられないんだよ。ま、もうちょい大人になったらモテるかもね」
「ガーンッ!!」
好きな子から言われると少し来るものがあるな………。オレ、そんなにピュアなのか……。いや、自分で何言ってんだって感じだけど…。そっかぁ、もっと大人にならないとかぁ。
「結局僕の涙ボクロはとらなくて良いの?」
「いらんわそんなもん! お前が行うべきは、可愛い女の子を俺に紹介することだ!!」
「可愛い女の子、ね………。私なんかはどう?」
「彩芽のことはそういう目で見れん」
「まあ私も咲みたいなのは無理」
咲も彩芽も、お互いのことを異性として見ていない。世の中でよく男女の友情はあるのか、という問いが為されているが、オレはあるんじゃないかなって思ってる。だって、オレの目の前には実際にいるのだから。男女という垣根を超えて、友人として関わり合えている存在が。
「可愛い女の子、ね……。あ、良い子いるよ」
「マジか! どんな子」
「うーん。咲とめちゃくちゃ気が合って〜、多分毎日遊んでくれて〜、他の男と浮気しなさそうな子」
「え、誰々? 何クラス?」
「ちなみに1組」
「俺と同じクラスじゃん」
「じゃじゃーん! 紹介します! 加羽留 蓮ちゃんでーす!!」
そう言いながら翔太はオレの両肩を掴み、咲の目の前に立たせる。って……。
「「はぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあああ!?!?!?」」
「息ぴったりだしお似合いじゃん」
「阿吽の呼吸ってやつね」
「「合ってない!」」
「っておい俺に被せてくるな!」
「いやいや咲の方が被せてきたんじゃん!?」
オレは絶対に被せてない。咲のやつ、責任転嫁しようとしてるな? 悪い奴め。
「とまぁ、冗談は置いておくとして。女の子紹介して欲しいんだっけ?」
「ん、あぁ。別にどっちでもいいっていうか。まぁ、今の状態に満足してるんだよな」
と、咲はいきなり真面目な顔をしてそう言う。意外だな、咲のことだからてっきり彼女欲しいっていうものかと思ってたんだが。
「一緒にバカやってくれる奴がいて、俺らのブレーキになってくれる友達がいて、そんで、女の子紹介してくれるかもしれないキザ男がいて、それだけで俺は、幸せなんだ」
「咲………」
「何でそんなに恥ずかしいこと言えるのよ、全く……」
「僕だけおかしくないかな? まぁでも、咲の言うことは分かるよ」
「はぁ? お前は女の子周りに侍らせてんじゃねぇか!! 連絡先だっていっぱいあるんだろ?」
「そんなにないってば。なんか、女の子と話すよりさ、咲とか、蓮とか、彩芽と話す方が気楽で良いんだよね。一緒にいて落ち着くっていうか……」
咲と話してて落ち着くか?
「蓮と話してて落ち着くか?」
おい。
「いや、何だろ。精神的に落ち着く場所っていうか……」
「まあ、言いたいことはわかるわ。女子グループの変な駆け引きとか、スクールカーストとか、あんたらといる時は気にしなくて良いっていうのが、心地良いのよ」
まあ、正直オレも皆と同意見だ。何だかんだで咲と一緒にバカやるのが一番楽しいし、彩芽や翔太とで、4人組でいる時が1番充実してるっていうか、そんな感じがする。
てか、そっか…。
「女子にはスクールカーストがあるのか……」
そう、今現在のオレは女の子。ピチピチの女子中学生だ。うん。自分で言ってて恥ずかしいなこれ。
まあともかく、女子ともなれば、当然男子との関わりは避けるべきであって………。しかし、オレには女子社会を生きる術なんて…。
「別に無理して女子社会に入らなくていいでしょ。どうせ1年後には元に戻るわけだし。咲とかとクラスも一緒なんだから」
「ま、基本僕らと一緒にいれば何の問題もないよね」
「あ、翔太と一緒にいると女子からの嫉妬の対象にされるから、翔太とは関わらない方がいいかもね」
「えぇ……。何で僕だけ……」
今日こいつらと話してて、やっぱり、4人でいるこの時間が、1番楽しいし、居心地がいいなって、そう思える。翔太も彩芽も咲も、きっとオレと同じ思いなんだろう。
オレが女になっても、その関係性は変わらなかった。でも、だからと言って。
オレはまだ、彩芽に告白する勇気はついていない。
彩芽にオレが告白することで、この関係性が崩れる可能性を、まだ完全には拭えていない。
それは男だからとか、女だからとか、そういうのじゃない。
そう、だから。
正直オレは、女になって、安心した部分もあるのかもしれない。
彩芽への告白をしない言い訳を、作れたわけだから。
まあ、でも、今日皆と話してて、分かった。
オレ達のこの関係は、そう簡単に崩れ去るような、安っぽいもんじゃないってことだ。
「んじゃ、そろそろ解散するかー。クッソー! 明日からスカートかよぉ〜」
「教室来たらお前のスカート捲ってやんよ」
「だからモテないのよ」
「僕がモテるんじゃなくて、咲がモテなさすぎるだけなんじゃないかな?」
互いに軽口を叩き合いながら、オレ達は解散する。
この関係性が壊れることなんて、ないのかもしれない。
なんて、この時のオレは呑気にそう考えてたんだ。
オレが女になってしまったことが、後々オレ達の関係性に、とんでもない亀裂を入れてくることになるとは。
この時のオレには、想像できなかった。
4人で会話させると、地の文とか書くの忘れちゃうね。こういう関係性好きなんだけど、特殊性癖の皆さん方的にはどうなんでしょうか。