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12 初デート


「翔太……その手は、なんだ……」


「何って、恋人繋ぎだよ。僕達は恋人なんだから、こうするのは当然でしょ?」


こ、こここ、恋人繋ぎだとぉ!?

クソ、翔太が何考えてるのか分からん!


「それとも、僕を攻略するとあれだけ豪語しておいて、恋人繋ぎ程度で怯むなんて、まさかそんなことはないよね?」


いや、これは翔太のペースに乗せられている…。まさか翔太のやつ、オレを追い詰めて擬似恋人関係を解消させようとしている?

確かにオレは翔太にメリットを提示したが、それでもやっぱり翔太にとってそこまで美味しい提案ではなかったのかもしれない。


だが、負けっぱなしではいられない。防戦一方じゃダメだ。オレも攻め込んで、翔太との関係を修復するんだ!


「やってやる…! やってやんよー!!」


恋人繋ぎがなんだ。別にキスするわけじゃないんだ。なんてことはない。手を繋ぐだけなんだからな。


「顔赤いね。照れてる?」


「て、照れてない! マジで照れてない! 誓って!」


「本当に?」


「マジ魔人!」


そうだ。これは、そう、ちょっと手を繋いだことで翔太の体温がオレの体に伝わってきて、熱くなってるだけだ。


「じゃあ、顔が赤いのは気のせいか」


「あ、いや。あれだろ。ほら、最近地球温暖化が進んでるから、太陽に熱せられて顔も熱くなるんだ!」


「ふーん。それじゃ、ちょっとそこのカフェでも寄ろうか。外にいると熱いだろうし」


カフェか。なるほど、それなら隣同士で着席するなんてことはしないだろうし、恋人繋ぎはやめることができる。


よし、そうと決まれば。





♂♀♂♀♂♀♂♀





「ってなんでぇ!?」


「? 何かおかしいかな?」


「いや、何かおかしいって、そりゃ……」


なんでこいつオレの隣に座ってるんだよ!

対面の席空いてるのに、わざわざオレの隣に座って、恋人繋ぎしたまんまじゃん。

しかも、逃げ場がない。翔太のやつが通路側を陣取ってるから、オレにはこの座席を離れることもできない。

トイレ行くとでもいえば、離れてくれるんだろうが………。そんなん一時的なもんだしな……。


「んー確かにおかしいかもしれないね。せっかく中に入ったのに、蓮の顔が真っ赤なまんまだ。熱でもあるのかな? 大丈夫?」


翔太はニヤニヤとした表情を浮かべながら、わざとらしい口調でそう問いかけてくる。

……こいつ、揶揄ってやがるな……!


「い、良いから! とにかく、店に入っておいて座ってるだけだったら迷惑だし、何か頼むぞ!」


オレはメニュー表を手に取り、テーブルの上に広げる。翔太がオレの片手を塞いでいるせいで、メニュー表を取って広げるのにも少し苦戦した。


「な、なあ、いい加減この手、やめないか? ちょっと動かしづらいっていうか」


「そうかな? こうやって手を繋ぎながら、一緒にどのメニューがいいか頭を悩ませる。こんなにも恋人らしい振る舞い、ないと思うんだけどね」


「でもオレと翔太の関係は、あくまで擬似恋人関係であって、本当の恋人ってわけじゃ」


「ねえ、僕に蓮と一緒に過ごしていて楽しいって感じさせるんじゃなかったの? 僕は今楽しいよ。こうやって、蓮と恋人になったつもりで振る舞うのが。でも恋人繋ぎをやめたら、この楽しさが、少し軽減してしまうような気がしてならないんだ。それでも、蓮は僕との恋人繋ぎをやめたいの?」


「なっ……」


何を考えてるんだ、こいつは一体……。

オレのことを友達だと思えないんじゃなかったのか?

でも、恋人繋ぎが楽しいんだったよな。ってことは、こいつ恋人関係に憧れが?


いや、だとしたら告白してきた女の子と恋人になれば良いだけで……。

あ、そっか。彩芽が好きだから、他の子と付き合うのは駄目なんだ。


じゃあ、オレは?

オレとは、恋人関係になったとしても、擬似的なもの。お互いに惚れることは絶対にない。それに、彩芽に事情を説明する上で、オレなら翔太とそういう関係にはなってないだろうって簡単に納得できる存在のはずだ。


つまり、彩芽を好きでいながらも、自身の恋人が欲しいという願望を満たせる存在がオレだったってことなんだろう。


「翔太、お前も欲求不満だったんだな……」


「は?」


「彩芽のことが好きだから、他の女子には手を出せないもんな‥‥。お前もやっぱり、男だったんだ。なら、分かった。オレがその対象ってのはなんとも言えない気持ちになるが、これでもオレはお前の友達なんだ。お前の欲求不満の解消くらい付き合ってやるよ」


「そう来たか……」


翔太がポカンとした顔をしている。普段人の弱みを握って小馬鹿にするような奴が、だ。

やっぱり図星だったんだろう。翔太も実はむっつりだったんだ。

頭の中では、あ、あんなことや……こ、こんなことを……!


な、何考えてるんだ! バカ!

くっそ〜! 翔太の変態が!


「……ま、いいか。そうだよ、蓮。僕は彩芽のことが好きだけど、それはそれとして、男としてそれなりに欲望はある。だから蓮、僕の欲求不満を解消してよ。まずは、そうだな……」


翔太は、オレの顎を掴みながら、オレの顔をマジマジと、涙ボクロのある整った顔で見つめてくる。


心なしか、翔太の顔がどんどん大きくなってきている気がする。

まるで、オレの顔に翔太の顔が近づいてきているような。


このまま行くと、翔太とオレの唇が……。

あ、あ、あ!

こ、これやばい!

このままだとき、き、キスしちゃう!

やばいどうしよマジでやばい!


うわうわうわうわ!!


「お客様、ご注文をお願いできますか?」


「おっと、そういえば、まだ何も頼んでいなかったね」


た、た、助かった〜!

ま、まさか翔太のやつ、オレにキスを迫ってこようとは。

心臓ビクビク、マジでびっくりマジ魔人だったぜ。


店員さんには感謝しないとな。


ってアレ? でもオレ、店員さんを呼んだ覚えなんてないんだけど……。


まあ、いっか。




と、そんなこんなで、オレと翔太の初デートは以降何事も起こることなく、平穏に終えることができたのだった。





♂♀♂♀♂♀♂♀





「……まさかバイト中に遭遇するとは思わなかったな」


先日、私は性転換病に罹ったことで話題になっていた加羽留蓮君と友達になった。


同じ性転換病患者(私は元だが)というのもあったが、彼または彼女は私が性転換病であったことを覚えていたようだったし、まあ、他の何も知らない、私のことを表面だけでしか見ていないような同級生よりかは印象が良かったため、彼または彼女の提案を受け入れたのだ。


が、まさか早速私が提案したことを実行しているとは思わなかった。ましてや、件の彼、翔太君とやらに迫られている場面に遭遇することになるとは夢にも思わなかったし。


流石にやばそうだったので咄嗟に止めに入ったのだが。


「しかし、翔太君とやらの目、アレは‥‥」


どう考えても、本気だった。

一時の気の迷いで欲情しているわけではない。どう考えても、翔太君とやらは、本気で蓮のことをロックオンしていた。


あくまで私が客観的に見て感じただけだが、アレは多分……。


「蓮に惚れてそうだなぁ……」


蓮の話によると、翔太君とやらは彩芽ちゃんなるものに恋をしているとの話だったが、それは嘘だったのだろうか。


それにしても、あの翔太君とやら。


「目的のためなら、手段を選ばない、とまでは行かなくとも、なーんか企んでそうなんだよね〜」


私は彼の人となりを知らないからなんとも言えないが、彼は表裏が激しそうに感じる。


なんともなければ良いんだけど。


「桃里さーん! サボってないでこっちお願い〜」


「すみませーん! 今行きます!」


ま、考えても仕方ないか。

私にできるのは、蓮の相談に乗ることだけだ。


やばそうだったら手を貸せば良いわけで、今は様子見の段階だ。


それに、バイト頑張らないといけないしね。


他人の事情には突っ込まない主義なのだ。

私だって年齢詐称してバイトしているわけだし、ね?


「さ、お仕事お仕事っと」



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