1 朝起きたら性別変わってた
寝てたら、なんかエモい男女4人が私のドリームワールドに出てきました。とりあえず、そのうちの男の子1人をTSさせて、恋させようと思います。不定期です。対戦よろしくお願いします。
マジか。いや、マジかぁ…………。
オレ、加羽留 蓮は、どこにでもいる極々普通の中学2年生だ。
幼馴染の女の子に片想いをしていて、いつも仲良し4人組で固まってる。ごく普通の男子中学生だ。
そう、そのはず…………だったんだが……。
「これ、どう考えても性転換病だよな……」
鏡に写るのは、ごく普通の中学生ではある。ただし、手前に女子、という文字がつくような。
そう、オレは昨日まで、確かに男だったはずだ。それが何だ? 起きた途端、髪は伸びてるし、胸や股間にも違和感を感じた。鏡を見れば分かるが、男の時よりも体格が少し変わっているのが分かる。
とりあえず再確認のため、胸触る。うん。なんかある。股間チェック。うん。ちゃんとないね。
「マジかぁ…………嘘だろ………いやマジかぁ…………」
性転換病。正式名称は…………なんだったっけ? 急性トランスなんちゃら症候群的な、そう、極稀に発症するって言われてる、一夜にして性別が変わってしまう病気だ。どうやらオレは、この性転換病にかかってしまったらしい。
一部の界隈では、性転換病はかなりの盛り上がりを見せていて、中には性転換病に罹りたいって言ってる人もいる。実際、性別が変わるってこと以外に副作用はないし、一年間過ごせば元の性別に戻ることは可能らしいから、まあ、トランスジェンダーの人とか、後、一部頭のおかしな趣味嗜好をしている奴らは喉から手が出るほどに罹りたい病気なのだろう。
もしくは、ごく一部のおかしな趣味嗜好をしている奴らにとっては、性転換病患者は性癖ど真ん中の存在だったりするらしい。性転換病患者ってだけで荒い鼻息を鳴らして獰猛な獣のように飢えた目で見つめるような不審者もいるんだとか。怖。
「はぁ…………嘘だろマジで…………はぁ…………」
そして見ての通り、オレはトランスジェンダーでもなければ、頭のおかしな趣味嗜好をしている人間でもない。性の不一致で悩んだ覚えはないし、オレは自分自身の性に満足していたと言えるだろう。勿論オレには性転換病患者にしか欲情できないとか言う頭のおかしな趣味嗜好は存在しない。
つまり、オレにとってこの性転換病は何のメリットもない、否、デメリットしかない病気だ。
「こんなんじゃ彩芽は振り向いてくれないよなぁ………」
一番困るのは、彩芽のことだ。
桜河坂 彩芽。オレの幼馴染の女の子だ。そしてオレは、彩芽のことが好きだ。
何度告白しようと思ったことか。その度に今の関係性が崩れる事を恐れて、結局引っ込み思案のままに終わってしまっているというのに。
オレが女になってしまったら、彩芽がオレのことを見てくれる可能性がなくなってしまう。勿論、1年経てば男に戻れる。そっからまたやり直せばいいって考えもあるかもしれない。
けれど、もしその1年で、彩芽が彼氏を作ってしまったら? もし、その1年間、女として過ごした事で、オレのことを異性として意識できなくなってしまったら? そして、これは多分ないだろうが、もし、オレが男に惚れてしまったら?
…………いや、それはないわ。うん。気持ち悪い。オレは異性愛者だからな。男と恋愛なんて、考えたくもない。いや、今は同性愛者にあたるのか?
はぁ………。憂鬱だ。いくら1年間で戻れるって言ったって、1年もたちゃオレは中学3年生。受験生だ。彩芽も忙しくなるだろうし、彩芽の心を掴むとしたら、中学2年くらいしかないって思ってた。
だから、今年こそは、今年こそは告白しようと。
「そう、思ってたんだけどなぁ………」
オレはポッケに入っていたスマホを取り出し、『咲』という名前の書かれた番号に電話をかける。
『どした?』
思いの外早く電話に出てくれた。
「あ、性転換病かかった。やばい。どうしよ。助けて」
『…………ん?』
「いや、性転換病。なんとかトランスなんとか症候群にかかった。女になった。オレ、今、おっぱいある。どうすればいい?」
『ん? おぇ? まじ?』
「マジ魔人」
『マジのマジ?』
「マジ魔人オブザマジ魔人」
マジかぁ………と、咲はさっきのオレみたく、何とも形容し難いリアクションをしてくれた。うん、気持ちはわかるよ。
おっと、紹介が遅れた。三乃上 咲。こいつもまたオレの幼馴染の1人だ。一応こいつにはオレが彩芽のことが好きって事実も伝えてあるし、何でも気軽に話せる仲、まあつまりは、親友でもある。
基本的にオレは、彩芽と咲、そしてもう1人、真面目なフリして実は腹黒な御黒 翔太っていう眼鏡をかけたやつの4人で固まって行動することが多い。
まあ、彩芽は中学生になってから、女子のグループの方で固まることも多くなった気はするが、それでも、4人の関係性は変わらない。まあ、だからこそ、オレが今の関係性をぶち壊していいものなのか、悩むことになってしまったわけだが。
『んー。で、メンタル大丈夫そうか?』
「おーど直球。ちなみにだいじょばない。このままじゃ彩芽と付き合えない。オレが女になってる間に、他の男に寝取られる!」
『あー。いや、その調子なら大丈夫そうだな。とりあえず病院行っとけよ。性転換病って、確かまだあんまり前例なかったろ』
「まあ、そだな。一応1年もすりゃ男に戻れるらしいけど、性別変わったままの人とかもいるぽいしな」
『噂によると、“そういうこと”するとその性別で固定されてしまうとか』
「何だよそれ」
『だから“そういうこと”だよ。男と女がー……』
「あーやめろ。それ以上言うな。考えたくもない。その……“そういうこと”は、まだ………」
『お前男のくせに乙女っぽい時あるよな。あ、今は正真正銘乙女か』
「仕方ないだろ。苦手なんだから」
『ピュアなのは結構なことだが、いつまでもそんなじゃ愛しの彩芽は振り向いてくれないぞ?』
「黙れ童貞ぶちころがすぞ」
『おぉ怖』
こんな風にふざけた態度を取っているが、咲はこれがいつも通りだ。はっきり言って、彩芽との関係性以外にも、不安を抱えていなかったと言えば嘘になる。
オレが女になったことで、今までの交友関係にヒビが入らないか。変に気を使われて、前と同じように振る舞えなくなるんじゃないか。とか、そんな不安だ。実際、性転換病がきっかけで学校が嫌になり、不登校になった、何て子の事例はいくつも出てきているわけだし。しかもそれがほとんど中学生。モロオレじゃんってなったわけだ。
でも、いつも通りの咲を見て、安心した。そりゃ、全員が全員咲みたいな反応を返してくれるとは思わないけど、でも。親友が変わらない態度で接してくれるって言うのは、それだけで安心できる。
「学校どうすっか」
『いや流石に休めよ。いきなり知らん女子来たらクラスメイトも困るだろ。病院行っとけ』
「それもそうか」
親は仕事でいないし、行くなら自分1人でってなるんだけど、まあ、不安だよなぁ。
いきなり性転換しましたって言って、医者に信じてもらえるのかどうか……。てかそもそも、あんまり研究の進んでいる病気じゃないから、病院で診て貰うにも安心安全ってわけにはいかないだろうしなぁ……。
でも、一番心配なのは………。
「彩芽、オレの今のこの姿見てどう思うだろ」
『鼻で笑われるんじゃないか』
「彩芽はそこまで薄情じゃないだろ。いや、でもどうだろ……。もし鼻で笑われたら………」
『そしたらお前、多分脈なしだな』
「そんなぁ………」
とりあえず、病院行くかぁ……。まあ、性転換した証明ってのも必要になるしな。
♂♀♂♀♂♀♂♀
後日、彩芽に会ったところ。
鼻で笑われた。
一部のおかしな趣味嗜好の方々、楽しめましたか?