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雨の日の思考録

作者: まこと

 夜の雨の日の車道は、死に近い。


 真っ暗な道を、ただひたすらにまっすぐ進む。急に前のクルマが停車すると勢い余って突っ込みそうになる。

 ああ、ここで突っ込んだらどうなるだろう。カーブで急発進をしたらどうなるだろう。少しの危険に出会すと、どうしたら死ねるのか、死んでしまうのか。そんなことをふと考えはじめる。



 そもそも死ぬことはいけないことなのだろうか。してはいけないことなのだろうか。自分が死んだあとのことを想像してみる。汚い部屋を見て親はなんと思うのだろうか。仕事場で悲しんでくれる人はいるのだろうか。まぁ、いるんだろうな。悲しませるのは良くないな、と思う。自殺をしてはいけないのかは分からないが、迷惑をかけるのは面倒くさいと感じるので、しない方が自分の為だろう。




 なーんてことを考えながら、夜の道をまっすぐ進んで行く。


 


 四月。新年度3日目から新卒が来なくなった。

 人が1人いないだけで歯車の回らなくなる会社はどうかと思うが、実際のところ我が社は様々なところで軋みが生じている。

 社員を駒としてしか考えない管理職、お局には逆らえない中堅、ぼろ雑巾のように仕事しまくる若手。新品の雑巾がぼろになる前にいなくなったのはいいことなのだろう。ただ、ほかの雑巾達がもっとボロボロになっていくのだ。



 自分がいなくなったら、どうなるのだろう。



 新卒がいなくなって3日目。もう、口に出す人はいなくなった。あたかも元から彼がいなかったように振る舞う職場にゾッとするが、自分もその中の一人であるのだ。自分が消えてもきっとそうなのだろう。


 自分はあくまでも歯車の一部であり、メインのパーツではない。欠けても他のパーツが補える消耗品なのだ。



 学生時代はそのことに気づけなかった。親からの愛情を受け、何も心配のない生活を送っていたあの頃は、自分が何よりも大切で、自分の代わりは誰にも出来ないと思っていた。自分が欠けたら、世界はきっと回らなくなる、そう信じていた。



 現実は違う。世界は回っていく。自分が消えたあとも、自分の存在などあったのかどうか分からなくなるほどあっという間に回っていくのだろう。特別でもなんでもない、ただのありふれた会社員なのだから。



 しかし、そのことを直視するのが怖くて、八方美人となり、会社は一日も休まずに通勤している。

 周りからは勤勉で真面目な人として見られているのだろう。


 中身はこんなにも、思考のゴミ部屋と化しているというのに。ただ、臆病で自分を直視できないだけなのに。




 臆病。




 そうだ。自分は臆病なのだ。死について考えることも、自分の死後について考えることも、現実を直視したくない表れなのだ。

 臆病な自分を直視することも恐れる臆病もの。

 それが自分なのだ。



 そんなことを考えている間に、車は進んでいく。

 自分で進みたいと思っていなくても、アクセルを軽く踏んでいたら自然と前に進んでいる。便利な乗り物だ。全く。

 緊急車両が通る度に、思考は死から遠ざかり、衣食住の食について考えはじめる。ありがとう、緊急車両。緊急車両が自分を真人間に戻してくれる。いつも感謝してます。



 はーあ。夜も遅くなった。1日よく耐えた。無闇に頭を下げずに過ごした。自分にご褒美のからあげクンを買いに近くのコンビニへ。コンビニの光は人間を蛾にする。


 車から降りると、仮面を被った自分が再び現れる。下に隠した思考の渦を封じ込めるかのように。


「からあげクンチーズ味ください」


 からあげクンチーズ味は自殺から一番遠い食べ物だ。今日も頑張った自分。明日も頑張ろう。

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