09 魔法都市コーレインで一泊しよう
「ようやく見えてきたね。 あそこが今日の宿泊予定の町の『魔法都市コーレイン』だよ」
バルシェムの町を出て少し進んだ時に出くわしたガルタイトからの最初の追手を退いた俺達を乗せた馬車は、数回のトイレ休憩を挟みつつも約12時間掛けて走り、ようやく次の町である『魔法都市コーレイン』に到着しようとしていた。
空は昨日バルシェムの町に着こうとしていた時と同様に夕焼けに染まり、カラスの鳴き声が飛び交っている。
「幸い、ここまで魔物も追手も現れなかったね」
「その方がいいと思う。 休憩所でトイレ休憩している最中に襲われたらと思うとな」
「そっか。 魔物なら結界で何とかなるけど、追手はねぇ……」
「確かにあいつらなら、乙女の花摘みの最中でも容赦なく襲ってくるイメージだよ」
そう。
この町に着くまでに何度かトイレ休憩を挟んだが、魔物や追手が現れなかったのが救いだ。
特に追手は、勇者が含まれることは確定なので、ひなたやアイリスちゃんがトイレ休憩している最中に襲う事だってありえるのだ。
なので、今回はそれが無くてよかったと思っている。
なお、アイリスちゃん曰く魔物に関しては休憩所に張られている結界で対処できるようだ。
「さぁ、そろそろ町の中に入るよ」
そう言いながらアイリスちゃんが手綱を握る。
速度を落としてゆっくりと町の門をくぐっていく。
「ようこそ、魔法都市コーレインへ。 ごゆっくりどうぞ」
門番から歓迎された俺達は、まず宿屋を目指す。
先に部屋を取っておかないと、面倒になりそうだからとか。
「この町も一応、冒険者ギルドがあるからね。 冒険者の為の宿も多いんだよ。 学生の場合は学生寮があるけどね」
「そうなのか?」
「うん。 一部魔道具の製作材料を取ってもらう為に冒険者に依頼するケースもあるみたいだから」
「それだけ重要な魔道具も作られているんだね?」
「そういう事。 この街灯も魔道具なんだよ。 光の魔法を電気代わりにして夜に灯しているんだよ」
この町にある街灯、魔道具だったのか。
光の魔法もこの世界にはあったんだな。
俺達異世界の者からしたら、光の魔法って神聖なイメージなんだが、この世界は違うみたいだ。
「さて、あそこの宿に泊まろう」
「他の宿より規模が大きいな。 宿代は高いんじゃ?」
アイリスちゃんから提案された宿屋は、他の宿と比べて規模が大きい。
俺達の世界で言うなら、高級ホテルみたいな立ち位置の宿屋だ。
だから、宿代が高いのではと不安になり、アイリスちゃんにそう言った。
「大丈夫。 私が払うから。 バルシェムでも私が払ったんだし、まだお兄ちゃん達はこの世界のお金は持ってないでしょ」
「ああ、確かに……」
ここまで来て気付かなかったとか相当ボケてるな、俺は。
この世界のお金と俺達の世界のお金とはまったく違う事に。
「ちなみに単位は?」
「お金の? この世界はというか、ガイアブルクでの単位は『リル』だね。 隣国のヘキサ公国は『ガルド』で相場は1リルで『10ガルド』らしいよ」
「国ごとに違うのか……。 そこだけは俺達の世界と一緒だなぁ」
国ごとにお金の単位が違うのは俺達の世界と同じだった。
相場に関しては、まったく分からないのでそこは現時点ではスルーしておく。
いつか換金する時に改めて教えてもらう事にはなりそうだけど……。
「とにかく宿を確保しよう。 泊る場所がないと困るしね」
「そ、そうだな」
「うん、そうだね」
確かに宿を確保できないのは困る。
それで納得した俺達は、すぐに宿屋の中に入る。
ちなみに馬車は、繋ぎ場に止めてある。
盗まれないようにトラップを仕掛けているみたいで、アイリスちゃんの用心さを垣間見た。
「一部屋だけど、広い部屋を取れてよかったね」
「三人部屋か。 確かに広いなぁ」
「ベッドもフカフカだね。 バルシェムの宿屋も良かったけど、こっちもいいね」
結果的には一部屋だが、三人部屋が取れたので安心した。
ひなたが言うようにベッドもフカフカだし、昨日のバルシェムの宿屋とは互角だと思う。
「さて、もうすぐ夜だし宿屋の食堂で食事して、お風呂に入ってから寝てしまおうよ」
「買い物はどうするの? 明日?」
「そうだね。 ここを出たら王都までは12時間は掛るし早朝に開いてる店でお買い物だね」
「分かった。 じゃあまずは腹ごしらえか」
「うん。 さっそく食堂に向かうよ。 一階にあるからね」
買い物は明日の早朝に開いてる店で済ませる事にし、俺達は食事と風呂を済ませて寝る事にした。
風呂については、各部屋にあるためか風呂の最中にひなたとアイリスちゃんが乱入してきたのは驚いたが、目の保養はできたと思っておく。
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