83 ゼイドラムへの道中にて
「すごい……! デコボコ道走ってるのに……揺れない」
俺達は今、機械技術国ゼイドラムの首都に向けてバスで移動している。
窓際に座って景色を見ている胡桃が、他国移動用に改造されたバスに乗った感想がそれだった。
確かに、走ってる最中にデコボコ道があったりすると車体が揺れたりするのだが、俺とエミリーが乗った魔導馬車みたいに、このバスにそれがない。
やはり、このバスにも重力魔法をふんだんに使っているのだろうな。
「車体に重力魔法を掛けて今のようなデコボコ道を走っても揺れないように制御してるのだ。 車輪もこの手の道に強いタイプの物を使っている」
「そなの?」
「ああ、そうさ」
クロウ中佐が胡桃にこのバスには重力魔法を使っている事を優しく説明している。
胡桃はそれを聞いて目を輝かせているな。
「確か、ゼイドラムの国民しか重力魔法は使えないんでしたっけ?」
由奈は、重力魔法について改めて聞く。
俺とエミリーからある程度聞いているが、詳しく知りたいんだろう。
そこにシャルロット女王が答えてくれた。
「正確には、ゼイドラム国の技術者のみ習得できる魔法でな。 今のように重心を安定させるために利用するもので、攻撃には向かんからな。 他国からしたら余り伝わらんのも無理はない」
シャルロット女王曰く、あくまで重力魔法は重心制御のための魔法ってわけだ。
確かにそれなら技術者向けといえそうだ。
「じゃあ一緒に走ってる戦車も?」
「そうじゃ。 無限軌道と車体の間に重力魔法を掛けて揺れないように制御しておる」
あの戦車も一緒に走ってるようだ。
まぁ、ひとまず護衛と言う名目上納得するしかないのだが……。
「でも、どうしてここまで……?」
「それぞれの国は領土が広い。 しかも国によっては……さらに深く堀り返せば首都から離れた地方の領主によってはデコボコ道を放置しているケースもある。 舗装する気もないかそれ用のお金がないのだろう。 故に我々の方でそれを解決すべく重力魔法しかり車輪の教科や車体の改造などを行ってきた」
「へぇ……」
「確かにうちも一部の地方領主がお金があるのに舗装に乗り気じゃないってのがいたね……。 結局お父さんの強制執行で舗装されたけど」
ひなたからの疑問にクロウ中佐が答えてくれた。
それを聞いたアイリスもそういった領主がいたことを思い出していた。
お金がないのは仕方がないにしても、お金があるのに発展したくないっていうのは、流石に廃れる要因にもなりかねない気がするのだが……。
「あ、後このバスの動力は?」
「マナというこの世界全てに浸透されている魔力の源を抽出して専用の装置にため込んだもので動かしておる」
「いわゆるマナのバッテリーって事ですか?」
「そなたらの世界で言うならそういう感じじゃ。 複数搭載しているマナタンクがそれを担っておる」
(魔導馬車と同じように、マナタンクを動力用のバッテリーとして使ってるわけか)
酔い止めの薬のおかげでバス酔いがない由奈からはバスの動力の事を聞いた。
どうやら魔力の源であるマナを抽出して蓄える……いわゆるマナのバッテリーを動力としているようだ。
マナが蓄えられているので、少しのマナでもかなりの長距離を走ることができるのだとか。
魔導馬車と同じように、マナタンクがそれらを担っているらしい。
バスなので、タンクは複数あるみただが。
後、排気ガスの心配はなさそうだ。
ゼイドラムへの道中は景色の切り替わりが激しく見てて飽きない。
途中の休憩所でも動物と戯れながら休憩したりして楽しんだ。
再出発してもその景色の切り替わりの激しさは変わらなかった。
ガイアブルクからは大体3時間は走行している。
クロウ中佐曰く、後1時間で着くのだとか。
それでも椅子がフカフカなので、快適度が高く、ひなたに至っては着くまで寝ていたらしい。
ちなみに馬車で同じルートを行くと3日から4日は掛かるらしい。
バスだから、こんなに短い時間で着けるわけか。
「見えて来たな。 あれがゼイドラムの首都【ゼットリム】だ」
「うわぁ、ホントに近代的な街並みだ……。 他のと世界観が違う……」
「確かにね……。 ビルが並んでる所があるよ」
暫くバスを走り続けると、機械技術国ゼイドラムの首都の【ゼットリム】が見えてきたとクロウ中佐が教えてくれた。
遠くからだが、完全に近代的な街並みになっており、そこだけまるで世界観が違う感じだ。
首都が見えてきた為に、由奈はいつの間にか寝ていたひなたを起こそうとした。
「おーい、ひなたちゃーん、もうすぐ着くよー」
「ん、んにゃ……?」
「ひなねぇ、起きて……」
「ふ、ふぁいっ!!」
胡桃にペチペチと叩かれてようやく飛び起きる。
「よく眠っていたな……、ひなたよ……」
「あ、あはは……面目ない。 ちょっとトイレ行ってくるよ」
そう言って眠気眼のひなたはバスに設置してあるトイレに行った。
「ここまでくれば後10分後にはバス専用のゲートへと着く。 街へはそこから入ろう」
「わかりました、クロウ中佐」
後10分か。
遠くからでも世界観が違う街だったのだから、実際に見るとどうなるのかは分からない。
だからこそ、楽しみで仕方がないのだが……。
「お兄ちゃん、にやけてるね」
「初めて訪れる他国の街ですからね。 暁斗様もそうですが、由奈様も目を輝かせてますよ」
「あー、ホントだ。 まぁ、私も楽しみなんだけどね、その街に入るのは」
「ボクもだよ。 ヘキサ公国の冒険者ギルドで聞いた事はあるけど」
アイリスとクリスタとエミリーが話し込んでいるが、気にしない。
ひなたもトイレから戻ってきた所で、ついにゼイドラムの首都【ゼットリム】へとたどり着く。
名目上護衛として動かしていた戦車群と別れ、俺達を乗せたバスはゆっくり、専用のゲートに入っていくのであった。
よろしければ、広告の下の評価(【☆☆☆☆☆】のところ)に星を付けるか、ブックマークをお願いします。
作者のモチベーションの維持に繋がります。
 




