81 解放戦から二週間後
クレハ共和国の解放戦から二週間が経過した。
俺達はそれから2日後にはゼイドラムへ行く事になる。
西地区の入り口で待ち合わせになるという話は胡桃にも伝えておいた。
ちなみに由奈と町巡りをした後も冒険者活動をしたり、後輩達を鍛えたりした。
後輩達もメキメキと実力を上げており、早い速度でソロのランクがCまで上がったとか。
それと、この二週間で追手とかの気配はなかった。
解放戦中に後輩たちと戦った追手部隊が全滅したことで、部隊の編成ができなくなったものと思われる。
また、北部の討伐部隊壊滅の際にアンというガルタイトの王女が戦死したという情報も入ってきた。
これもまた一つの要因ともなってるようだ。
惜しむらくはアンを俺の手で引導を渡せなかった事だ。
あの女は俺を睡眠系の呪いを掛けてくれたからな……。
今、俺は『解呪の札』を試しに作っているところだ。
と言っても、【マジカルペーパー】という白紙のスクロールアイテムに解呪のスキル【ディスペルカース】を付与する形なのだが。
これはかつて、さっき言った睡眠系の呪いを掛けられた俺に対して使用したものであり、Sランクの効力でも解呪完了まで3日掛かるとアイリスが言っていた。
直接【ディスペルカース】を使うなら即解呪できるが、いざという時のために用意された【マジカルペーパー】で解呪のスキルを付与してやってみようという流れに至った。
付与が完了し、【鑑定】を掛けて調べてみる。
「……だめか」
俺はため息を吐いた。
鑑定した結果、やはりSランクになったものの解呪完了には3日掛かるという内容が出た。
呪術師を極めた俺の能力でも、札に付与するとこれが限界なのだろう。
「やっぱり紙の性質上、そうなるんだろうね……」
傍らで見守っていたアイリスも同様に嘆いていた。
「これだと【時限爆弾】みたいな呪いに対処できないな」
「うん、それ系の呪いの場合は結局お兄ちゃんや他の呪術師を極めた人に直接やってもらうしかないね。 私もそろそろ呪術師を極めないと……」
「そういえば、アイリスも呪術師の素質を持ってたんだったな」
「そうだよ。 でも、今までずっと魔術師で戦ってたから呪術師の素質を鍛えるのを忘れてたんだよ…」
今までアイリスが魔術師の魔法ばかり使ってたのですっかり忘れていたが、アイリスも呪術師の素質を持ってるのだ。
これからの為にも、アイリスにも呪術師を極めてもらわないといけなくなったのだ。
「そういや他のみんなは?」
「ひなたお姉ちゃんと由奈お姉ちゃんはお買い物。 胡桃ちゃんとクリスタちゃんはテイム魔物のお世話だね」
「ほぉ、胡桃が世話を買って出たか」
「と言ってもモチちゃんとメイジフォックスウルフのおチビーズたちの世話なんだけどね」
「いいじゃないか。 胡桃にとっても世話をしやすいだろうし。 クリスタはラムとラビの世話か」
「そういう事になるね。 でもおかげで安心してテイム魔物も育てられるよね」
「だな。 テイム魔物がみんなに好かれているのが幸いしたな」
大人しく人見知りの激しい胡桃だが、テイムした魔物を相手にするには問題はない。
というか、主にフェアリーキャットのモチをモフモフしていたり、おチビーズと遊んであげたりする光景をよく見る。
おかげで負担が和らいでおり、冒険者活動に精を出したり今のような実験も出来るわけだ。
「もうそろそろひなた達が帰ってくるころだな」
「うん。 帰ってきたらすぐにご飯を作るから、胡桃ちゃん達にも伝えておいてね」
「わかった」
というやり取りをしていた矢先に玄関から声が聞こえた。
「ただいまー」
ひなたの声だ。
俺とアイリスが二人を出迎える。
「お帰りー。 結構買って来たね」
「うん、モチちゃん達の専用フードも買ってきたからね。 そろそろ少なくなってきてたから」
「ああ、悪いな……」
「どうって事ないよ。 それより、そっちの進捗はどうだった?」
「残念ながらダメだったよ。 結局、マジカルペーパー経由だと解呪に3日掛かるのは変わらない」
「そっか……」
「だから、私も【呪術師】の素質を鍛えないとって思ってたんだよ」
俺達はひなたと由奈に進捗を伝えた。
紙経由だとどうしても3日の壁が越えられないので、アイリスに【呪術師】のレベルを上げてもらう事に決まったようだ。
「3日掛かるんじゃ【時限爆弾】を解呪する前に爆発四散されちゃうしね」
「それだけは流石に暁斗君やアイリスちゃんに直接解呪してもらうしかないって事ね」
「そうなんだよね……。 私は特に【魔術師】ばかりで片方はサボってたしね」
そう。
やはり【時限爆弾】という厄介な呪術は俺やアイリスが直接解呪しないといけないのだ。
アイリス自身、【呪術師】を鍛えるのをサボったことに後悔してるみたいだし。
「そういえば、ゼイドラムへ行く事は胡桃ちゃんには伝えたの?」
「ああ、伝えたよ。 胡桃用の銃も手に入るよって事もね」
「じゃあ、私達は大体2日後に向けてゼイドラムに行く準備もした方がいいね」
「そうだな。 向かう先が機械技術国だから、心の準備もしておかないと」
「異世界からきた私達でも、今はガイアブルクに慣れちゃったからね」
おそらく、今回のゼイドラムへの旅はクロウ中佐が伝えてくれたんだろうな。
クレハ解放戦の件で俺達の事も伝わってる為に、ゼイドラムの国民も興味をもったのだろう。
だから、クリストフ国王の手配にもすんなり通ったのだろう。
ともかく、俺自身も胡桃も【ガンナー】の素質だけはまだ手を付けていないしな。
これでひとまず銃が手に入ると分かれば、テンションが上がらずにはいられない。
そんな感覚で、俺は2日後に向けた準備を進めるのだった。
よろしければ、広告の下の評価(【☆☆☆☆☆】のところ)に星を付けるか、ブックマークをお願いします。
作者のモチベーションの維持に繋がります。




