72 試作型の魔導馬車
「では、俺とエミリーはガイアブルクに戻ります」
「そうですか。 私は後始末の為にもう少しクレハ共和国に残らないといけないですので、父や妹のアイリスによろしく伝えて下さいね」
「はい」
エミリーの告白を受け入れた俺は、エミリーと共にガイアブルクに戻ることにした事をエリス王女に伝えていた。
エリス王女は今は他に人がいるために、素の口調ではないようだ。
どうもエリス王女はこの後も後始末の為にクレハ共和国に残らないといけないそうだ。
それが二次会の後の翌日にするっていうのだから、大変だなぁと思った。
そんな事を思っていたら、横からクロウ中佐が話しかけて来た。
「所で、君は転移アイテムは持っているのか?」
「いえ、最後の転移アイテムはひなた達が使いましたから」
「確かに今回の作戦で、多くの冒険者達に向けて転移アイテムを使いましたからね……」
そう。
この奪還戦の為に転移アイテムを使ったので、ひなた達の帰還用が最後だった。
なので、今は持っていない。
「ここからだと馬車で一週間は掛かるね。 道が舗装されてないし」
「あると思ったんだけど……確認が甘かったな。 エミリーも持ってないんだろ?」
「うん、持ってないね」
エミリーが言うように、ここクレハ共和国からガイアブルクへは舗装されてない道を通らねばならず、普通の馬車では一週間かかってしまうのだ。
これについてば、転移アイテムの数を確認しなかった俺の落ち度だ。
一応、エミリーにも聞いたが彼女も持っていないとの事。
そこでクロウ中佐は俺達にこう言ってきたのだ。
「ならば、君達に渡したい代物がある。 試作型だが、ガイアブルクへ掛かる日数を短縮できる」
「俺達にですか?」
「どんなのだろうね」
クロウ中佐から俺達に渡したいものがあるようで、エミリーと顔を向き合いながら何だろうと考える。
このままではアレなので、大人しく彼の後をついていく。
「これだ」
「これは……馬車?」
「でも、只の馬車じゃないよ。 馬の方は魔導人形だし、馬車もゼイドラムでよく見る近代的構造だし……」
しばらく彼の後をついていくと、彼が見せて来たものは……馬車だった。
だが、只の馬車ではない。
エミリー曰く、馬の方は魔導人形らしく、馬車に至っては近代的な構造をしている。
「これはゼイドラムで作られた試作型の魔導馬車だ。 今回のような舗装されてない道を走らざるおえない場合に使う馬車の先行試作タイプだ」
「これを俺達に?」
「そうだ。 行き先を予め馬車に設置してあるナビに話しかける事で反応し、そこまで休まずに走ってくれる。 一般の馬車に比べてかなり速くなってるぞ」
クロウ中佐が渡したい代物は、魔導馬車だった。
今回のような舗装されていない道を走るのにうってつけの代物だという事か。
馬車内にあるナビに目的地を伝える事で、自動でかつ休まずに目的地まで走ってくれるようだ。
という事は、馬型の魔導人形はかなりの魔力をため込んでいるという事だろう。
「また、馬車や馬型の魔導人形には結界や重力魔法をふんだんに使っている。 そのため、悪い道を走っても馬車は揺れないし、魔物や盗賊は遭遇しない」
「なんて代物なんですか。 確かに重力魔法はゼイドラムの人しか使えないものですが……」
さらなるクロウ中佐からの説明にエミリーは呆れかえる。
ゼイドラムの国民しか使えない重力魔法をふんだんに使い、さらに結界も仕込んでいる。
性能的にチートレベルの代物だから、エミリーが呆れるのも分かる。
「でも、これなら敵にも遭遇せずに快適にガイアブルクに戻れるのですよね?」
「ああ、そうだ。 私が保証しよう」
「だったら、受け取ります。 エミリーもいいよな?」
「うん。 ひなたちゃん達がボク達を心配してるかも知れないし、早めに帰ってあげた方がいいからね」
何だかんだで考えた結果、この試作型の魔導馬車を受け取ることにした。
エミリーに事後確認したが、彼女も俺の決定に同意してくれた。
これがあれば、確かにガイアブルクへの所要日数が短縮されるし、重力魔法のおかげで揺れない上に魔物や盗賊と遭遇しない。
早く戻るのにうってつけの代物なのだ。
「では、食料や衣類など必需品を詰め込んでおこう。 馬車内の設備は君達で中に入って確認してくれ」
「分かりました」
クロウ中佐の命令で、ゼイドラムの兵士たちが食料と衣類などの必需品を詰め込んでいく。
「そういえば、エミリーの方の荷物は?」
「ここに持ってるよ。 下着とかはここにあるしね」
「そっか。 じゃあ、馬車の中に入ろうか。 どんな設備があるか気になるし」
「うん。 ボクも気になるなぁ。 ノンストップだから、それにちなんだ設備があるといいかな? まぁ、アキト君と二人きりになるし、別に大丈夫だけどね」
何か意味深な発言を聞いたが、とにかく俺とエミリーは馬車の中に入った。
設備の確認とナビの使い方を覚えておかないとな。
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