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34 閑話~その頃のガルタイト国内③~

「なんですって!? 第2陣も全滅した!?」


「はい、使い魔による映像で確認したところ、間違いありません」


 ガルタイトの王室に、ホムンクルスの王女の一人、ザナ・ガルタイトの怒声が響き渡る。

 今回の追手部隊の編成は、彼女の感情の赴くままに編成していた。

 彼女は特に足を深く突き刺された事で、格闘をできなくしたひなたを恨み、無能である暁斗を殺すついでにひなたも死んでもらおうということで、宰相の制止を振り切って編成された。

 最初の追手も全滅させられ、さらに今回の追手部隊が全滅したという報告を聞いて冷静ではいられない。

 だが、さらなる報告でますます冷静さを失う事となった。


「今回、対象者たちの隣に魔王がいた事、そして我々が無能と罵った男に、ホムンクルス兵士4人と勇者2人が殺されました」


「なん……ですって!?」


「兵士4人については、一振りでまとめて首をはねられました。 勇者2人もそうです。 いずれも力をセーブした状態、本気ではなかった状態です」


「くっ、なんであの無能が……」


 ザナは、怒りに震え、頭を抱えた。

 魔王がそこにいた事より、無能と罵った暁斗に追手の大半を殺された事の方が彼女にとっては屈辱なのだ。

 勇者の素質がないのに、何故ここまで強いのかと。


「次の追手部隊は三週間後に差し向けなさい。 それまでは訓練を怠らないように」


「かしこまりました」


 ザナの命令を受け、ホムンクルスのメイドが部屋を出た。

 一人になったザナは、ますます怒りに身体を震わせた。


「やってくれたわね、あの無能……。 今に見てなさい……。 必ず痛い目を見せてやる!」


 しかし、そんなザナの決意をいとも簡単に一蹴され、逆に痛い目を見る事をこの時点では知るよしはなかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「は!? マジかそれ!?」


「そうみたい。 第二の追手部隊として派遣された高田さん、日下部さん、濁川(にじかわ)君、鞍馬君も死んだみたい」


「うそだろ……? あいつらが……」


 訓練から戻った光輝と貴之は、魔王討伐部隊の別グループの女子生徒から、追手部隊の凶報が城内に伝わっていた事を教えられた。

 聞いた二人は信じられないと言った表情をしていた。


「くそっ、葛野はそこまで……」


「葛野さんだけじゃないわ。 兵士4人と濁川君と鞍馬君は、佐々木にあっさり殺されたそうよ」


「な、なんだって!?」


 さらに信じられない内容が耳に入り、ますます混乱していた。

 自分たちが無能と罵った暁斗にクラスメイトの二人があっさり殺されたのだ。


「ゆ、許せねぇ、無能の癖に……!」


「怒りに震えるのは分かるけど、私たちは私たちの役目を遂行するしかないの」


「わ、わかってるよ……」


 怒りに震える光輝と貴之に、女子生徒は諌める。

 二人は内心納得できないが、自分の役目があるため納得するしかなかった。


「三週間後に第三の追手部隊を差し出すみたいだし、彼らに託しましょう」


「ああ、そうだな……」


 去って行く女子生徒の背中を見つつ、二人は改めて怒りに身体を震わせた。


(許さねぇぞ、佐々木……。 必ず殺してやる)


 光輝が心の中でそう決意するが、それは実らぬ決意である事を今の彼は知らない。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「そっか……、三週間後なんだね」


「はい、他のメイドから、ザナ王女の命令としてそう伝達されました」


 ある自室で由奈が、メイドからの話を聞いていた。

 ついに来た。

 自分の命は後三週間。

 彼女自身が、そう決定付けていた。

 そんな彼女を見ていられなくなったのか、メイドが由奈に問いかける。


「なんとか話し合いしようとは思わないのですか?」


「無理だよ。 そうするには、長く掛かりすぎたし、他の人がそれを許さない。 何より、二人もそんな余裕なんてないだろうから……」


「それでいいのですか?」


「うん。 あの時に私もひなたちゃんのように暁斗くんを助けるべきだった。 でも、周りの威圧に屈して何もできなかった。 自分の弱さがそうさせたから……」


「由奈様……」


「だから、死ぬ前に一言だけでもいい。 二人に謝るチャンスを……とね」


 由奈は諦めの境地にいる。


(このままでは由奈様は……。 あの方にご連絡を……)


 それを知ったメイドは、なんとかしてあげれないかとこっそりある場所に連絡していた。

 実はこのメイド、魔王から派遣された諜報部隊の一人で、勇者の動向を探る為に動いていた。

 そんな彼女から魔王イリアゲート経由で、暁斗達に由奈の心情が伝わるのはまた別の話である。


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