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2 捏造

「今日はクラスの注目の的でしたね、奏くん」


 ニマニマ顔で言う真希ちゃん。色素の薄く細い髪はボブヘア。たれ目で小柄でいつもニコニコして愛嬌があるので、クラスのみんなにかわいがられている。

 しかし、こいつは中学までは男子だったはず。それが高校に入った途端、さも当然にようにスカートを履きだしたので、聞くタイミングを失い、今に至る。まあ、そこらの女子に勝るとも劣らないかわいさがあるので、バレることは無いと思うが、なんだかハラハラする。


「僕は目立ちたくないんだよ。それに、山下ともしゃべりたくなかった」

「おやおや? その割にはかなり会話が弾んでいたようですが? 私以外にもちゃんと友達作らなきゃですよ」


 お前が山下に情報を漏らしたことをきっかけに、半分喧嘩のような言い合いになってしまったというのに、気にも留めた様子がない。むしろやり切った感の溢れる満足顔だ。おそらく悪気はなく、僕に友達を作るきっかけを用意しようとしてくれていたのだろう。


「僕は友達なんていらない。女子なんて尚更な」

「えー、絶対困りますよ。体育で二人ペアを組むときや、お昼ご飯を食べるとき、修学旅行でぼっちなんて最悪じゃないですか。それに宿題やテストの情報だって友達いないと困りますよ」

「大体一人で何とかなる。体育は見学するし、お昼ご飯は一人で食べれるし、修学旅行は行かなきゃいい。宿題やテストは真希ちゃん伝手に聞けば何とかなる。僕には真希ちゃん一人いれば十分だ」

「キュンっ! 嬉しいこと言ってくれますねえ。えへへ」


 体をくねくねして嬉しそうな真希。ちょろいし愛くるしいし、思わす性癖が歪められそうになる。現実で男の娘を好きになるのはまだ早い。


「今日は俺も山下に言い過ぎたと思うから、謝っといてくれないか? まあ、元はといえばあいつが意味わからん提案をしてきたのが悪いんだけど」

「ダメですよ、自分で謝らなきゃ。それに女の子と男の子の耐久性を同じだと思わないでください。女の子はデリケートなんだから、もっと優しくしないとですよ。 しかし、別に何もしなくても圭ちゃんの方から奏くんの方にお話に来ると思いますけど?」


 僕は「へ?」という間抜けな声を出し立ち止まった。もしかして、山下が復讐しに来たりするのだろうか。陰湿ないじめが始まったり、暴力を振るわれたりしたらどうしよう。ネガティブな想像が止まらない。わなわな震えていると真希ちゃんが背中をさすってくれた。


「別に復讐に来るってわけじゃないですよ。フラれたんだから再チャレンジに来るってことです!」


 なんだそっかと安心はできない。それはそれで面倒くさい。


「がめつい奴だなあ。何に金使ってんだよ。それにあいつの貞操観念低すぎな」

「はあ。てんでダメですね。女心がまるで分っていない、っておおーっと、これは言っちゃいけないこと。てへっ」


「てへっ」だなんてリアルで言えるのは真希ちゃんぐらいだろう。彼女ぐらいのプリティさがあってギリギリ許されること。山下が「てへっ」とでもいった暁には張り倒しに行かなくてはならない。


 しかし、今日は久々に真希ちゃん以外の同級生と話したもので、少し楽しかったようなスッキリしたような気もする。まあ、お互い相手を貶めるようなことばかり言っていいただけなのだけれど。

 山下は友達でないから別に嫌われようがどうもしないが、相手が大事な人間だったら話が変わってくる。傷つけないように気を使ったり、仲違いした後には絶望に打ちひしがれることが予想される。


 うん。やはり後悔する可能性があるのならば、友達を作るべきではない。明日からもぼっち生活(真希ちゃんを除く)をエンジョイしよう。



 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


「なあ、花村」


 いつも通り机に突っ伏して昼寝をしていると、頭上から山下の声が聞こえた。気まずい。今起き上がっても何を話したら分からないしこれ以上親密になる必要もないため狸寝入りしていると、背中に冷たい感覚が走る。


「ひゃんっ」

「あははは、女子かよ」


 どうやら山下の仕業らしい。大方の飲み物の氷でも背中に入れたのだろう。イシシッと笑ういたずらっ子のような笑顔は一見愛らしく見えるが、彼女の人格やその他もろもろを考慮すると全然かわいくない。


「昨日は悪かった。だからもう関わらないでくれ。背中の氷のことは忘れてやるから」

「背中に入れたのは氷じゃなくてピノだぞ」

「ふざけんな! って本当にベタベタしてるじゃねえか!」


「ぎゃははは」と机を叩いて下品な笑い方をする山下。やっぱり僕はこいつのことを好きになれそうにない。少しは真希ちゃんの女の子らしさを見習ってほしい。


「お前昨日、性病があるから私とヤりたくないって言ったよな?」

「まあ」


 別にそれだけが理由じゃないけれど。山下の性格、品行、見た目、健康状態を総合評価して言ったのだ。本当は、ただただ山下を笑い者にしたかっただけだけど。


「見ろ! 検査に行ったけれど何も反応しなかったぞ」


 そう言って、山下は性病チェックの結果らしき紙を突き出す。クラミジアからHIVまでかなりの項目を検査しているようだ。その結果と言えば、陽性陽性陽性陽性陽性陽性陽性陽性陽性陽性


「全部アウトじゃねえか!」

「は!? ちゃんと見ろよ。ぜんぶ陽性って書いてあるだろ?」


 再び勢いよく紙を突き出す。


「陽性は引っかかってるって意味だ! その病原体に感染してるってことだよ」

「嘘だろ…陽って陰よりポジティブそうな言葉だから勘違いしてた」


 さっきまでの威勢の良さはどこへやら。顔がどんより曇っている。

 なんだこいつ。学校の勉強ができるクセに何で知らないんだよ。いや、頭が良すぎて意味を調べず漢字の意味で推測してしまった結果間違えたのか? しかし何か違和感を感じる。


「全部引っかかるとかそんなことありえるか?」


 山下はビクッと背筋を伸ばす。そして、目を泳がせながら言う。


「ま、まあな。ほら、アタシ経験豊富だから」

「それにお医者さんに陽性陰性の意味は教えてもらえるだろ? てか、昨日検査受けたとして今日結果がわかるものなのか?」


 隠そうとした彼女の検査結果を奪い取り、じっくり中身に目を通す。


「ん?陽性と山下圭って文字だけフォントが違う………………お前自分で作ったろ!!」


 山下の額にじんわり汗が浮かぶ。意味もなく何度も茶髪を耳にかけなおす彼女は、なかなか言葉を返さない。もはや、質問に答えていると同義の行動をしているのに、まだ誤魔化せると思っているのか。


「ね、ネットで申し込んだから! だから、すぐに結果がわかるんだよ…」

「検査キットを受け取って、使って、送るのに一日で終わるわけねえだろ!」


 思わず大声で突っ込んでしまうほど、抜け目だらけ。

 本当に、陰キャの権化ともあろう僕がここまで大声を張り上げるなんて小学生ぶりのこと。そのきっかけが山下であることが腹立たしいけれど。


 山下はあごを抑えて、持ち前のスーパーコンピュータでこの危機を乗り越える方法を模索しているようだが、悪あがきした方がどんどん深みにはまっていく気がする。この泥沼状態では、さっさと降参して逃げた方がいいと思う。

 そして何か思いついたのか、彼女は僕の方を見てキッと睨む。


「死ねっ!」


 語彙力ゼロの罵倒であった。この彼女の捨て台詞がこれから先、定着しないことを切に祈る。

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