009・エレア
「へぇ~エクトス学園には転校で行くんですね?」
「まぁね。でもそんな問いをするって事は、キミは違うのかい?」
時期が時期だけに、そっちも転校だと思ったのに。
「はい。わたしは最初からエクトス学園を受けました。ですが両親から
エクトス学園に通う事を反対されてしまい、その説得にかなりの労力と
時間を食いまして。ですが数日前、やっとわたしの想いが通じたのか、
両親の説得に成功する事ができました!」
「なるほどねぇ。両親の説得に時間が掛かっちゃったんだ?でも勉学
期間にはまだ間に合いそうだし、説得できてホントに良かったよね!」
「はい!」
説得できた余程嬉しかったんだろう、少女は屈託のない笑顔を見せる。
「それにしても、まさかエクトス学園の...更に通うのも初めてだっていう
生徒にこんな場所で会うだなんて、ここで会ったのも何かの縁ですよね!
だ、だから...こ、これからも...そ、その学園では仲良くしてくれると...
嬉しいし、ありがたい......な。えへへ♪」
はぐぅ!な、なんて満面の笑顔を見せるんだ、この子!?
それに仲良くだなんて、俺にはそんな資格はないんですよぉお~~っ!
この少女を見捨てて逃げようとした俺の性根が、このニコニコ笑顔が
眩し過ぎて、溶けるからそれ以上照らさんといてと悲鳴をこぼす。
「も、もしかして...そ、その...め、迷惑でした?そ、それだったら......」
俺の困惑した表情に気づいた少女が、しょんぼりした表情に変わる。
「いやいや、いやいや、いやいや!ち、違います!違いますよっ!?
そんなんじゃありませんって!迷惑どころか、寧ろ感激極まりないですっ!」
「それじゃ!」
「う、うん。こ、こちらこそ、お願いします!仲良くしてやって下さいっ!」
そう言って俺はニコリと微笑みを浮かべながら、少女の前に右手をスッと
差し出すと、
「ほ、本当ですか!うふふ、やった~っ♪」
少女は先程よりも更に屈託のない笑顔を見せて、俺の右手にガッチリと握手を
交わしてくる。
「おっと、そうでした。わたしの自己紹介がまだでしたね!わたしは
エレアっていいますっ!」
「エレアっていうんだ?俺の名前はザックだよ。これからよろしくね、
エレアさん!」
「そっか、ザック君だね!こちらこそ、よろしくだよ!あ、わたしの名前は
呼び捨てで構わないからね!それともうちょっと砕けて話してくれると
嬉しいな!だってこれからは同じ学園に通う仲間なんだしさ♪」
「同じ学園に通う仲間か……。うんわかったよ、エレアさ...いや、エレア。
それじゃキミも同じように、俺の事はタメ口呼び捨てで話してくれよな♪」
「え!あ、は、はい!わかりました、ザック君!おっと...…じゃなかった!
わ、わかったわ、ザックッ!こ、こんな感じでいいかな?」
「う~ん、少しぎこちないけど、その内に慣れてくるかな?そんじゃ、エレア。
改めてよろしく頼むな!」
「うん!」
俺とエレアはお互いに自己紹介し合った後、呼び捨てと砕けた会話を要求。
それを二人とも承諾すると、再び笑顔で握手を交す。
―――それから馬車に揺られること、幾数日。
俺とエレアは無事、王都の門前へと辿り着いた。
「うへぇぇえ~。こ、ここが王都なんだぁぁあ~~っ!」
俺は王都の出入りの大きな門や、周囲を囲む魔法壁を見上げて、その大きさに
驚きを隠しきれないでいると、
「見惚れるのは分かるけどさ、そんなのいつでも見れるんだから、感動は
そこまでにしておいて、日が暮れる前に王都に入場する為の手続きをさっさと
済ませちゃおうよ!」
「おっと、そうだったな。日が暮れる前に行かないと、学生寮から門前払いを
受けてしまうかもしれないな!」
エレアに軽い窘めを受けた俺は、王都の門に続く人の行列へと並んだ。
それから数十分後。
「はい、これがエクトス学園への転入の書類です!」
俺はエクトス学園に転入してきた新入生だと分からせる為、門番に転入の
書類を見せた。