056・チョロインな、サーシュ先輩
「ちょっ!?いやいやいや、だ、駄目だってサーシュさん!落ち着き
なさいってば!た、確かにアンナさんの今の言動には腹が立った事は、
わたしも同族なので良~く分かりますよ!で、ですが、それは流石に
行き過ぎた越権行為だからやめておきなさい、ねっ!」
サーシュの見せる暴走行為に、ミカリが慌ててサーシュの腕をガッと
掴み、それを阻止する。
―――それから数分後。
「ホンッット、すいませんでした先輩達っ!しかし先輩達のお陰で何とか
トラウマから復活する事が出来ました!ですので、もう大丈夫ですっ!」
幼馴染達から受けたあのトラウマから脱したザックが、元気一杯な動きを
披露してアンネ達を安心させる。
「いや~本当、復帰できて良かったよ~!まだ始まってもいないのに、
私達のせいで即リタイアなんて事になっちゃったら、目も当てられない
ところだったからさ~!」
「いや~ホントだよ。改めてゴメンね、後輩くん!」
「―――チッ」
アンネ先輩とミカリ先輩は、俺の復帰に心から安堵して胸をホッと
撫で下ろしてたが、しかしサーシュ先輩だけは、未だに不機嫌モードを
露にしていた。
「ホントすいませんって、サーシュ先輩!いい加減機嫌を治して下さいよ!
今回のテスト合格にはサーシュ先輩の素晴らしい攻撃魔法の援護が必要
不可欠なんですから!……だからお願いします、ねっ!」
「―――わひゃ!?」
ザックは上目遣いの羨望なる表情で、サーシュの両手をソッと取って握る。
「くぬぬ……くぅう~ううぅ。そ、その言葉にその表情!な、中々見事な
あざとさですわねぇ!で、でもまぁ貴方の言う通り、確かにそうですわね。
こ、このわたくしの魔法を無くしては、平凡三下のテストが合格する筈が
ありませんものねぇっ!おほほほ~~♪」
ザックの懸命な説得で、サーシュは機嫌をスッカリ回復させる。
「い、意外にチョロインなんだね、サーシュさんって……」
ミカリのそんな呟きに対し、
「......でしょう♪」
アンネがニコリと笑ってそう返す。
「うっしゃっ!サーシュ先輩の機嫌も何とか戻った事ですし、では先輩方。
そろそろ探索テストを再開しましょうかっ!」
「分かったわ、ザック君!」
「了解よ、後輩くん!」
「今度はシャンとしなさいよ、平凡三下!」
俺の掛け声と共に、俺と先輩は一階層の移動を再開し、ダンジョンの奥へと
歩いて行く。
―――それからしばらくの時間、一階層を歩いて移動していると、
「あ!あれはブルーウルフ!?」
少し離れた場所に三匹のブルーウルフが、ウロウロしているのを発見する。
「どうやらあのブルーウルフたち。こっちにまだ気付いていないようですね?
ではサーシュ先輩!先輩の魔法で先手必勝といきましょうかっ!」
俺は腰に下げていた剣をサッと手に取って戦闘体勢に入ると、サーシュ先輩に
魔法の援護射撃をお願いする。
「おほほ~♪中々の良い判断ですわ、平凡三下!よ~く見ておきなさい、
わたくしの魔法で、あの獣共のHPを一気に削って差し上げますからっ!」
≪無数の風の刃よ、わたくしの敵を切り裂きなさい!ウインド・カッターッ!≫
サーシュ先輩は杖を構え、魔法を詠唱してウインド・カッターを発動させる。
そしてブルーウルフを狙って腕を大きくブンと左右に振り上げ、無数の風の刃を
次々と叩き込んでいく。
「ウギャン!」
「キャン!」
「ギャハガ!」
サーシュ先輩の放った風の刃が、ブルーウルフ三匹全てに見事命中した。
「さぁ!下準備はいたしましたわよ、平凡三下!留めをお差しなさいなっ!」
「ナイスサポートです、サーシュ先輩!次、ミカリ先輩お願いしますっ!」
「うん!任せて、後輩くんっ!」
≪加速しなさい!スピード・ブースタァァアッ!≫
俺の合図に、ミカリ先輩が素早さの上がる魔法、スピード・ブースターを
俺に発動させる。




