045・ザック、先輩と交渉する
―――ダンジョン探索テストの日。
「え~コホン。え~今からキミ達にはあそこで待機している先輩達と
パーティを組んでもらい、そしてダンジョンの中に潜ってもらいます!」
この間の放課後、フローラから聞いたダンジョン探索テストの日が
いよいよやってきた。
因みに、俺はこの間述べた予定通り『パーティで組んでダンジョンを潜る』の
探索テストを選択した。
「ダンジョン探索テストで組めるパーティ数は、最大四人だから注意して
おくんだぞ!後、これは前にも伝えたと思うが、一年生同士でパーティを
組んでは駄目だからな!」
「次に、あそこで待機している先輩達は、前衛組と後衛組に分けています。
ですので自分に合った先輩達とパーティを作り、そしてダンジョンに
挑んで下さい!」
「これも忘れずに覚えていてほしいが、探索テストの場はダンジョンの
一階層だけだから、うっかり二階層以降に行かないよう、注意しろよ!」
「それと、もし探索テスト中にこれ以上は無理と感じたのなら、この脱出
アイテム【テレポートストーン】を使ってダンジョンを脱出する事!無理を
して死んでしまっては意味がありませんからね!」
「尚、もし一年生がそうなってしまった場合、一緒にパーティを組んだ
先輩達にはそれ相応のペナルティが発生いたしますので、そうならないよう、
懸命にサポートして下さい!」
「勿論、先輩達にもメリットもあります。一年生のテスト結果が良ければ
良いほど、その生徒から選ばれた先輩達に『良』が付き、成績がアップ
致しますので、頑張って率先して下さいね!」
ダンジョン探索テストの説明を、各々の教師が集まった一年生にしていく。
「......では以上を持ちまして、探索テストのルール説明を大方終わります。
もしまだ何か聞いたい事やご質問がありましたら、私達の所に遠慮なく
聞きに来て下さいね!」
「それでは早速あなた達の組みたいと思う先輩達と交渉をしに向かいなさい。
交渉次第で断られる事もありますけど、それもまたテストの一環ですので、
上手く交渉してパーティに入ってもらいなさい。ではみなさん、頑張って
下さいねっ!」
「「「「「は、はいっ!」」」」」
説明を終えた教師達が奥に下がると、集まった一年生達が、離れた場所で
待機している先輩達の下に駆け足で移動していく。
「ふう、しかし参ったな。まさかエレアが別の日に授業とは......」
パーティを組んでダンジョン探索をするテストは人数が多かったので、
三つに別けられたのだ。
エレアは明日、そして俺は今日だ。
一緒だったら、この緊張感が少しは緩和されたかもしれないのに。
後、先輩達といえば……
「流石にスズ先輩とルル先輩はいないようだな?」
まぁいなくて当たり前か。
もしいたら、二人の争奪戦でこの場が乱れてテストどころじゃなくなる
可能性も出てくるだろうし。
だってあの二人トップクラスの実力と人気を持っているからなぁ。
「さて...俺もパーティメンバーを決めるかな?」
俺は地面に置いたバッグを手に取ると、先輩達のいる場所に移動していく。
「お。みんな交渉を我先にとしているなぁ!」
見た感じ、男子は女子の先輩を、女子は男子の先輩と交渉してる奴が
多いみたいだな。
それはしょうがないかぁ。
俺もそんな感じで交渉しようと思っているしな。
「さぁて!まずはあの先輩からいこうかな♪あ、あの~すいませ~ん、
ちょっといいですかぁ~先輩~~!」
――――交渉を開始してから幾分後。
「く...また断られた......」
そりゃ、確かにさっきのルール説明の中で断られる事もあるとか言っては
いたけどさぁ~。
でも当然といえば、当然か。
先輩達だって俺達と同じで、素行の悪い奴や、能力の低い奴、人の言う事を
全然聞かなさそうな奴と組んで、もし自分に返ってきたら嫌だろうし、
見極めはするよねぇ。
先生もペナルティを科すとか言っていたしさ。
なら、こんな『ザッ普通人』な俺とパーティを組みたくないよな……はは。
「おっと落ち込んでいる場合じゃなかった。あれこれ考えている内に
ドンドン先輩達がいなくなってるじゃんかぁっ!」
えっと...残った先輩は......残った先輩は………っと。
俺はガランとしてきた先輩達のいる場所に向けて、慌てて目線を移すと、
その周囲をくまなく見渡していく。




