042・その頃、サキナとニーナは?(幼馴染side)
遡ること、ザックがエクトス学園に転入するべく旅立った日。
「それじゃ、お母さんいってきまぁ~す!」
ザックの幼馴染のサキナが母親にいってきますの挨拶をした後、カバンを手に
取り、そして元気よく家から出て行く。
「うふふ♪今日もザックの奴にロード君のカッコ良かった所をタップリと
聞いてもらわなきゃ!」
サキナはいつもの様に隣の家...ザックの家に向かうと、玄関のドアを数回
コンコンとノックする。
「あ、あれ?返事がないな?」
「ああ。さてはザックの奴、まだグースカと寝ていやがるな!」
もうしょうがないんだから。
「どれどれ。可愛い幼馴染のこのサキナ様が、寝坊助さんを起こして
あげるとしますか♪」
サキナが「やれやれ、しょうがない奴だなぁ~」と苦笑いをこぼしつつ、
ザックの家の合鍵が隠してある植木ばちを退かす。
...が、
「あ、あれ?合鍵が......ない?」
どういう事?
もしかしてザックの奴、合鍵の隠し場所を変えた?
私が見当たらない合鍵に、ハテナ顔をして首を傾げていると、
「おや?そこにいるはサキナちゃんじゃない?おはよう~♪」
ザックの親戚のお姉さん、ユキコさんが私に声をかけてきた。
「あ!ユキコさん、おはようございます!」
「それでこんな朝っぱらから、そんなところで何をしていたの?」
「えっとですね。ザックを呼びに来たんですが家に鍵が掛かっていて、
それを開ける為に合鍵探していたんですが、それが見当たらなくて...」
「合鍵?ああ、それだったら、ザックが回収して私が受け取っているよ?」
「え?ユキコさんが?」
「うん。ほら、これでしょう?」
ユキコさんはそう言うと、持っていた合鍵をサキナに見せる。
「そのホルダー、間違いなくここに置いてあった合鍵!でもどうしてもユキコさんが
それを?もしかしてザックの家に何か用事ができて、あいつから一時借りたとか
ですか?」
「まぁ...確かに用事といえば用事なのかな?実はね、この家の管理をザック
から頼まれちゃってさ!」
「へ?い、家の管理を?それって、一体どういう意味でしょうか?」
「あ、あれ?も、もしかして、あいつから何も聞いていないの?」
「き、聞いていないって...何を......ですか?」
ハテナ顔をしているユキコに、サキナが困惑した顔でそう訊ねる。
「ああ、そっかぁ.....何も聞かされていないんだね?たはは...なるほどねぇ。
それがあいつなりの最後の...意地のプライドってやつか......」
まぁ、分かるっちゃ、分かるけどねぇ。
サキナの言葉を聞き、ユキコが何かを察したのか、ウンウンと首を小さく縦に
振って納得顔を見せる。
「あいつなりの?意地のプライド??そ、それって、一体どういう意味ですか?
そ、それに管理って...!?お、教えて下さい、ユキコさんっ!」
「う~ん、そうだねぇ。簡単に説明するなら、プライドっていうのはあんた達に
恋人ができたから。そして私がこの家を管理するのは、あいつがこの家を離れた
から...かな?」
「えっ!?」
「あ!因みに、あいつはもうここには帰ってくる事はないと思うよ?」
「――なっ!?か、帰ってこない!?ザックが…ですかっ!そ、それは何故!?
どうしてなんですか、ユキ――――」
「―――それは自分の胸にでも問うてみなさいな、サキナちゃん。......って
いうか、もういいかな?正直あいつの事を弟として可愛がっていた私として
はね、あんな振り方をしたあなたとなんか、一秒足りとも話もしたくないし、
顔も見たくないんだよねぇ~!」
ユキコはこれ以上、サキナの戯れ言なんか聞きたくないとばかりの冷たい目と
不愉快そうな表情でサキナの言葉を遮ってそう言い放つと、そのままザックの
家の中に入って行った。
――え?
――へ?
ど、どういう意味なの??
ザックが...ザックの奴が、ここにもう帰ってくる事がないってっ!?
な、何でだよ!?
だって昨日までそんな素振り、一回も見せていなかったじゃないかっ!?
な、なのにどうして...
『それは自分の胸にでも問うて見なさいな』
じ、自分の胸に........
私はユキコさんの言った様に胸に手をソッと当てると、ザックが去るまでの
行動を思い出していく。
...........あ、
ザックのこの表情...全く笑っていない!?
それどころか、あいつが私達にいつも向けてくれていた笑顔、それを近頃
全然見ていない!?
「わ、私が...ロード君の事ばかり......だ、だからあいつ......関心も...興味も
無くして...私達の下から......去って......そ、そうなんだ.........ねっ!?」
―――私がそれを理解した瞬間、
私の心に言葉では言い表せない何かの重圧感が、ズシッとのし掛かってきた。
そしてその重圧感に堪えられなくなってしまった私の心は、最早何も考えたく
ないとばかりに思考を掻き消していき、私の目の前を真っ白へと変えていく。
その後、私は愕然とした表情で両の膝を地面にガクッと落とすのだった。




