023・わたし興奮冷めやらぬ(エレアside)
―――えっ?
―――はい?
な、なんで、あなたがそこいるんですか?
そう...わたしの目線に映る信じられないもの。
それは憧れ、恋い焦がれ、羨望が絶えなかった人物......
『ザック君、その人だった!』
何とも呆気なく、最愛の人と再び接近できてしまったわたしは、
込み上げてくる感情をグッと抑えながら、ザック君と久しぶりの会話を
楽しんだ後、一緒に馬車乗り場まで移動する。
そしてエクトス学園のある王都行きの馬車に乗り、王都に向かった。
馬車に揺られる中で、昔わたしを助けてくれた時の事を言葉を濁らせ、
覚えているかどうか、それとなく聞いてみたけれど、やはりというか
ザック君は全く覚えていないかった。
くぅ…だとは思ってたよ。
思ってはいたけど、やっぱ何かちょっと悔しくも寂しいなぁ。
でもいいんだ。
例えザック君が覚えていなくても、わたしはあの時の事を鮮明に
覚えているんだから。
一生忘れる事のない出来事を。
じゃあ改めて、今度こそわたしの事を覚えさせちゃうんだからね。
コホン、
「おっと、そうでした。わたしの自己紹介がまだでしたね!わたしは
エレアっていいますっ!」
わたしは今度こそザック君に自分の事を覚えてもらう為、自分の名前を
名乗った。
すると、
「エレアっていうだね?俺の名前はザックだよ。これからよろしくね、
エレアさん!」
早速ザック君がわたしの名前を呼んでくれた。
キャアアアァァァァ―――――――っ!!
ザ、ザ、ザック君が、わわ、わたしの名前をおおおぉぉぉっ!?!?
ハァ…ハァ…ゼェ…ゼェ……
これは……もしかして、あれがいけちゃうのでは!?
よ、よし!やっちゃうぞ、わたし!
やってやんぞぉぉお、わたしぃぃぃぃいっ!!
わたしはこのビッグウェーブに便乗するかの様に、更に欲を上げる。
「そ、そっか、ザック君っていうんだね!こちらこそ、よろしく!あ、
わたしの名前は呼び捨てで構わないからね!そ、それともうちょっと砕けて
話してくれると嬉しいな!だってこれからは同じ学園に通う仲間なんだし♪」
わたしはザック君に自分の呼び捨てをお願いした。
それを聞いたザック君は、少し戸惑いを見せつつも、
「同じ学園に通う仲間か……。うんわかったよ、エレアさ...いや、エレア!」
呼び捨てで呼ぶ事をオッケーしてくれた。
いやぁあっっほぉおおいぃぃぃぃい――――――っ!!!
ザック君が…ザック君が…
あのザック君が、わたしの名前を呼び捨てにして呼んでくれているよぉお~~。
はあ~幸せだよぉお~~~っ♪
わたしが瞳を潤ませ、至極至福の絶頂の中にいると、
「それじゃキミも同じように、呼び捨てタメ口で話してくれよな♪」
...ん?
それじゃキミも同じように、呼び捨てタメ口で話してくれよ???
おおおぉぉぉおぉぉぉ――――――っ!?!?
そそ、そ、そ、それってつまりぃい、わわ、わ、わたしもザック君を
呼び捨てにしても良いという事ですかいっ!?
マ、マジか!?
マジで!?
わたしはドキドキと激しく鼓動する胸をグッと抑えると、
「え!あ、は、はい!わかりました、ザック君!おっと...じゃなかった!
わ、わかったわ、ザックッ!こ、こんな感じでいいかな?」
わたしは辿々しくも大好きな人の名前を、君なしの呼び捨てで初めて呼んだ。
ふおぉぉおぉぉおぉぉぉお――――――――っ!!!!??
ザックッ!
ザックッ!!
ザックッ!!!
何と心地よい言葉の響きなんだっ!
君があるとなしとでは、こんなにも違うものなのかっ!!
わたしがこの感動感激に、興奮冷めやらぬ状態でいたその時、
「う~ん、少しぎこちないけど、その内に慣れてくるかな?そんじゃ、エレア。
改めてよろしく頼むな!」
ザック君……コホン、ザックがわたしの前に手を差し、握手を求めてきた。
ザザザ、ザックが、手、手、手を差し出してきた~~~っ!?
こ、これって、握っていいのかな?
こ、これって、握っていいんだよね??
ギュッッとしてもいいんだよねぇぇええっ!?
わたしはさっきよりも更にドキドキと高鳴りを止めない鼓動を、必死に
抑え付けながら落ち着かせると、
「うん!」
…と、小さく頷き、手汗は大丈夫だろうかと気にしつつ、ザックと握手を
交わすのだった。




