022・わたしの目の前に大好きなキミが(エレアside)
まぁ、ここまで長く語ってきたけど、ザック君がエクトス学園に
転校してくる可能性は五分五分くらいだろうな。
ううん、もっと低い確率だと思う。
でもね。
例えわたしのこの考えが外れたとしても、エクトス学園の事を切っ掛けに、
ザック君とお話が出来るという選択が一個増えるんだ。
そのチャンスを得る為だったら、わたしは迷わずエクトス学園に
入学する事を決める。
そんな無謀で回りくどい事をするくらいなら、普通に話しかけて友達に
なれば良いじゃんと言われるかもしれない。
しかしタダ普通に話し掛ける程度じゃ、ザック君があの幼馴染の二人と
関係している限り、それすらきっと叶わぬ夢だろう。
その証拠に、今ザック君と親しく話をしている女友達はひとりもいない。
ザック君が決して嫌な人間でも、陰キャラでもないのに…だ。
あの幼馴染の二人とザック君の関係は根深い。
だからあの二人と間に距離を置いて、時間の経過でそれらの関係性を
完全に断ち切っていなければ、ザック君と会話も近づけもしないと思う。
それにザック君もザック君で、今の環境を大事にしているみたいで、
決して目新しい環境を求めてない。
先程、偉そうに人とは何ぞやと論弁したが、そういう人種もまた存在する。
しかしそういう人は、丁度良いぬるま湯からに満足して、そこから中々
抜け出そうとしないもの。
ぬるま湯から出なきゃいけないと分かっていても、
このままじゃいけないと心が騒いだとしても、
出なければ、先には進めないと理解していても……だ。
――――だからわたしは『五分五分』だと分かっていても賭ける。
ザック君のぬるま湯である幼馴染の二人がエリート共に惹かれ、感化され、
その挙句の果て、ザック君を蔑ろにしてフッてしまうという可能性に賭ける。
フラれた事を切っ掛けに、幼馴染二人からの呪縛が解け、ザック君の心に
少しずつ自由な意志が灯される可能性に賭ける。
その灯された自由な意志を以て、幼馴染達というぬるま湯から出た結果、
エクトス学園を選ぶ可能性に賭ける。
そしてザック君と共に歩ける未来の可能性に……そんな夢のような希望が
勝つという可能性に賭ける。
―――――わたしはこの賭けが叶うよう、勝利の女神に切実に願う。
そしてわたしは、脳裏に過ったこれらの仮説と予感を信じ、エクトス学園に
入学するべく準備を始める。
それから幾数日の時が過ぎ去り、わたしのエクトス学園への入学が決まった。
―――しかし、ここで予期せぬ難関が迫る。
その予期せぬ難関とは、わたしの両親からの猛烈な反対だ。
どうやら、わたしの両親は聖教会学園に入学して欲しかったらしく、
中途半端な人間が通うと言われる学園...エクトス学園に入学する事に
猛反発してきたのだ。
もう!先にエクトス学園に入学して、ザック君を導くという計画に支障が
出てしまうじゃんか!
そりゃ勝手に入学を決めたわたしにも、ちょっとばかり非はあるとは思うよ。
でもね、例え両親とてザック君が憧れたエクトス学園を馬鹿にされるのは
何か癪に障る。
だからわたしはエクトス学園の素晴らしさと将来性を熱く熱く、それは熱く
懸命に語りまくり、わたしの両親を必死に説得していく。
―――――それから約1ヶ月の月日が経った。
わたしはやっとの思いで、両親を口説き落とす事に成功した。
その後、わたしはエクトス学園に向かう為の準備を数日かけて
何とか終えると、急ぎ王都に向かうべく馬車乗り場へと向かった。
―――――だが、ここでもまた予期せぬ難関が起こる。
べろんべろんに酔っぱらった男達から、ナンパされてしまったのだ。
急ぐからと忙しいからと、何とか追い払おうとするのだが、こっちの
話をちっとも聞こうとしない。
いい加減ヒックヒックと煩いこの酔っぱらいどもにブチキレしたわたしは、
イライラ全開の魔法攻撃をこいつらに思いっきりぶっ放してやった!
わたしの魔法を食らい、みっともなく吹っ飛んでいった酔っぱらいどもを
嘲笑ってやろうと思って近づいたその瞬間、
わたしの目線に信じられないものが飛び込んできた。
―――えっ?
―――はい?
な、なんで、あなたがそこいるんですか?
そう...わたしの目線に映る信じられないもの。
それは憧れ、恋い焦がれ、羨望が絶えなかった人物......
『ザック君、その人だった!』




