019・惚れた腫れた
「ふん。何を言うかと思えば......。いいか、よく聞けよルル。食堂の
テーブルは自由席なのだ。ならば、わたしがどこに座ろうとも、それは
わたしの自由...そうだろう……ん?」
「うぐぅぅ...た、確かにあんたの言っている事は正論なの。でもね、
そういう事をやっちゃいけないっていうのも、人間としてまた正論で
しょうがああぁぁあなの~~っ!!」
悪びれない言葉で自分の持論を語るスズ先輩に、青筋を立てたルル先輩が
テーブルをドンと強く叩いて、そのスズ先輩の持論に抗議する。
「大体、いっつも仏頂面で孤独を大好きなあんたが、何でこの子には
構ってくるんだなのっ!」
「ふん、それはこっちのセリフだぞ、ルル。お前こそ異性に一切興味が
なく、告白をされても、いつも適当な態度で袖にしていたではないか?」
おお、やっぱりルル先輩ってモテるんだ!
「だというのに、何故今回はそんなに執拗する?一体どういった心境の変化
なんだ?あ、もしかしてお前。このザックにひと目惚れしてしまったか?」
「――――ひゃ!?」
目の色を変えて訴えてくるルル先輩の抗議に、スズ先輩がニヤリと口角を上げて
そう問う。
「なな、何を、く、くだらない事を!?ちっち、ちち、違うし~、ほほ、惚れて
なんて、いい、いないし~!ああ、あーしはザックの事なんて、べべ、別に
なんとも想っ...............え?ザック?ザックって、だ、誰っ??」
「ザックというのは、この男子後輩の名前だよ。くくく...なんだ、ルル?お前、
そんな事も知らなかったのか?」
スズ先輩がしてやったりというニヤリ顔をする。
いやいや、スズ先輩。あなたもさっき俺の名前を知ったばっかりですよね?
しっかしあそこまで全力で否定されちゃうと、流石に少し傷つくなぁ。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけど、もしかしてを期待したのにぃぃい。
「ふ、ふん!ど、どうせあんただって、今さっき聞いたばっかりなんで
しょうなのっ!」
はい。ルル先輩、大正解ですよ!
「そ、それにスズ。あんたこそ、そこまで後輩......ザックに構うって事は、
ザックにひと目惚れをしちゃたんでしょうなのっ!」
ルル先輩があわあわと動揺しつつも、スズ先輩に向けて人差し指しをビシッと
突きつけ、そう問い返しをするが、
「......ああ。ふむ、そうだな。お前の言う通りだ、ルル。わたしはこのザックに
ひと目惚れをしてしまっているっ!」
「「―――――へっ!?」」
「いや...惚れを越えて、愛していると言っても差し支えないかもしれないなっ!」
スズ先輩は照れも動揺もせず、俺の顔をジッと見据えると、真面目な表情で
俺に向けて愛の告白をしてきた。
それを聞いた俺とルル先輩は、目を大きく見開いて喫驚してしまう。
「そういう事なので、ルルよ。ザックに気がないのならば、私の恋の邪魔を
してくれるでないぞ?ふふふ♪」
「あ、スズ先輩......」
スズ先輩がマウントを取る様なニヤリとした表情でルル先輩を窘めた後、
俺の顔を慈愛の表情でジィィーと見つめてくる。
「ち、ちょっと......ちょっと待つなの、スズ。訂正......訂正するなの......」
「訂正?一体なにを訂正するんだ?」
「さっきの発言は全部訂正するのなのっ!却下なのっ!あーしも!あーしも、
ひと目惚れなのっ!初めてザックに会ったその瞬間から、何かこう、ビビッと
感じたマジゾッコンラブなのぉおっ!これは愛なのぉぉお~~~っ!!」
スズ先輩に焚き付けられたルル先輩は、顔を...いや、身体中を真っ赤に
しながら、俺に愛の告白をデレ全開でしてきた。
「ふん...最初からそう言えば良いものを。くくく...本当に面倒くさい
性格だな、お前という奴は!」
「う、うっさいなの!放っておけなのっ!」
スズ先輩の挑発に、ルル先輩が膨れっ面でプンプン怒ってくる。
「ふ...そういう訳だから、改めてよろしく頼むぞ、ザック!」
「――はう!?」
「こいつはどうでもいいから、あーしをよろしくしろなの、ザック!」
「――なう!?」
スズ先輩とルル先輩がそう言うと、俺の腕...スズ先輩が左の腕に、
そしてルル先輩が右の腕に自分達の腕を絡めギュッと強く抱きつくと、
二人が潤んだ上目遣いで俺に微笑んでくるのだった。




