017・金髪さん、再び!
「ふふ。昨日ぶりだな、男子後輩よ!」
顔を合わせた俺に、スズ先輩がにこやかな笑顔を見せながら挨拶をしてくる。
「はい。昨日ぶりですね、スズ先――」
「そんな事よりもだ男子後輩!今日は親子丼はオススメしないぞ。今日の
オススメは......この刺身定食だぁあっ!」
そう言うと、スズ先輩は刺身定食の食券ボタンをビシッと指差す。
「さぁ、さぁ!そういう事だから、四の五の言わずに刺身定食のボタンを
一目瞭然と言わんばかりに押すのだ後輩よ!さぁ、さぁっ!!」
「ちょっ!?あ、圧が凄いですって!も、もう少し離れて下さいよ、スズ
先輩ぃぃ~~っ!?わ、分かりました、食べます!そ、それを食べさせて
もらいますからぁぁぁああ~~っ!!」
はわわぁあぁぁ!?
か、かか、顔が近いぃぃいいっ!
はうっ!?
ス、スス、スズ先輩の吐息が、ほ、ほほ、頬にぃぃぃいぃい~~っ!?
こ、これ以上はぁあああっ!?
目と鼻の先レベルに近寄ってくるスズ先輩に、俺はめちゃくちゃテレてしまい、
慌ててスズ先輩から距離を取る。
「ん?どうしたんだ後輩?そんなに顔を赤くして?もしかして熱でもあるのか?」
「い、いえ、これはちょっとした緊張から来ただけですから、心配は御無用です!
あは、あはは……」
俺の動揺に全く気づかないスズ先輩が、身体を崩しているのかと心配そうな顔で
こっちを見てくるので、俺は苦笑を交えながら、大丈夫ですと口にする。
「そ、それより……コホン!確かに昨日の夜、先輩からオススメされた唐揚げは
かなりの絶品で美味しかったです!」
そして誤魔化す様にさっきの話題に話を戻す。
「なので、今回も素直にスズ先輩の言葉に従っておきますねっ!」
「うむ、分かれば宜しいのだ!ではさっさと押したまえ、男子後輩よっ!」
スズ先輩から強引に薦められた刺身定食の食券を買うと決めた俺は、購入ボタンに
人差し指を持って行き、そしてボタンを押そうとしたその瞬間、
「ま、待つなの~~っ!あーしの可愛い後輩よぉぉぉおっ!今日はこれぇぇえっ!
この鰻定食を買うのが正解なのおぉぉぉおっ!!」
それを阻止する様に俺は腕をバッと掴まれて、無理矢理違うボタンの上に
持って行かれる。
「ぐぬぬ。またお前か、ルル!ええ~い、わたしの邪魔をするんじゃないっ!」
「う、うっさいなの!スズこそ、あーしの邪魔すんなしぃっ!」
俺の腕を掴んだ金髪美少女...ルル先輩が、スズ先輩をガルルと威嚇する。
「大体こんな時期に鰻だと......はん、馬鹿馬鹿しいにも程がある!」
「そっちこそ、何が刺身定食よ!チャンチャラ可笑しくてヘソで茶が沸くなの!」
「なんだと!」
「なによ!」
お互いに小馬鹿にし合った後、二人とも沸点が低いのか、目から火花をバチバチ
させて睨み合う。
「...で、男子後輩よ。キミはどっちを選択するのだ?当然、刺身定食だとは
思うが一応聞いておこうか?」
「くふふ♪残念だけど、あーしの可愛い後輩は鰻丼を選ぶに決まっているなの!
所詮は悲しい悲しい茶番劇なのっ♪」
「さぁ!どっちを選ぶのだ、わたしの男子後輩よ!」
「さぁ!どっちを選ぶなの、あーしの可愛い後輩よ、なの!」
「え、えっと...まずスイマセンが鰻丼は却下かな?」
「な、なんでなのぉぉぉおぉぉぉおっ!!?」
自分のオススメをあっさり却下されてしまったたルル先輩は、どういう事と
言わんばかりに目を大きく見開いて喫驚してしまう。
「ななな、何でなのぉおぉ、可愛い後輩よっ!あーしの納得いく説明を一から
十……いや、百までしろなのぉぉおっ!!」
「簡潔に言うなら、値段が高いから手が出ません!」
「ね、値段が高いからぁぁああぁぁっ!?」
「まだこっちに引っ越してきたばかりでお金が心もとないのに、こんな
高い物は流石に食えませんよ!」
だって、大銀貨1枚だぜ。親子丼が五杯も食える値段だぜ。
いくら美味しいとはいえ、それを考えるとね。
俺がやっぱり、どう見積もっても無理なもんは無理だよね~と思考して
いたその時、
「......なら、奢ってやるなの」
「え!?」
ルル先輩の呟くような声に反応し、俺がルル先輩の顔を見ると、
「このあーしが可愛い後輩に奢ってやるなの!それならどうなのっ!!」
ルル先輩がビシッと鰻丼のボタンを指差し、声高らかにしてそう言ってきた。
それを聞いた俺は、
「ありあとございます!素敵で可憐なルル先輩っ!奢りお願いしゃっすっ!」
床に顔がつくくらいの勢いで頭を深々と下げると、ルル先輩に猛烈なる感謝の
言葉を送るのだった。




