013・食堂のオバちゃ...お姉さん
「こらこら!二人ともそこいらでいい加減にしておきなっ!」
「はぐ!?」
「キャン!?」
言い争っている黒髪さんと金髪さんの背後にエプロン姿の女性が
スッと立つと、二人の頭上にげんこつを落とす。
「ごめんなさいねぇキミ。こんな騒動に巻き込ませちゃってさ♪」
「い、いいえ、俺は別に構いませんよ。こんな綺麗で可憐な女性達に声を
掛けられて、寧ろ嬉しい限りですので。あはは......」
俺はニガ笑いをこぼしながら、当たり障りのない接待言葉を口にすると、
「き、綺麗...」
「か、可憐...」
黒髪さんと金髪さんが頬を紅に染め、動きがピタリと止まってしまう。
「そ、それでリダお姉さん。二人のランチを頼むのはどちらにも悪いから、
リダお姉さんのオススメを教えてもらっても良いです?」
「ほう、お姉さんか。あたしにまでおべっかを使ってくるなんて、
あんた見た目と違って、意外に口達者みたいだね♪」
はは。おべっかは幼馴染達で慣れていますので。
「まぁいい。そこで待ってな。騒がしたお詫びに、このあたしが
オススメする特別ランチを今から作ってきてやるからさぁ♪」
リダさんはそう言うと、お姉さんと言われた事に満更でもなかったのか、
ご機嫌全開でルンルンとしながら台所に戻って行く。
それから幾数分後。
「はい、お待ちどう様!あたしのオススメランチ、ABランチ定食だよ♪」
リダの運んできたランチ定食には、黒髪さんと金髪さんがオススメしてきた
唐揚げとトンカツがあった。
「うふふ。どうだいこのランチは?どっちのおかずも美味しそうだろう?
あたしとしても、その二品は自慢の品だから、是非食べてもらいたいしねぇ♪」
リダさんはそう言うと、ニコニコ顔でウインクをパチンとする。
「おお!わたしは感動したぞ、リダさん!」
「さ、流石はリダさんなの!」
リダさんの粋な計らいに、黒髪さんと金髪さんが絶賛の言葉を送る。
「さぁ、熱い内にお食べなさいな!」
「あ、ありがとうございます、リダさん!そ、それじゃ、遠慮なく
いただきま~すっ!」
俺は両手をパンと軽く合わせると、まずは黒髪さんのオススメした
唐揚げを口に放り込む。
「おお!た、確かに美味しいですね、この唐揚げ!」
「そ、そうだろ!旨いだろ!ジュワジュワだろう!うふふふ♪」
俺の絶賛に黒髪さんがドヤ顔でニコニコすると、
「つ、次はあーしの、あーしのオススメを食べろなの、可愛い後輩っ!」
金髪さんが俺のフォークを手に取って、トンカツのひと切れをプスッと
刺すと、俺の口の中へと強引に押し込んでくる。
「のわ!ちゃんと食べますから、落ち着いて下さいって!」
それを俺は軽く納めると、改めてフォークに刺さっているトンカツを
カブッとかじる。
モグモグ...
「おお!こ、こっちも肉は柔らかくて、肉汁ジュワジュワですね♪」
「なのなの!肉汁ジュワジュワでしょう!旨いでしょうなのっ!!
ほれほれ、あーしのオススメをもっと食べ進めろなのっ!」
金髪さん俺の絶賛する言葉に、破顔を崩した笑顔でドヤドヤしてくる。
「ふう...ご馳走さまでした!」
俺は全て食い終わると、両手をパンと合わせて頭を軽く下げる。
「あ、そうそう。このランチのお金をまだ払っていませんでしたね?
おいくらなんですか、リダお姉さん?」
俺は食券を買わずにランチを食べた事に気付き、ランチ代を払うべく
財布をポケットから取り出す。
「あなたは払わなくていいわよ。そのランチの代金はそこのスズとルルが
払ってくれるだろうからさ♪」
「スズとルル?」
「スズとルルはそこの二人の名前だよ。黒髪がスズ、金髪の方がルルだ♪
それで問題はないよな、二人とも?」
「うう...仕方がない。後輩にもリダさんにも迷惑を掛けてしまったしな...」
「懐が寂しいけど、まぁいいかなの。可愛い後輩に奢るのもまた先輩の
所業だしなの♪」
「あ、ありがとうございます。スズ先輩!ルル先輩!それじゃ遠慮なく
ゴチになりますね!」
「うむ!」
「なの!」
不満を匂わせつつも、リダさんの申し出を受ける、黒髪さんこと、
スズ先輩と金髪さんこと、ルル先輩に、俺は感謝の言葉を二人へと
送るのだった。




