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王都のチートな裏ギルド嬢  作者: 和泉鷹央
2.ダンジョンの爆破魔
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2.ハサイヒメ

「スキルの交換はそういうものです」

「そうなの? 知らなかった。みんな、言えばくれたから」

「みんな?」

「うん」


 くれなかったら爆破するよ。いや、爆発するよの間違いでしょう、それ。

 シリルが約束した知恵が待ちきれないのか、ハサイヒメはばくはー、ばくはーと連呼しながらずい、とさらに手を差し出してきた。


「くれたら、知恵以外のものを差し上げます」


 ばくはーの予告に脂汗を額に垂らしながらエミリアがそう言うと、ハサイヒメの動きがぴたりと止まる。

 嬉しさに思考が停止したか。

 それとも、爆破の秒読みを開始したか。

 後者なら、さっさと防御結界を展開しないと間に合わない。

 ついでに一階層でも上にもどらないと崩落の危険性がある。

 巻き込まれるのは嫌だ。


「次にー」

「はい?」

「次に会うときにー……見つける?」

「次って……」

 

 そんなのいつになるか分からない。

 その前にいまの安全を保障して欲しい。心臓がバクバクして焦りが止まらない。

第一、ハサイヒメがこの十五階層のどこに出てくるのかもはっきりしてないし。

 探されると出てこないけど、勝手気ままに出てくる存在だったらどうしようもない。

 ハサイヒメはうーんと天井を見てから答えた。


「次はー次?」

「シリルさーん!」


 もう自分ではこのへんてこな生物の相手をするのは限界。

 そう思ってエミリアは背中に隠れてまだなにかしている先輩に助けを求める。

「あーあった」と愚痴っぽく言って、シリルはなにかを取り出した。

 一本の何の変哲もない、ただのチョークだった。真っ白の。


「根性見せなさいよ、新入り」

「そんなひどい」


 やっぱりシリルの新人教育は最低だ。

 ほら、とチョークをハサイヒメの手の中に放ってやる。

 モンスターは器用にうけとめて、なにこれと匂いを嗅いでいた。


「食べないでね」

「食べ物じゃない?」

「書くものだから」

「……書くー……なに?」

「こーする」


 もう一本、同じものを手にしてシリルはダンジョンの壁。

 大きな大理石にも似た、しかし茶褐色のそれにまるく円を描いてみせた。

 まんまるな、満月のような。完璧な円だった。


「おお!」


 ハサイヒメが感嘆の声をあげる。

 そんなに驚くことか?

 エミリアは頭が痛くなってきた。


「こう持ってー、こう」

「こう?」


 ふむふむとハサイヒメが真似してみせる。案の定、チョークはぽきんと真ん中から折れた。

 あ、と悲しそうな声が上がる。

 シリルは気にするなと箱でそれをくれてやっていた。

 確か、庶務六課の備品庫にあった五十本いりのやつだ。

 どうやって持ち込んだのだろうとエミリアは眉を寄せていた。


「たくさんー」

「全部あげるから。それで力を抜いて、こう。練習ね」

「うーん。うん」

 

 何をどう納得したのか、ハサイヒメはわーいと箱を持ちはしっていく。

 これで終わり?

 と、いうか私の次回はどうすれば?

 エミリアの心配をよそに、途中でたちどまり中を確認してむふー、と鼻息荒くしてはまた小走りに走り出す。

 そのうち、視界から見えなくなった。

 ……次、どうしよう。

 消えて行ったハサイヒメを見送りながら、シリルがつぶやく。


「あれ、増殖したりしないよね」

「は、え?」

「増殖。これまでみんなって言ってたでしょ。爆発四散して死んだらそれでおわりって感じじゃなさそう」

「こっちがもらわないと割が合いませんよ!」

「あなたも欲しいの?」

「要りません! それより、どうなるんですか、増殖って」

「まー、この階に立ち入るのを禁じたらいいんじゃない。迂回路とか用意すればほかの冒険者がでくわすこともないだろうし」


 そんなに簡単に言うけれど。

 迂回路なんて作れるのだろうか。

 先輩は後輩に、「まあなんとかする」とだけ言って偉そうに胸を張っていた。

 

――翌日。

案の定、ハサイヒメは二十階層にも出現した。だけど一人だった。

 


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