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王都のチートな裏ギルド嬢  作者: 秋津冴
3.庭にダンジョンができた

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7.後輩、活躍する 後編


 切り札を握った時はさっさとカタをつけてしまうものだ。

 朱色の猫は自分の尾をむんずっとふんづかんだエミリアに向かい、冷静に忠告してやる。


「は?」


 もうどう見てもこちらの価値じゃない。

 そう勝ち誇った気でいるエミリアは尾に手を絡め取られ、そのままふわりと宙に浮かんで―ー床叩きつけられた。

 

「……っいっだー」


 どことなく品の無い悲鳴が、後輩の口から上がる。

 レムはそのまま尾をエミリアの首元と両手の先に這わせて自由を奪う。

 ごろりと無理矢理仰向けに差せて、その上によいしょっと四十キロはありそうな体重でのしかかつた。


「うっ……おもいッです」

「軽いの間違いだろう、この愚か者め」

「ぐぇっ」


 のっしと胸元に全体重をかけられてエミリアはついつい悲鳴を上げてしまう。

 まるで蛙を押しつぶした時のような無様な声だった。


「誰だ、俺の尾を燃やすなどと偉そうなことを言ったやつは」

「えーと……さあ、どなたでしたっけ」


 首元に青い布を巻いた朱色の猫は、その金色の瞳をこれでもか、と見開いて威嚇をしてくる。

 そこには金色のまさしく炎があり見続けたら魂すらも吸い取られてしまいそうだった。

 エミリアはさっと他所を見て視線をずらす。

 苔色の彼女の瞳には既に諦めの色が浮かんでいた。

 

「情けない奴だ。大言壮語したのなら、最後までほらを吹いたらどうだ」

「そんなもの口にするだけ、先輩たちから遠ざかります」

「どういうふうに?」

「嘘つきだって。実力もないくせに、ただ可愛がられそのうちに飽きられて捨てられる。周りからはそう見えます。内側からはやると言い出したのにできない無能。そう思われて捨てられます」

「お前もいろいろと面倒くさい女だな?」

「そうですよ。面倒くさいのです。だから学院でも好かれていませんでした。家からもそう」

 

 朱色の猫は片方のつま先でエミリアの額をふにふにとすると、そのまま力を込めてつん、と突いてやる。


「おい、馬鹿。すくなくともあいつも俺もそんなつまらんことはどうでもいい。何も理解されないのも問題だがな」

「……なにも理解しないって」

 

 そう言うと、彼はエミリアの胸元にどっしりと四肢をおろしてしゃがみ込む。

 その仕草はまるで本物の猫のようで愛らしい。

 重さがなければ、だけれども。


「シリルのあの不機嫌はお前の頬に原因がある。少し前にやった特訓についてもそうだ」

「ナターシャの爆破魔法の特異性は理解しましたけれど、それが素晴らしいものだとでも?」

「素晴らしい。あんな燃料なしに、思念だけで爆発させられる魔法など存在しない。モノを燃やすにはないか対価がいる。そうなると、あれにおける対価はお前の魔力だ。使えば使うほどどうなるか……分かるな?」


 言われてエミリアは背筋がぞくっとする。

 それ言わずもがな、使いすぎれば彼女の死を意味する。

 魔力とは無尽蔵ではなく、一人の魔女に使える量など、たかだか知れているからだ。


「……はい」

「まあ、そう固くなるな。他から注ぎ込む成り、周囲から手にれるなりすればいい。今回はその訓練に持って来いだとは思わないか?」

「え、でも……それと頬がどうのこうのって? どうつながるのですか」

「なあに、俺がほんのすこしだけ、加護を与えたのさ。お前が魔力を集めやすいようにな。そうしたらシリルのやつ、それを出入りする際に加減できるような加護を与えていきやがった。まったく……恵まれた後輩だ。そうは思わないか?」


 はあっ? 

 とエミリアはあり得ないと首を振る。

 しかし、レムの金色の瞳が真実を物語っていることを知ると、それは沈痛な疑いの眼差しから、沈痛な表情へと変化する。

 どうして自分だけ――そう思ってしまうからだ。

 何も誉められたことができていない、足手まといの後輩なのに。

 顔を傾けて左下の床板を見ているとレムの片足がぐいとそれを止めた。

 そのまま視界は正面に。

 朱色の猫と天井が見えた。

 でっかい手だなあ、と猫の手を見て思う。

 あれで引っ掻かれたらひとたまりもないだろうなあ、とも思っていた。


「話の最中だ、前を向け。礼儀だろう? 習わなかったか?」

「……押し倒されていまにも犯されそうだとは思っておりますが」

「猫でも良ければしてやろうか?」

「いいいっ、嫌です!」

「なら前を向け。大事な話はここからだ」

「……はいっ」


 びしりと全身が固まった。

 とんでもないことをさらりと言い、脅しどころか実行までしようとする。

 シリルがお風呂から出てきたら、四つん這いで猫と……していましたなんて、言えるはずがない。

 エミリアは両手で胸を抱き締めようとし、先に猫の胴をむんずっと掴んで信じられない腕力で隣のソファーの上に放り投げた。

 自分もまた飛び起きて慌てて椅子に座り込む。

 ぜぇぜぇと荒い息をつく後輩を見て、レムは「まだまだだな」と小さく評価した。


「さて、話だ。ダンジョンは一対でな」

「……一対?」

「地下に三角錐があれば、地上にも同様の形。もしくはそれの頂点部分だけが浮かんでいてそれぞれのバランスを確保している。どちらかが壊れたら維持できなくなり、崩壊する。それがダンジョンの宿命だ」

「え? それってさらりと凄すぎる話されていませんか、レム様?」

「ほとんどの人間が知らないことだ。そこでお前の役目だが―ー」

「何をせよと、おっしゃるのですか……」

「今いるここが中心部だということは分かっている。ナターシャがもうすぐやって来るから天空の門を閉じろ。俺とシリルは地下で地下側の門を閉じる」

「そうすればどうなる……と?」

「簡単だ」


 猫はまた意地悪く微笑んだ。

 まるで当たり前にできる物事が待っているかのように。


「ダンジョンに所属する者たちは門が開いたら内側に戻るようになっている。天地両方を閉じれば、ダンジョンは永遠に異空間の旅人だ」


 さっさと済ませるぞ。

 朱色の猫はそう言い、にこやかに微笑んだ。


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