3.そして災難はやってくる
そのまともじゃない要求のはけ口にされたのがどこでもない王都の何でも屋。
総合ギルド庶務六課。
通称、裏ギルドに依頼として回ってきたことはあまりにも当然といえば当然な判断の帰結で。
マンドリン男爵邸の地下に端を発したテッド市にいきなり湧いて出たこの大問題の引き受け手がなかったのだ。
「あー……いいかお前ら。もちろん今回の騒動だが、俺たちのやることは簡単だ。地下から出てきた魔獣だの妖魔だのを元の穴に追い返す。もしくは消滅させる。できることなら封印してしまって二度と出てこないようにしたい。それはできるのはとりあえず……」
百腕巨人の課長が言葉尻を濁しながらシリルを見た。
どうやら、前回の監察局ビルを倒壊させた責任の後始末が回ってきたらしい。
総合ギルドの上層部と王国の上層部はつながっていて、そこで出た結論がとりあえず今すぐに動けそうな連中を集めてテッド市に向かわせ、市民の安全を確保する、ということらしかった。
普段からギルドの表では扱えない仕事をこなしてきている部署ときたらそれはここしかない。
とはいえこの部署で活躍している人員達は確かに世間様から見ればではまともではないけれども、日々、他人が好き好んでやらないような作業を代わりにやっている人々ばかりで。
いきなり彼らが抜けてしまったら常用しているような現場は、その作業に支障をきたすことになる。
結局のところ動けるやつが行くしかないとなり、それは課長補佐のシリル、その部下のエミリア、そしていつもシリルのデスクの下でまどろみを覚えている、朱色の猫のレムしかいなかった。
「はいはい分かりましたよ。行けばいいんでしょ、行けば! 前回の問題もありますし嫌とは言いませんけど、ちょっと人数が少なくないですか? できることなら国軍や総合ギルドの通常に雇っている冒険者たちだって手を貸して欲しいくらいです」
「そっちはもう市内に入ってるんだよ。お前たちによって欲しいのは普通のことじゃない。分かってるだろ? 前回の問題に関係あるやつだ」
前回の問題と言われて頭に思い浮かぶのはハサイヒメしかおらず。
ナターシャと何やら仲良く過ごしていたのは今足元で眠っている、朱色の猫のやつで。
あんた起きなさいよ、と靴の先でちょいちょいと突いてやると猫は面倒くさそうに瞳を開いた。
「どういうこと? またあのナターシャが関わってるの?」
「……俺は詳しくないがあいつの中にはダンジョンがそのまま眠っているからな。正確にはダンジョンコアと言うべきだが……」
「ダンジョンの話はダンジョン同士で話をつけろってこと?」
「行けばわかるだろ」
ああ、また厄介事が増えた。
各々のデスクに座って先輩と後輩はそれぞれ頭を抱えてうなったのだった。




