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王都のチートな裏ギルド嬢  作者: 秋津冴
3.庭にダンジョンができた

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2.交易をもとめるダンジョンの民



「わかった。今すぐに閉じてしまう、さっさとやってくれ。あの銀縁メガネが……うるさいエルフがまたやってこないうちに入り口をぶっ壊すなりなんなり好きにやってくれ」

「分かった。話は決まりだ。幸いここには古い建物とかいっぱいあるからなー」

「古い建物で何をするんだ?」

「数百年前の建物っていうのは、どいつもこいつも地下に部屋があってだな。そこに使われてる健在ってのは、大部分が魔力を遮蔽する作用があるんだよ。だからそれできっちりと蓋をしてやれば、物理的に凄まじい爆発でも起こさない限りは……な? 爆発にしたって、魔力を伴った爆発なら、小さな火薬で爆弾を作るようなもんだ。大して威力はない」


 聞いていてなんだか安心しさせてくれる内容ではあるが。

 ヨームには幾つか不安点もある。


「もし中に眠っている伝説級の魔獣とやらが起きてしまったとしたら? 下から上に登り上がってきて、その素晴らしい体格で入り口を粉砕したらどうなるんだい」

「ヨーム。それはないよ。三角形の急勾配をした形状の建物だ。当たり前の常識だが魔獣の能力っていうのは、その体積に比例する。魔法をそれだけたくさん体内に取り入れることができるからな。だから俺たちみたいなドワーフや人間、エルフには普通ならどうやったって勝ち目が無いんだ。意味わかるよな?」


 安心しろよ、そう親方は言うがどこか言葉尻を濁すのが怪しい。

 椅子に座ったまま不機嫌そうに足を組む。

 そして二つ目の質問を若き男爵は投げかけた。


「僕たちみたいな人間族でも、さっきやってきたエルフ族でもそうだけどさ。まあ魔獣は異空間に魔力を溜めることができないから、体が大きいぶんだけ強いという理論は正解だ。しかし僕たち言葉を、詠唱を用いて魔法を使う種族には、それは当てはまらないだろ」

「また面倒くさい質問を……」


 親方はやれやれと首を振った。

 この市会議員は、まだ二人が駆け出しの冒険者だった頃からそうだ。

 何事も理屈をつけて理詰めで考えて納得がいかなければ最後まで説明を求める。

 そのおかげで何度しにかかったことか。


「面倒くさくてもいいから説明しろ。ここは僕の土地だ」

「あーはいはい、左様でございますね男爵閣下。放蕩が過ぎて実家から持ち出した金目の物を売り捌いたことがばれて、先代様が死んでなくなるまで縁を切られていた遊び人何を言いやがる……」

「聞こえてるんだよ。過去のことはどうでもいいから教えてくれよ。そうしないとまたあのエルフがやってくるぞ。文化遺産だとか言って、親方達が用意してくれた建材とかそういったもの全て元に戻さなきゃならなくなる。どっちがいいんだい?」

「はあ……分かったよ。簡単にな。扉は五段階設置する。一番上から五番目の階層入り口まで、五段階で用意する。扉の周りには明日アスティラ鉱石を貼る。魔力を貫通させない、中に閉じ込めてしまったら一切の魔力を使うことができない。あの奇跡の鉱石だ」

「なんでそんな高いものが……」

「あるんだよ。こんな千年都市だぞ? 古い家の中には、古代の魔獣対策に家の壁や建材にアステイラ鉱石を混ぜ合わせたものたくさんある。そしてそういった建物は誰も住む奴がいない。ぶっ壊しても誰も文句を言わない。つまり」

「つまり?」

「ただで置いてある誰も使わない歴史の遺物を、俺達が賢く活用してやるって事だ。それも安全なやり方でな」


 そこまで言うと親方はちょっとだけ言葉を詰まらせる。

 元冒険者としてはあんなダンジョンが現れたらもったいないなと考えるのが普通だからだ。


 あの地下深くに眠っているはずのお宝を掘り起こす価値は十分にあるだろうし。


「なあ、ヨーム。あれ本当に埋めてしまうのか? どうだ、迷宮探索局に委託しないか? もちろん入り口はちゃんと防ぐ。他の場所に転移魔法で入り口を作成しよう。それならお前には迷惑はかからないだろ?」

「……残念だが、親方。僕の家には家訓があってね。身に過ぎたものを欲しがるな、冒険者に手を出すな、最後の一つが……ダンジョンに潜るな」

「お前、最初の二つは完全に破ってるじゃねえか」

「破ったから親子の縁を切られてしまったのさ。今はどうにかこうやって元に戻してもらってるけどね」

「三番目だけは守るってか? これまで散々、ダンジョンに潜っただろう?」

「ああ、潜ったよ。そのおかげで家を新しくするだけど貯金をすることもできたし、親方達とこうやって平和に話ができる。いろんな冒険をしなかったら今頃僕はまだ、海の向こうで奴隷をやっていたかもね」

「最後の大仕事って気持ちにはならないのか」

「ならないね。他に入り口を作ってくれるのはありがたいが。もし誰か死人が出たとかって話になったら、僕はもうこの街を出ていくしかなくなる。親戚の力はそれくらいにはまだ強いんだ」

「残念な話だ。じゃあ塞ぐよ。それでいいな」

「ああ、頼むよ」


 そして、迷宮探索課の係長ゼイョル配下のドワーフ職人たちの手によって、マンドリン男爵邸の庭に突如として現れた謎のダンジョンは、入り口を塞がれた。


 しかしこれは単なる前哨戦に過ぎなかったのだ。


 このダンジョン……悲しみのマンドリンと、後世では広く知られる三角錐の形状をしたこいつは、頂点部分をマンドリン男爵邸ににょっきりと出しただけで。


 実は他にも、市内数か所に時間差を置いて入り口を開き、中からは封じられていた千年前の魔獣や妖魔。

 このダンジョン内部で住んでいて、数階層に分かれた社会的な身分を持つ支配層とその一族、それに支配される市民たちや奴隷たち。


 その数、おおよそ二万人が地上に対し、交易を求めてやってきたのだから。

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