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王都のチートな裏ギルド嬢  作者: 秋津冴
3.庭にダンジョンができた

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1.その穴を閉じてくれ

 もし、庭にダンジョンへの入り口ができたら、庭にダンジョンができた! などと喜んでそれをどうにかしようとするのが、当たり前なのだろうか?


「ヨームさん?」

「おーい、旦那? もうそろそろ初めていいかい?」


 仮に世間様の多くがそんな反応をするのだというなら、ヨームの取った行動はかなり突飛……。

 標準的な行動ではないことになってしまう。

 だからこそだろうか。


「ヨームさんってば! 聞いてくださいよ! どういうことですか、これ!」


 いまヨームの目の前で青白い顔をしたエルフの役人。

 王都に本部を置く文化庁の下部組織。

 テッド市立美術館の学芸員と名乗る、この男。名前をリシャムといったか。

 こいつが死人のような顔を真っ赤にして、土地の主たるヨームに食い下がっているのは。


「うるさいなーリシャム調査官。もういいだろう、ここは俺の土地なんだ。このテッド市に古くから住む貴族、国王陛下に先の聖戦にて功績を賜り土地を頂いたマンドリン男爵家の敷地内。意味はわかるな?」

「しっしかし、本気なのですか!」

「なー旦那。こっちもだいぶ待たされてるんだが……放り出していいか、このエルフ野郎」

「好きにしてくれ、親方。時間を取らせて済まない」


 緑色の髪をした銀縁メガネの文化人気取りのエルフの話なんて、誰も耳にしたくないのだ。

 あごひげがたくましいまるで山男みたいながっっしりとた、ドワーフ親方はあたりで待機している野郎どもに顎先でおい、と命じる。


 すると、十数人待機していたドワーフの職人たちは銀縁エルフの両手両足を軽々と持ち上げて、男爵邸の門の外まで放り出してしまった。

 

「よかったんですかぃ? 俺たちはエルフのことが好きじゃないが、あれ一応役人だろ」

「気にすることはないと思うよ親方。それよりも先週からぽっかりと穴を開けた、このダンジョンの入り口だけど……やっぱりそうなのかい」

「ええ、ダンジョン探索専門の俺たちが、四日間かけて転移魔法だの召喚魔法だの、その他にも色々と機械まで持ち込んで調査した結果はあんまりよろしくねえ」

「あまりにも大雑把すぎて、僕には理解ができないんだが」

「あのなヨームさん。いや、マンドリン男爵閣下様よ。とことん詳しく話をするんなら三ヶ月は必要だな」


 それは勘弁してくれと、ヨームは首を振った。


「簡潔にしてくれ、親方。ゼイョル」

「聞いてみると楽しいもんだぞ」

「頭をこれ以上、魔導の資料で埋め尽くしたくないんだ」


 知りたくない理由ではないところが普通とは違うところだ。

 ドワーフたちが籍を置くテッド市迷宮探索局の係長、ゼイョル。

 通称、親方はやれやれと頷く。


「簡単にいこう。こいつはいきなりできたんじゃない、少なくても千年以上前からここにあったんだ」

「千年ー? 入り口が封印されてたってことか」

「そうだな。誰にも見つかることなく千年もの長い間ここにずっとあったってこった」

「……それがなんでいきなりここ最近になって復活したんだ、理解ができない」

「それは俺にもわからん。元からそうなるように設定されて封印されていた可能性もある」

「そうじゃない可能性もあると? 誰が作ったダンジョンなのさ?」


 なんとなくめまいに似たものを感じてヨームは頭を押さえるとふらふらと倒れそうになった。

 それを抑えたのは、それまでずっとそばに控えていた一人のメイドさんだった。


「ご主人様。気を確かになさってください」

「あ……気は確かだよ、クロエ。それよりすまないが、作業員も含めた全員の休憩用のお茶菓子と紅茶を準備してくれないか」

「かしこまりました直ちに」


 ハウスメイドなのか、パーラーメイドなのか知らないが。

 とにかく彼女、クロエは長い黒髪をポニーテールにしたそれを、ワンピース風のメイドドレスに包んだまま、奥へと消えていく。

 去り際にそっと主人を近くにあった椅子に座らせたのはさすがというべきか。


「……もう少し出っ張りがあれば、お前がだって楽ができるのになあ?」

「どういう意味だ」

「いやいや。人間の寿命は短い、俺達ドワーフみたいに三百年から五百年を生きることは少ないだろう? ヨーム、人間の寿命は長くてせいぜい八十年。お前は今、爵位を継いでからようやく二年で、二十六だ。そろそろいい歳だと思うがねえ」

「親方。人の話はどうでもいいから、調査の報告をしてくれないか」

「へいへい。地下は今のところ魔力素子と音波による解析……まあ簡単に言えば、数百メートルから最大で数キロ地下まで先にある障害物や壁なんかを音と魔力の反発を拾って、解析する装置があるんだが。それによると大体、四十階層。あそこにあるビルくらいには深くて、その分、巨大な迷路が三角錐のように広がってる。この男爵家の敷地だけでなく、市内の三分の一はそのうえに乗っかってる計算になる」

「……よくこの千年間の間に発見されなかったものだな」

「三角錐の一番てっぺんがここにあるんだ。ここは市内の中心地で、貴族様のお屋敷だし、な。そこから遠ざかれば遠ざかるほど、地下深くに何かを求めようなんて奴はまずいない。逆に言えば封印が解かれずに済んで良かったかもしれん」

「意味がわからないぞ?」

「千年間、ずっと眠っていたダンジョンだ。伝説級のモンスターだって中にはいるかもな」


 それを聞いて、ヨームは肩まである茶色の栗毛を手で後ろへとやった。

 ドワーフを縦に二倍して少し引いたような長身。人間族で、唯一、紅の瞳が異彩を放っている彼は、おや? という顔になる。


「今話していた装置で調べたりはできなかったのか」

「あれはな、あくまで単なる物体しか映し出さない。生きてる存在にはあまり関係できないんだ。生きてたら、魔力だって変動するからな……あれを一週間、そう。一週間ほど、この地下に対して照射することは可能だが……めちゃくちゃ金かかるぞ?」


 中に何があるのかを調べるよりも、新しく封印し直した方が賢い。

 ドワーフはそう言ってまだ若い男爵を説得する。


 親方の意見はもっともで、入り口は自分の体たくないできたことによって管理監督義務がヨームに課せられてしまう。


 ただでさえ市会議員として忙しい日々を送っているのに、これ以上の忙殺は勘弁して欲しかった。

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