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王都のチートな裏ギルド嬢  作者: 秋津冴
2.ダンジョンの爆破魔

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14.標的


「お待たせしましたー」


 と、元気いっぱいの声と共に黒髪のメイドがやって来る。


「そこに置いてくれ」


 朱色の巨大な猫が人語でそう返事をするのを聞いて、メイドはぎょっと驚きの顔をする。

 それでも相手は客だ。

 言われた通りに両手いっぱいの料理がこれでもか、と盛り付けられた数枚の皿をテーブルの上に置いて彼女は去ることにした。


「猫に女の子二人。変なお客様」


 黒のワンピースに白いエプロンが清潔感を感じさせるというのに、料理が行きついた先はずいぶん、重苦しい雰囲気に包まれていた。

 王都の総合ギルド一階に位置するこの酒場で働くメイドはこれまで様々な冒険者たちの姿を見て来たが、今回のお客様たちはどうも胡散臭い。

 料理が出てくるカウンターの奥に戻り、同じ格好をした獣人の女メイドに彼女は声をかけた。


「何あれ?」

「庶務六課の連中よー。どうしようもない役立たずたち」

「あーあれが……」

「そうそう、この総合ギルドのお荷物。ロクデナシどもよ」


 ロクデナシ。

 つまり社会のはみ出し者にして、いてもいなくても困らない。

 むしろ厄介な存在。

 そんな連中が、この由緒正しい本館で食事をするなんてぞっとしない。


「クズはクズらしく、別館のあいつらの『家』に引っ込んでたらいいのに」


 獣人は吐き捨てるようにそう言って、配膳口から出てきた新しい料理を手にしてカウンターを出ていこうとする。

 そのとき、ふと彼女は不思議そうな顔をして同僚に言った。


「でも不思議ね。今日はいつもいらっしゃる……課長補佐のシリル様がいらっしゃらないわ」

「へ? そう……なんだ」

「そう。黄金の綺麗な髪の毛をなさっているの」


 それって、あなたの好き嫌いだけに左右されてる判断じゃないのかな?

 ロクデナシ、社会のクズ、生きる価値なしなどなど悪態をつきカウンターを出ていく同僚を見送って、黒髪メイドはなんともやるせない感情を心の中に抱えていた。

 生きる価値がないのに、髪の毛が綺麗だという理由だけで特別扱いするの?

 差別じゃないのかな、となんとなく呟くと、彼女もまた配膳口から出て来た、新しい皿を手にしてその場を去った。



 


 レムはさて、と口を開く。

 あの黒髪メイドが置いていった皿の一つから魔力で浮かび上がらせたり鶏肉の揚げ物を自分の取り皿に移動させ、それを器用に加えて食べていた。

 エミリアはこんな場所が初めてだというナターシャのために、トングに似た器具で料理を大皿から小皿へととりわけ、それを彼女に渡す。

 ナターシャはどこで習ったのか、器用にナイフとフォーク・スプーンを使い分けてそれに口を付け、スープをすすると、美味しそうに焼かれたパンをちぎっては小さな口に頬張っていた。


「やることはあまり難しくない」

「物騒ですからヤル、などと言わないでください。レム様」

「ふん、こんな場所だ。明言した途端に耳のいい連中が押し寄せてくるぞ、エミリア。あれは大罪だ」

「……それを私にさせようとは」

「こちらはシリルを救いたい。お前は恥をかかせた連中を好きにしたい。だろう?」

「そんな望みなんて……」

「ああ、もううるさい。魔力を使うには体力を消費するのだ。さっさと食べてしまえ。話はそれからだ」

「まだ昼前ですよ……入るはずないでしょ」


 レムに対する敬意もどこに行ったのやら。エミリアは憮然として唇を尖らせて反論する。

 ナターシャは我関せずと料理に舌鼓を打っていた。

 無邪気なふりをしてパクパクと料理を次々に平らげていくその姿を見て、エミリアはついつい食欲をそそられる。

 見ているだけで周りのお腹をすかせてしまうナターシャはある意味、とても恐怖の存在だ。


「食べるのか食べないのか。食べないのならば俺が食べよう」


 朱色の大きな猫の足が自分の前にある料理皿を奪おうとするのを見て、エミリアはちょっとそれを取り上げてしまう。


「これは私のものです。私が注文したんです……勝手に食べようとしないでください……」

「なんだ。食欲があるんじゃないか。それなら仕事も問題ないな」

「どういう意味ですか」

「食べ終わって全てを消化した頃に、お前が役に立つ。それより前にバタバタとしたところで太陽は天空にある。悪いことをするのは夜と相場は決まっているのさ」

「王宮の警備も夜になれば手薄になるということですか」

「それもある。だが何よりも俺たち魔族の能力が最高潮になるのは、なぜか夜だからな。今は食べて練習をし、そして寝ろ。そうすれば夜だ。いやでもどうでもに夜になる」


 そうして夜になれば、自分は人殺しになるのだ。

 鉛色の感情が、心の出入り口に蓋をしようとする。

 閉じてしまうとする前に「はいはい」と蓋を無遠慮に開いたのは、誰でもないナターシャだった。


「狙うということは簡単なものでして。狙った後に命中させることも、爆発させることもそうそう難しくはないんですよエミリアさん」

「そんな簡単に……言わないで」

「簡単なのです。簡単だからこそ丁寧に正確に素早くそして確実に仕留めなければ、相手が苦しむのです。標的となった相手が苦しいものです」

「あなたのその魔法だってダンジョンの外にあれば発動するとは限らないじゃない」


 もし本当にそうなら発動しないでほしい。

 ほんの小さな可能性に期待を込めて言ったエミリアの発言は、朱色の猫にあっけなく握りつぶされた。




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