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王都のチートな裏ギルド嬢  作者: 秋津冴
2.ダンジョンの爆破魔

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13.心の壁

「あれ、なんでいるんですか!」

「呼び出したのだ。気にするな」

「いえ気にしますッて! ハサイヒメですよ? あのカースの地下ダンジョンで別れたはずの、あれじゃないですか」


 エミリアはそう叫び、来た道を引き返そうとする。

 あれ、なんて失礼な呼び方だなと、離れていた場所でその会話を耳にしたナターシャは、唇を尖らせていた。

 相変わらず臆病なエミリアはなかなかこっちにやってこようとしない。

 待っているのも時間が惜しいので、ナターシャは自分からそちらに向かうことにした。


「あれなんて呼ばないでくださいね。エミリアさん。お久しぶりです」

「あっ、ごめんなさい……ナターシャ。どうしてここにいるの?」

「呼び出されたからですよ。それだけです」

「それだけって……ダンジョンの地下にいるモンスターを呼び出すような、高位の存在なんて……」

「そちらにいらっしゃるではありませんか。あなたの足元」

「え、レム……様?」

  

 そうそう、とナターシャはレムにかしこまった態度で挨拶をする。

 それはまるで軍隊の中で下士官が上官に敬意を払うように行われていて。

 エミリアは、それを見て目をまん丸にしてしまった。


「どういうことですか、レム様。相手は魔族ですよ……」

「俺もシリルも、そこにいるナターシャも。それに、魔法を使うという意味ではお前も魔族だ」


 レムは小さく言うと、ナターシャに説明してやれとあごで示した。

 ナターシャは心得ました! とか言って簡単に説明を始める。


「魔族にもレベルというものがありまして」

「はあ……それで?」

「ナターシャさんはそうですね。全部で十五段階ぐらいに分けるとしたら、下から2番目ぐらいです」

「へえ……嬉しくない一言だわ」

「私なんかは下から六番目ぐらい。シリルさんは八番目ぐらい。こちらにいらっしゃる赤い? 猫様はシリルさんと同じか、それよりもっと強い存在。古臭い伝説なんかに出てくる「魔王」とか。そんな感じの存在だと思われます」

「魔王って、レム様が? そんな偉大な存在、こんな場所にいるはずがないよ」

「どうしてそう思うんです?」

「だって、ここは総合ギルドの一角で。この中には、いろんな神様に選ばれた英雄や勇者、聖騎士様なども普通にいらっしゃるのに」


 ああ、なるほどとナターシャは辺りを見る。

 この建物は二階建ての別館だけど、隣にある本館の方は確かに強い魔力を感じました、と彼女は述べた。


「怖い人がいっぱいいますね、とんでもない場所です。だからさっさと帰りたいのですが」

「帰ればいいじゃないですか! どうして私まで巻き込むの!」

「あのーなぜ、そんなにたくさんの涙を目に溜めているのですかエミリアさん」

「だって私……私のせいで先輩を巻き込んで……見捨てた」


 色々と心の中に溜め込んでいた情動。

 それが渦を巻いて竜巻のように膨れ上がり、エミリアの心の底から這い上がってこようとする。

 そこに冷たく水を差すナターシャは、やっぱり世間知らずだ。


「あー。裏切ったんですか」

「そっそんなことない!」

「だって裏切ったんでしょ? だから、泣きそうになってるんですよ。自分が悪いことをしたのに、それをごめんなさいって謝れないから。違います?」

「違わないけど、そんなことあなたに関係ないじゃない」

「うーん。それはそうでもないですよね」

「は?」

「呼び出されたんですよ。あの地下で静かに眠ってたんですけど。お前達にも関係あるから手をかせって」

「呼び出された? いったい誰に?」

「あの猫さんにです。正確には、私の中に入っているダンジョンコアが、その連絡を受け付けたのですが」


 は?  

 連絡?

 エミリアには何一つ理解できない単語を並べ立て、シリルはもっともらしく説明する。

 話が終わった後も不思議な顔をしているエミリアに、レムがそっと補足した。


「エミリア、お前はこいつから指向性の爆破魔法を教わっただろう?」

「え、あーはい。確かに教わりました。でも見ただけで、使い方も分からないし、あのダンジョンの中でしか使えないっていう話でしたけど」

「それだけじゃ交換にはならない」

「……と、いいますと」

「お前が普段、どんな場所にいても利用できなければ伝えたことにはならない」

「それを伝えに来てくれたと?」

「でもそれだけでは足りないからな。練習用の標的を用意する必要がある」

「何でしょうか。その、とても悪い微笑みをされているレム様を恐ろしく感じます」

「ぴったりの標的がいるじゃないか。あの夜会の当日に、お前に婚約破棄をして恥をかかせた上に、逃亡しなければいけなくなった原因は誰だ」

「誰って。それは第六王子様……まさか、標的って。まさか……」

「生きるためにはたまには泥水だってすする覚悟が必要だ。お前だけじゃない、お前の仲間や家族たちだってあれから罰を受けた者はいるだろう。そいつらを助ける意味でも、やってみる価値はあると思わないか?」


 それはつまり、どんな場所にいても時間も空間も関係なく破壊することができるナターシャの魔法を使って……エミリアを社交界からも貴族社会からも追い出したあの男に復讐してみないかという、そんな誘いかけだった。

 真っ青な顔をしつつ、やるかやらないのか。

 そう迫るレムの顔には、拒絶したらお前のことを許さない。

 そんな怒りの色がありありと浮かんでいた。


「……逃げ場所はないようですね」

「あの夜にお前を拾ったんだ。役に立たないなら、この場で潰すまで。どうする」

「やりたくないけど。でも死にたくありません。それに」

「家族だって救いたいだろう?」

「はい……」

「なら返事は決まりだ。覚悟を決めろエミリア。そうすればお前の魔女としての才覚は、あのシリルより上にいけるかもしれない。ただし、灰をかぶっていきる覚悟がいるがな。骨を燃やした後の、真っ黒なようで所々に灼熱の色が混じった灰をかぶる覚悟を今からしておけ」


 頷くこともできないエミリアを引っ張るようにして、レムはそのスカートの裾を噛んで歩き出す。

 これで私も人殺しに手を染めるのか。

 その重い現実が、エミリアの心に新しい何かの壁を作ろうとしていた。


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