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王都のチートな裏ギルド嬢  作者: 秋津冴
2.ダンジョンの爆破魔

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12.エミリアの受難


 問題のあった地方都市カースの地下ダンジョン騒動はなぜか大きな波紋を呼ぶこともなく、あれから二週間が経過した。

 問題があったといえばそれは地方都市にではなく、王都に位置する庶務六課……通称、裏ギルドの組織のほうにいろいろと困ったことが起きたのである。


 まず第一は、エミリアの問題……はさておき。

 あの夜会の最中に、不敵にも会場内に侵入し、第六王子アノンに向かい、


「裁かれるのはあんたの方よ、この馬鹿王子! 公衆の面前での婚約破棄は貴族に相応しくない行為として、国際条約で禁じられたことを知らないの?」


 などと言って退けた、庶務六課の課長専属秘書シリルの方に王国の裁判所から出頭命令が下されていた。

 内容はもちろん、王族への不敬罪及び、夜会への不法侵入などなど多岐に渡る。

 課長がこの証人喚問に対してきっぱりとした英断とともにそれを跳ね除けたかどうかはこの際置いておくとして、職場に戻ってみたらシリルの周りには完全武装の王国兵士がその身を確保しようとし、どかどかと大勢でやってきた。

 

「課長ー助けていただきたいのですが?」

「あーすまん! 王族に対する問題は俺はパスだ、パス!」

「あんたねえっ、普段さんざん人をこき使っておいて、この様は何なのよ! この口先だけ男!」

「ああ、ああその通りだ、口先だけだから、俺はこれ以上は知らんぞ。あ、どうぞどうぞ、連行しちゃってください。うち、無関係なんで……」


 ぺこぺこと腰を折って頭を下げる上司をみて、あまり身長が高くないシリルは巨漢の衛兵たちに両脇を抱えられまるで子供のようにぶらんっと足を垂らしながら連行されていく。

 その騒動の間、シリルと間を前後するようにして戻っていた朱色の猫は、我関せずと一度はもたげた頭をまた降ろすと、自分の寝床にその顔をうずめてしまった。


「ちょっと、後輩ー!」

 

 こんな時こそ助けなさいよ、とシリルは目でエミリアを追いかけるが……。


「あ、あれ?」


 衛兵たちが庶務六課に押し寄せてきて、入り口のドアを乱暴に開いた瞬間に小さなリスかネズミにかに身を変じてしまい、机の引き出しの中にそそくさと身を隠していた。

 自業自得である。

 普段、自分が後輩にやってきた冷たい仕打ちのお返しが、こんな形で実を結んだのは不幸としかいいようがない。


「課長ー、エミリアー! あんたたち覚えてっグム……」

「うるさい容疑者だ。口になにか詰めて黙らせてしまえ。あまりにも抵抗するようなら、処罰しても構わん」


 そんなやり取りが壁を隔てた廊下のなかでなされているのを聞いて、エミリアはデスクの引き出しの中で顔面を蒼白にする。

 どうしよう、助けて貰ったのにこんなことしかできないなんて……。

 だけど、出て行けば今度こそ死罪を与えられるのは確実だ。

 そう思うと、両足が震えすくんでしまって動くことができないし、動けと念じても言うことを聞いてくれない。

 私の馬鹿っ。


 卑怯者。

 シリルが自分あてに残した最後の一言が、妙に耳の奥に残ってしまってとても居心地が悪いまま、エミリアは静かにデスクの上に戻り、魔法を解いて元の姿に戻って暗い面持ちで与えられていた仕事の書類整理に戻ることにする。

 と、足元になにやらふわふわとしたものが動く気配がする。

 なんだろうとそれを見やると、そこにはシリルの飼い猫もとい相棒、朱色の猫のレムがいた。


「レム様!」

「付き合え」

「えっと、いまからですか? まだ就業中ですが」

「気にするな。課長の許可は得てある」

「あ、わかりました」


 どうやって自分のデスクの足元に紛れ込んだのだろうとエミリアは首を傾げて返事をする。

 席を立ち、周囲に軽く挨拶をしてから鞄を手に歩き出すと、朱色の猫は器用にオフィスの中にいくつもある机の島の一つからするりと抜け出てきて、エミリアの足元に擦り着いた。


「……器用ですね。どちらに行かれますか」

「監査局だ。お前を売りに行く」

「……え?」


 ぴたりとエミリアの足が止まる。

 今なんて言ったこの朱色のデカイ猫。

 売りに行くって……言ったわよね?

 そう思って間違いないと判断すると、心がバクバクと脈打つ中、エミリアがすることはただひとつ、この場所から逃げ出すことだけで。


「無駄だ。お前程度の魔力で、逃げ切れると思うな、小娘が」

「そんなーっ、レム様それはないですよ! 助けておいて今度は死ねとおっしゃるのですか!」


 必死に唱えた転移魔導の術式が立体的な形を目に見えるように創造されていくのを、レムはふさふさの尾の一振りでなにもかも打ち消してしまった。


「こちらが助けたのだから、お前の命をどう扱おうがこちらの勝手だろう。何を分かりきったことを言っている?」

「……奴隷ではないのですよ? 一緒に来いと誘って頂いたから信じたのに、この扱いはあまりにもむごいではありませんか!」


 ふん? と朱色の猫はよく分からないという顔をする。

 それから理解しようとして、首を傾げるとそれなら、と考えを言葉にした。


「むごいと言うが、子ネズミに変身して身の安全のために逃げ出したお前は酷い奴ではないのか?」

「でも、レム様だって素知らぬふりをなさっていました!」

「……俺にそれだけ言えるのなら、監査局で今回の問題。お前と第六王子との問題だ……命をかけて争ってみろ。それがおまえに新しい道を与えてくれる」

「待ってください! ようやく逃げれたのに、それでもまだ立ち向かえとおっしゃるのですか!」

「まあいいから黙ってついて来いよ。あの馬鹿魔女は俺には大事だが、あいつにとってもお前は大事な後輩だ。そこを改めて考えてみるんだな」

「……そんなことをいきなり言われても、何の前準備だって……」

「心配するな。運命というのは意外と適当に作られて回ってるもんだ。アイツみたいにな」


 アイツ?

 少し先を行くレムが前を見ろと廊下を歩くエミリアに告げる。

 そこには少し前に分かれたはずの……あのダンジョンに残ったはずのナターシャがいた。いや多分、いくばくか成長しているが……彼女はナターシャのはずだった。



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