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王都のチートな裏ギルド嬢  作者: 秋津冴
2.ダンジョンの爆破魔

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9.成長するダンジョン


 どっちにしたって上にある地方都市は崩落するしかないじゃない。

 シリルはそう結論付けた。

 最悪の最悪の場合に想定に想定をかさね導き出した結論だ、などということは口が裂けても言えない。

 言えるのはただ一つだけで、地下を支えるこの場所がなくなってしまえば、全ては終わる。

 ただそれだけ。

 こうなってくるとここを爆破するとかっていう方向性はなくなってきて、むしろナターシャの希望を叶えてあげたいくらい。

 そうすることの方が間違いがない結論にたどり着けるような気がしてきた。

 シリルは確認するようにナターシャに問いかけた。


「ね、ねえっ」

「何ですか、シリルさん」

「もうこの際だから全部ぶっちゃけてしまわない?」

「ぶっちゃけ……何のことでしょう?」


 知ってか知らずか、ナターシャは相変わらずのほほんとした顔できょとんと首を傾げてみせた。

 愛くるしいその笑顔がどこまでも悪魔の微笑みに見えてしょうがない。

 この状況からさっさと逃げ出したいのを我慢して、


「何の事って分かってるよね? このダンジョンのダンジョンコアが今壊れてるってあなた言ったじゃない」

「あー……極秘事項ですねー」

「極秘事項って! ちゃんとさっき聞いたわよ」

「言ってしまいましたか。これは失言」

「いやもうそんなやり取りどこでもいいから、直すなら直す。直さないなら直さない、ちゃんとしてよ。上には二万人から住む城塞都市があるの。もしもダンジョンコアの破壊があと少し……数時間以内にでも迫っているのなら、私とエミリアはー……この役立たずの後輩はここに置いていってもいいけど」

「役立たずって言いましたか!」

「使えない後輩の足手まといにしかならないからね」

「先輩、ヒドイデスセンパイ」


 わざとではなく真剣に物悲しくなってしまいエミリアは涙を溜めて直訴するが、シリルはええいっ面倒くさい、とそれをとっぱらってしまった。


「今、先輩後輩関係ない!」

「いやー面白い漫才ですねー」


 二人のやり取りを見ていたナターシャは心にもない拍手を喝采してみせる。

 棒読みのセリフがどうにも耳に痛いのは気のせいか。

 シリルはシリルでエミリアにちゃんとした任務を残していこうと考えていたのだ。

 それはエミリアにしかできないモノ。

 ある意味、人身御供といってもいい。イケニエの羊といってもいい。

 人柱と言ってもいい。

 そんな形のものだったから、今いきなりここで堂々と彼女を誘うことはしないのだけれども。


「心にもない一言をどうも! 二万人を避難させるのに、最低でも四日はかかる……転送魔法とかであっちからこっちにはいどうぞなんて、そんな簡単にはいかないのよ」

「なるほどー。転送魔法というものがありましたか、なるほどなるほど」

「……? あなた、ナターシャは下から上に上から下に。どうやって移動しているの?」

「私ですか? 私はほら、このダンジョンの壁のありとあらゆる場所から出入りが可能ですから。このダンジョンは、これだけで一つの生物のようなものなのです。私はその中を自在に行き来できるだけわけでして。転送とか転移とか、召喚とかの移動型の魔法を利用しているわけではないのですよ」

「へえ……。あーもしかしたらその方法、と言うかその理論は応用できるかもしれないけど。ああいや、ちょっと待って。今そんな話ししてる時じゃないから……お願い、ちゃんとはっきりと教えて。ダンジョンコアが欲しがっているものは何? 私たちは何を提供すればいいの? そしてえーと、ダンジョンコアは壊れる壊れないのどっちなの? どれくらいの時間がかかるものなの?」


 矢継ぎ早にシリルから質問が飛び出してきた。

 ナターシャはそれを受けしばし吟味してから、正しい答えを口にし始めた。


「頂けると言うならば、器が必要なのです」

「器って……どういうこと?」

「簡単に言いますとこのダンジョンは育ちすぎたのです」

「えっ! まさかまだ拡張したいってこと?」

「いえいえそれは逆でして、もうこれ以上大きくなれないんです。ある程度まで大きくなったら、どこかに器を移動して古いものを放棄しそして新しい場所でダンジョンを広げていく。これがダンジョンコアの成長過程なんです。もちろん永久不滅というわけにはいきませんから、あと四から五回。同じことを続ければ、たぶん彼は? 何と言ってもいいんでしょうか? まあそういうことにしておきましょう、彼は消滅します」

「今すぐにいってことじゃないの?」

「ええ、今すぐではありません。でも新しい器は用意しないと、あと数日のうちに彼は死に至るでしょう」

「あっさりと言ってくれるわねー。その器ってどういったものなの。まさか、ダンジョンコアが今持っているだけの魔力量をそのまま受け継げる存在なんて言わないわよね?」

「そうですねー。そんな存在のいえば嬉しいのですが、たぶんそうなるとお互いにどちらかが宿主ということでもめて消滅する可能性がありますのでそれは避けたいです」

「じゃあっ? 一番確実で一番簡単な器はどこにあるの?」


 そんなものがあるのだとしたら、一番最初に思いつくのはあの朱色の猫。

 うちのバカ猫のレムしか思いつかない。

 エミリアでは魔力を貯蓄できる量そのものが生まれつき足りていない。自分ならば相手を受け入れることもできるかもしれないけど……多分お互いに、どちらが肉体の主かもめて最後は消滅しそうだし。

 なるべくなら自分は安全圏で脱出したい。

 なんてことを非道な先輩は心の中で模索して、だめならさっさと逃げ出そう。

 もし、ダンジョンが崩落してしまってもきちんと下調べをしていなかった城塞都市の連中が悪い。

 そう言い逃れることをはっきりと心に決めてナターシャの返事を待った。


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