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王都のチートな裏ギルド嬢  作者: 秋津冴
2.ダンジョンの爆破魔

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8.ダンジョン崩落の危機


「いかがでしょうか。簡単な実演ですが」

「か、簡単って……?」

「簡単なものでしょう? 単に目標を設定してそこに周囲の魔力を集約し、加熱するだけの簡単なお仕事です」

「何が簡単よ!」


 シリルの吐き捨てるような一言が辺りに響いた。

 ナターシャはおや? という不思議そうな顔をして首を傾ける。

 エミリアは想像を超えた魔法理論に舌を巻いて何も言えなかった。


「簡単ですよ。簡単だし、それにこれなら方向も距離も関係ないですから」

「……」

「きっ、距離まで飛躍する? そんなことできるはず」


 そうね、エミリア。

 私もそう思うわとシリルは心で呟いた。

 どんな魔法も距離と速度は関係する。

 もっと具体的に言えば、時間と空間が絶妙にバランスを取りながら、魔法というものは発動するのだ。

 距離が関係ないと言われてしまったら、それはそのまま空間の干渉すらも関係ないということになる。

 そうなったら、どこから干渉して魔力を操作するっていうのよ、この化け物はッ!

 シリルとエミリアの心の悲鳴を他所に、ナターシャはではでは、と両手を差し出して見せた。


「なっ、何?」

「私はエミリアさんに差し上げましたので、今度はシリルさんに差し上げませんと」

「……私にまで教えてくれるって言うの? サービスが良すぎるんじゃない?」

「そうでしょうかー? 昨日はチョークを頂きましたし。それに円? 弧を描くことも教えて頂きましたし……あれで立体を操作する方法を覚えたのですよ」

「はあっ? じゃあ、なに……私があなたたちにそれを教えたから……今の指向性爆破魔法が完成した、とでも?」

「いえいえそうは言いませんが、あれはこのダンジョン内部でしか出来ませんから。ああ、そうそう空間を飛び越えて時間すらも跳躍するというのは、そういう意味です」

「えっと、シリルさん。どういう意味でしょう」

「エミリア、あなたそれでも学年首席だったの? このダンジョンの中だとどこにでも魔力があり、それはダンジョンコアが管理しているから、任意の場所とタイミングで爆破を行える。そういう意味でしょ、たぶん」


 どこででもやられたら、それこそ神々の御業じゃないの。

 あの朱色のばか猫がよくやるやつだけど、と思い返しながら相棒はいつまで経ってもやって来ないからやはり、今回は彼の出番はないらしい。

 この魔法、もらって帰ったところでダンジョンコアの管理下でなければたいして使い道はない。

 だけど、とシリルはふと思いつく。

 この中だったら、いつでもどこでも爆破できる。

 それも任意に、自在に、何の前振りもなしで。

 そう理解したらぞっとした。

 無邪気なハサイヒメの瞳の奥に宿る、遊んでくれなければ。

 気に入らなければいつでも破壊するという、子供のような理性の効かない本能に生かされた化け物がそこにいるからだ。

 そうなるとなるべく有利にそして賢くことを運ぼうとするのは、逆に愚かしいことだと気づく。


「遊びたいだけ? ほんとうに?」

「え? えーと。そうですねー遊びたいだけ、なにかを知りたいだけ。それが最初でしたけど。でも今はそうでもないのです。生みの親が大変でして」

「そうみたいね。でも、それをどうにかする方法を教えてあげたとして、私とエミリアは無事に地上に戻れるのかしら?」

「さあ、どうでしょう? それはダンジョンコアの判断することですから。事情を知られて戻したとして、それがいいことになるとは限りませんし」


 ヤバい、また進化してる。

 さっきは遊んでくださいっていう幼稚な面が強かったのに。

 今度は巣を守ろうっていう防御本能というか、これから先どうなるかっていう予測までし始めた。

 これは間違いなく、脅威だ。


「このダンジョン、閉鎖するってのは……どう?」

「閉鎖? どういう意味ですか?」

「上から下に降りてこないようにするって、そういう意味。私達が所属する総合ギルドはこのダンジョンの入出許可も出しているの。いわば、地上における門の管理人のような立場ね」

「んー……もし、閉鎖。つまり、入ってこないようにしても、誰か入ってきたらその場合はどうします? やっぱり、多いのですよ。地下深くまで降りてきて、ずっと管理してきたシステムを壊していく人たちが」

「そのシステムって言ってるものの、意味がわからないんだけど。何のことを意味しているの?」

「はえ? だからあなたたち、なんでしたか。冒険者が持って帰る金とか宝石とか、魔石とか。そういったものですよ」

「魔石とか宝石……まったくもって意味がわからないわ」

「だからー。持っていくじゃないですか、宝箱とかモンスターを倒した後に出る魔石とか。あれ全部、このダンジョンの構成要素そのものですよ」

「うっそ……」

「本当ですよ、エミリアさん」


 と、いうことは、だ。

 これまでこのダンジョンの最下層まで降りて攻略した手土産にと多くの冒険者が地上に持ち帰ってきた戦利品は、ほぼほぼそのすべてがこのダンジョンの一部ということになる。

 

「もし。そう、もしそれが戻ってきたらどうなるの?」

「戻ってきたらですか? んーそれは難しい問題ですね、シリルさん。だって、新しい部品は無くなればすぐに補充されてきましたから。いまさら古い部品を戻されても困ります」

「つまりこれから持ち出されたくないってことは……ダンジョンの構造そのものを維持できなくなった。その可能性があるのかしら」


 結論は意外なもので。

 そして、ナターシャは肯定とばかりに頷きながらこう言って退けた。


「そうですけど、ダンジョンコアを破壊するとか。新しく持ち出すとかはやめてくださいね? このダンジョンそのものが消失しますから、大地の中に埋まっている構造ごと」

「そっ、そんなことになったら上にある町一つが崩落するじゃないですか!」

「まーそうなりますねー」


 エミリアが悲鳴を上げ、のほほんとした口調でナターシャはそれを肯定した。



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